キオクシアが、NANDフラッシュの世代番号を単純な新旧の序列として扱わない製品展開に踏み出した。2026年7月30日、230層の第9世代BiCS FLASHを使う1Tb TLC製品と、332層の第10世代BiCS FLASHを載せた企業SSD「KIOXIA CM10シリーズ」のサンプル出荷を相次いで発表したのだ。前者は主にAI搭載PCやスマートフォン、後者はAI推論や企業システムを狙う。
二つの製品は、どちらもNANDインターフェース速度4.8Gb/秒に達する。違うのは、そこへと至る設計と投資の置き方だ。第9世代は既存のメモリセル技術を生かして設備投資を抑え、第10世代は積層数と平面方向の密度を高めて大容量化する。今回の同日発表で、キオクシアが掲げてきた「二軸戦略」がNANDデバイスとSSDの両方で動き始めた。
230層と332層が同じ4.8Gb/秒を狙う
第9世代の1Tb TLCは、第8世代をベースにした230層のメモリセルと最新のCMOS回路を組み合わせる。TLCは1セルに3bitを記録する方式だ。ここでいう1TbはNANDデバイスの密度をbitで示した値であり、利用者が使える1TBのSSD容量を意味しない。
キオクシアは、CMOS directly Bonded to Array(CBA)技術でメモリセルアレイとCMOS回路を別々のウエハーに作り、製造後に貼り合わせる。On Pitch Select Gate Drain(OPS)技術は未使用のメモリホールを減らし、ビットラインを短くするとともにワードラインの容量を抑える。いずれも第8世代から使っており、第9世代は既存工程を土台に性能を伸ばす側の製品だ。
| 第9世代1Tb TLC | 第10世代1Tb TLC | |
|---|---|---|
| 積層数 | 230層 | 332層 |
| NANDインターフェース | 4.8Gb/秒、第8世代比33%向上 | 4.8Gb/秒、第8世代比33%向上 |
| 主な狙い | 低~中容量帯の高性能、投資効率 | 大容量・高性能、企業/データセンターSSD |
| 今回確認できた段階 | 2026年7月30日にサンプル出荷を発表 | 2026年7月3日にサンプル出荷を発表 |
表から分かるのは、第10世代が常に第9世代より速いわけではないということだ。第10世代は332層化と平面方向の高密度化により、第8世代比でビット密度を59%高めた。書き込み時の電力効率は18%、読み出し時は30%改善したとされる。一方、第9世代は積層を230層に抑えながら、第10世代と同じ4.8Gb/秒を実現する。世代の役割は速度、容量帯、製造投資の組み合わせで決まる。
ただし、4.8Gb/秒や電力効率の改善率は、キオクシアの特定条件で測ったNAND側の値だ。SSDの実効性能はコントローラー、ファームウェア、誤り訂正、熱設計にも左右される。評価サンプルは量産品と仕様が変わる場合があり、第9世代1Tb品の量産時期は明らかにされていない。
CM10で第10世代BiCSがPCIe 6.0へ届く
第10世代BiCS FLASHの具体的な搭載先として現れたのが、KIOXIA CM10シリーズのE3.SとE1.Sモデルである。この2形式がキオクシア初のPCIe 6.0対応企業SSDとなり、NVMe 2.1とNVMe Flexible Data Placement(FDP)をサポートする。前世代CM9との比較では、シーケンシャルリードが最大約92%、ランダムリードが最大約85%向上したという。ただし、発表資料は絶対性能や比較条件を示していない。
CM10は読み出し中心の1 DWPDと、読み書きが混在する3 DWPDを用意する。DWPDは、保証期間中にドライブ全容量を1日何回書き換えられるかを示す耐久性の目安だ。E3.Sの読み出し中心モデルは最大61.44TB、混合用途モデルは最大51.2TBに達する。E1.Sは読み出し中心の3.84TBから15.36TBまでだ。
製品名だけを見て「CM10はすべてPCIe 6.0で第10世代BiCS」と理解すると誤る。PCIe 6.0と第10世代BiCSを採用するのはE3.SとE1.Sである。2.5インチ版はPCIe 5.0で、第8世代BiCS FLASHを使う。容量も読み出し中心で最大30.72TB、混合用途で最大25.6TBにとどまる。キオクシアは2.5インチ版だけ仕様を分けた理由を説明しておらず、採用側はシリーズ名ではなくフォームファクター別に確認しなければならない。
OCP Datacenter NVMe SSD Specification v2.7への「準拠」にも留保がある。キオクシア自身が、同仕様の全要件を満たすわけではないと注記している。セキュリティ面ではSPDM v1.4と、CNSA 2.0に沿った耐量子計算機暗号を掲げ、FIPS 140-3対応モデルは予定段階だ。規格名の列挙より、採用時には個別要件の適合範囲を確認する必要がある。
帯域を倍増すると冷却まで設計課題になる
PCI Express 6.0は1レーン当たり64.0GT/sへ引き上げ、PCIe 5.0の2倍の転送レートを狙う。PCI-SIGは、2値のNRZから4値のPAM4信号へ移り、低遅延の前方誤り訂正(FEC)と256-byte単位のFlitを導入した。KioxiaがCM10のE3.SとE1.Sで示す256GT/sは、PCIe 6.0を4レーン束ねた転送レートの合計であり、SSDが毎秒256GBを読み出せるという意味ではない。
CM10はE3.Sと厚さ9.5mmのE1.Sで、コールドプレートをSSDへ当てる直接液冷に対応する。E1.Sの15mm版は空冷専用で、すべてのフォームファクターは従来の空冷でも使える。キオクシアは直接液冷によってAIインフラの冷却システムを効率化できると説明するが、消費電力、温度、液冷時の持続性能は公表していない。効果は顧客評価で確かめる段階だ。
CM10が対応をうたうNVIDIA CMXは、想定用途を具体化する材料になる。CMXはBlueField-4でNVMe SSDを管理し、GPUメモリの外側にポッド単位で共有するコンテキスト層を置く。長い入力や複数回の対話で生じるKVキャッシュを保存・共有する構成だ。ただし、CM10を組み込んだ際の効果は示されておらず、CMXにPCIe 6.0が必須だとも発表されていない。
サンプル出荷の先に量産と実測が残る
CM10は限定顧客向けのサンプル出荷を始めた段階であり、量産や一般提供には達していない。2026年8月4日から6日に米カリフォルニア州サンタクララで開かれるFMSで展示する予定だ。価格と量産時期は未公表である。消費電力や液冷時の持続性能も明らかになっていない。
PCIe 6.0企業SSDの競争では、Samsung Electronicsが7月8日にPM1763の量産開始を発表済みである。したがって、CM10の「初」はキオクシア社内の製品世代を指し、業界初ではない。Samsungが量産へ進んだ一方、Kioxiaは第10世代1Tb TLCを7月3日、第9世代1Tb TLCとCM10を7月30日にサンプル出荷し、用途ごとにNAND設計を分けながら並行して評価段階へ進めた。
次の判断材料は層数や規格名ではない。CM10が同じ容量・耐久性・冷却条件でどれだけの読み出し性能を維持し、1台当たりの消費電力をどこまで抑えられるか。そこに量産開始時期と顧客採用が加わって初めて、二軸戦略が製造投資とAIストレージの双方で成果を上げたかを測れる。



