米国の重要・新興技術(Critical and Emerging Technologies、CET)リストは、分野の数を18から14へ減らした。だが、数字以上に意味があるのは、2026年8月に公表された「National Security Science & Technology Strategy」(NSSTS)が、リストを国家安全保障戦略と連邦研究開発(R&D)の実装原則へ組み込んだことだ。2024年版は、資金配分や政策の優先順位表として解釈すべきでないと明記していた。新しいAppendix Aは、関係省庁にCETで米国の優位を保つR&Dを重点化し、国家安全保障目標への応用を優先するよう求める。
NSSTSは全24ページで、CHIPS and Science Actの42 USC 19221に基づく議会要求を満たす文書である。2025年の国家安全保障戦略を支える位置にあり、技術分野の一覧、連邦資金の考え方、安全保障上の需要を別々に置いてはいない。リストの用語が変わることは、製品カテゴリーの流行を判定する作業ではなく、研究資源をどの安全保障上の用途へ結び付けるかを選ぶ作業になった。
18分野から14分野へ、統合と語の削除を分けて読む
14分野という数字は、四つの技術領域がそのまま消えたことを意味しない。2024年版の「Advanced Engineering Materials」と「Advanced Manufacturing」は、2026年版で「Advanced manufacturing and materials」に統合された。「Highly Automated, Autonomous, and Uncrewed Systems and Robotics」も「AI and autonomy」に吸収されている。この二つの再編で、トップレベル分野は二つ減った。
残る減少分は、旧版の「先進ガスタービンエンジン技術(Advanced Gas Turbine Engine Technologies)」と「人間機械インターフェース(Human-Machine Interfaces)」がトップレベル区分としてなくなったためだ。ただし、後者の構成要素がすべて消えたわけではない。神経技術はバイオテクノロジーへ移り、脳・コンピューター・インターフェースは将来計算技術に入った。拡張現実、仮想現実、人間機械協調は同名で残っていない。
一方、個別の語には明確な入れ替わりがある。2024年の先進計算(Advanced Computing)にあった「先進クラウドサービス」と「高性能データ保存・データセンター」は、2026年の将来計算技術(Future computing technologies)には残っていない。同じ旧分野にあった先進モデリング・シミュレーション、データ処理・分析技術も見当たらなくなった。代わりに新リストは、フォトニック、ニューロモルフィック、非フォン・ノイマン型の計算方式を挙げる。戦術環境向けエッジコンピューティングとデバイス、脳・コンピューター・インターフェース、高セキュリティ計算を可能にする技術、消費者向けのセキュリティ強化OS、高度な空間コンピューティングも例示した。
エネルギーでも線引きは変わった。2024年の「クリーンエネルギー生成・貯蔵」は、再生可能エネルギーから炭素管理まで、発電、蓄電、系統統合を含む広い技術群を挙げていた。2026年の対応分野は原子力エネルギーであり、先進核分裂と核融合に加え、宇宙用原子力発電・推進、高温・耐放射線材料を列挙する。蓄電池や系統統合の語が消えたのは事実だが、これをエネルギー技術全体の重要性が下がったという判断へ広げることはできない。
ARとVRもAppendix Aから語としては消えた。ただし、高度な空間コンピューティングは残り、NSSTSはサブ分野を例示であって網羅的ではないと明記する。AR/VRのすべてを国家安全保障上の重要技術から外した、と読むには文書の範囲が狭すぎる。Appendix Aは国家安全保障に関連して重要な技術を選んだリストであり、社会や産業全体の評価表ではない。
追加された語は軍事利用と供給網の接点へ寄る
2026年版では、耐量子計算機暗号(post-quantum cryptography)と集積フォトニクス(integrated photonics)が明記された。材料分野には二次元材料(2D materials)と高エントロピー合金(high entropy alloys)が入り、デジタルスレッドとデジタルツインも加わる。AIと自律性の分野には、マルチエージェントシステム、群知能、自律エージェントの識別・認証が入った。新しい用語は、単なる分野名の並べ替えより具体的である。暗号や光と半導体の集積に加え、設計から製造までをつなぐ情報、複数エージェントの制御と認証が、国家安全保障上の用途との接続を示す語として前面に出た。
AIの書き方も変化している。2024年版にあった「AIの保証・評価技術」と「AIの安全性・信頼性とセキュリティ、および責任ある利用を改善する技術」は、2026年版に同名で載らない。代わりに「解釈可能性と制御」「敵対的攻撃への頑健性とAIセキュリティ」が列挙された。AI安全性そのものを放棄したのではない。旧来の包括語を、国家安全保障に直結する制御や頑健性へ置き換えている。
半導体・マイクロエレクトロニクスでは、設計自動化、製造工程・装置、beyond-CMOS、異種集積と先端パッケージング、特殊ハードウェア、MEMS/NEMSを引き続き含める。新たに新材料の例として二次元材料を明示し、集積フォトニクスも加えた。対して非フォン・ノイマン型アーキテクチャは将来計算技術へ移った。製造、材料、計算方式を一つの分野に閉じ込めず、どの安全保障用途へつながるかで整理し直したことが分かる。
Appendix Bは、これらの技術を戦場優位、本土防衛、変革的な新興技術の主導へ対応付ける。戦場優位には「宇宙・航空・長距離打撃(Space; Air; Long-range strike)」という一つの列、海中領域、国家安全保障上のAIと自律性の計3列がある。本土防衛側では、国境警備と核抑止・ミサイル防衛がそれぞれ一列を占める。サイバー防衛と生物兵器防衛を合わせた計4列である。製品市場の大きさより、軍事優位と本土防衛にどう効くかを前に出した構成である。供給網の強靱化や研究成果の保護も、戦略本体でCETを選別・実装する条件に置かれた。
リスト外でも、連邦支援が終わるわけではない
データセンターの語がCETから消えても、連邦の計算基盤支援がなくなるわけではない。FY2028 R&D優先順位メモNSTM-5/M-26-16は、機密研究向けの高セキュリティ・データセンターや、固有の連邦データを扱う専用AIアクセラレータなど、民間と差別化できる連邦計算基盤を求める。民間の計算資源が費用対効果と研究需要を満たせるなら、官民連携または調達を選ぶよう求めている。
蓄電池も同じである。M-26-16は、電気化学と固体イオニクスを基礎的な化学・材料科学として挙げ、それらがエネルギーの生成・貯蔵を支えるとする。CETの見出しから「蓄電池」という語が外れたことと、関連する連邦研究がゼロになることは別の話だ。
NSSTSの資金原則は、民間投資と競うのではなく、補完できる領域へ資源を集中するというものだ。政府は基礎研究や商業利益の動機が弱い分野を担う。初期・中期開発ではAI、量子、原子力を含むAppendix Aの分野で官民連携を優先し、バイオテクノロジーと宇宙も例示した。後期開発は原則として民間への依存を強める。M-26-16も各省庁に、後期開発より基礎研究の比率を高める方向を求め、後期開発を大幅に拡大する場合は連邦支援なしでは実現しない理由を示すよう求めている。
ただし、民間投資が多いからデータセンターをリストから外した、と文書は説明していない。民間との役割分担という資金原則と、語の削除を同じ因果関係として断定することはできない。確認できるのは、リストの用語と資金配分の原則が、同じ国家安全保障戦略の中で結び付けられた点までである。
法的効果はリストだけで決まらない
42 USC 19221(d)は、OSTP長官がOMBなどと協議し、最新の戦略や報告にある国家安全保障関連R&Dの勧告と優先事項を、連邦研究機関の年次予算要求へ組み込むことを確保するよう定める。したがってAppendix Aは、予算要求に接続する戦略上の参照点になる。ただし、リストだけで予算額、補助金の採否、輸出管理番号が決まるわけではない。各省庁のFY2028要求と技術別計画にどう反映され、議会の歳出を得るかが先にある。輸出・投資審査へ影響させる場合には、それぞれの法令・規則に基づく手続きが別途必要になる。
対米外国投資委員会(CFIUS)でいう「重要技術」にも、直接の自動変更はない。CFIUSの定義は31 CFR 800.215に基づく。米国軍需品リスト(USML)と一定の商務管理リスト(CCL)品目に加え、原子力関連、選択病原体・毒素、Export Control Reform ActのSection 1758で管理される新興・基盤技術などで構成される。CET Appendix Aへの掲載や削除は、その法的定義や輸出規制を直ちに書き換える行為ではない。
今回の更新を判断するには、14分野という数だけでは足りない。FY2028の予算要求で基礎研究と後期開発の比率がどう変わるか、各省庁がどのCETを安全保障用途へ結び付けるか、そして必要な規則改正が出るかを見る必要がある。そこで初めて、Appendix Aの用語の入れ替えが、研究開発と調達の現場に届いたかが見て取れるだろう。



