生成AIインフラの拡張に伴い、サーバー向け受動部品の需給が急速に逼迫している。積層セラミックコンデンサ(MLCC)世界2位のサムスン電機(Samsung Electro-Mechanics)は、2027年のMLCC売上高が8兆ウォンを突破する見通しを固め、下半期からOEM向け直販価格の引き上げを開始した。同じタイミングで世界首位の村田製作所が汎用9系列の生産終了(EOL)を打ち出した。2018年のメガサイクルを想起させる構造変化の中で、世界の受動部品サプライチェーンはどこへ向かうのか。
AIインフラが引き起こすMLCCの地殻変動
生成AI向けアクセラレータやサーバーの電力需要は、基板上の受動部品構成を根本から変えた。通常の汎用サーバーと比較して、AIサーバーは1台あたり10倍以上のMLCCを搭載する。
要求されるスペックも急激に高まっている。高熱を発するアクセラレータ周辺では高耐熱仕様(X6S規格など)と高容量化が求められ、電源ラインのノイズ除去と過渡応答を担う小型高容量品に需要が集中している。その結果、製造各社のラインでは先端品への生産能力シフトが急速に進み、従来の民生機器向け汎用品との間でラインの奪い合いが始まった。
この需給の歪みに対し、世界シェアの上位を占める日韓の二大巨頭が同時に動いた。サムスン電機は大型契約の獲得を背景にAI特化の増産と値上げへ踏み切り、村田製作所は長年供給してきたレガシー規格の整理に着手した。電子機器の末端を支える受動部品市場で、2018年以来となる規模の供給再編が始まっている。
2年で売上75%増、全社の半分を稼ぐMLCC
サムスン電機の急伸を裏付けているのは、韓国金融監督院の電子公示システム(DART)を通じて開示された相次ぐAIサーバー向け大型契約だ。サムスン電機が2026年に公示したAIサーバー向けMLCC販売供給契約は3件合計で1兆8,213億ウォン(4,540億ウォン、2,951億ウォン、1兆722億ウォン)に達し、単一契約として最大の9月公示分がその過半(58.9%)を占める。2026年6月30日に4,540億ウォン、7月23日に2,951億ウォン、そして9月1日には単一契約として過去最大となる1兆722億ウォンの販売供給契約を相次いで公表した。
これらの契約案件は、2027年からの本格供給開始を予定している。業界推計によると、サムスン電機のMLCC売上高は2025年の4兆7,150億ウォンから2027年には8兆2,410億ウォンへと約75%(3兆5,260億ウォン)拡大し、全社売上高(18兆500億ウォン)の45.7%を占める見通しである。2026年上半期のコンポーネント部門の平均販売価格は13.9%上昇しており、同社はAIサーバー向け市場で40%以上のシェアを握る。
これまでスマートフォンの出荷動向に業績を左右されてきたコンポーネント事業部門は、サーバー向け高付加価値品を主軸とする収益構造へ脱皮しつつある。
稼働率91%と強気の価格戦略:OEM向け直接値上げで汎用品を抑制
収益性の急向上を支えるのは、高水準の工場稼働率と強気の価格設定だ。サムスン電機の2026年半期報告書によると、コンポーネント部門の第2四半期末時点の生産能力6,156億個に対し、生産実績は5,614億個に達し、平均稼働率は91%を記録した。高容量MLCCのラインは実質的にフル稼働状態へ近づいている。
供給余力が限界に達する中、同社は2026年第4四半期からOEMおよびODM顧客への直接販売価格を引き上げる方針を固めた。流通代理店を通す通常の値上げ交渉とは異なり、大手顧客と直接結ぶ長期供給契約の単価を改定する異例の動きだ。
値上げ幅は製品群によって明確に差別化されている。サムスン電機が2026年第4四半期に実施するOEM向け直接値上げは、民生用X5R規格(25〜30%)がAIサーバー向け高耐熱X6S規格(10〜20%)に比べ引き上げ率が約1.5〜2倍高く設定されている。パソコンやスマートフォンに使われる民生用X5R規格は25〜30%の大幅値上げとなる一方、AIサーバーや車載向けの高耐熱X6S規格は10〜20%の上昇にとどまる。低採算の汎用注文に価格圧力をかけて受注を意図的に絞り込み、逼迫するクリーンルームと設備能力を利益率の高いAIサーバー向けへ振り向ける狙いがある。
村田の9系列EOLが引き起こす市場再編
サムスン電機がAI分野への集中を加速させる中、世界首位の村田製作所もまた大規模な製品ポートフォリオの刷新を打ち出した。同社は顧客や代理店に向け、主力民生用のGRM系列やGRJ、GRTのほか、GXMとGXT、車載向けのGCMとGCJ、GCGやZRAを含む計9系列におよぶMLCC製品の生産終了(EOL)通知を送付した。
通知によると、最終注文受付は2028年3月31日、最終出荷は2029年3月31日に設定されている。対象は比較的大型サイズのレガシー規格や低容量品を中心とする。
影響の範囲は極めて広い。村田製作所の年間売上高は約1.8兆円であり、MLCCがその過半を占める。EOL対象となる9系列はMLCC売上高の10〜20%(約900億〜1,800億円規模)に相当し、最終受注(2028年3月末)から最終出荷(2029年3月末)までの移行期に台湾・韓国勢へ大規模な転注機会をもたらす。同社は設備投資を高密度実装が求められる小型・超高容量品や高信頼性車載品へ集中させ、汎用品市場からの段階的撤退を進める方針だ。
2018年スーパーサイクルの再来か:台湾勢への転注と不可逆な構造変化
今回の市場変動は、受動部品業界を震撼させた2016年から2018年にかけての需給構造を彷彿とさせる。2016年、TDKが車載市場への集中を掲げて一般向け約280品目の供給終了を打ち出し、村田製作所も一部汎用品の縮小に追随した。その結果生じた供給不足は、2018年にMLCCの取引価格が数倍から数十倍に跳ね上がる歴史的スーパーサイクルへと発展した。
現在の状況は、当時よりも需要の伸びしろが大きい。サーバー向けMLCCの需要はAIモデルの巨大化に比例して拡大を続けており、サムスン電機の増産分は大手クラウド事業者向けで埋まりつつある。そこへ村田製作所による9系列のEOLが重なり、民生機器や産業機器のメーカーは代替調達先を確保しなければならない状況に追い込まれた。
最大の受け皿として浮上しているのが、台湾の国巨(Yageo)や華新科技(Walsin Technology)だ。すでに台湾系メーカーには欧米やアジアの顧客から代替品の打診や転注の打診が入り始めている。村田製作所の最終出荷期限である2029年3月に向けて、汎用品市場の主導権が台湾勢へ移る一方、日韓のトップ2社は先端AI領域での高収益体制を固める。受動部品市場の棲み分けは、不可逆な新段階へと突入した。
