BYDの電動スーパーカー「YANGWANG U9 Xtreme」が2026年11月1日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビにある閉鎖された公道で、最高速度503.17km/hを記録した。BYDと国際自動車連盟(FIA)が11月6日に発表したもので、ドライバーはMarc Bassengが務めた。Guinness World Recordsは「一方向の走行における量産車の最高到達速度」と、電動量産車における同区分の記録として認定している。一方向での最高到達速度は、往復走行の平均速度とは異なる指標だ。Guinness World Recordsの説明によると、車載速度計と校正済みのVBOXによって速度が独立検証され、FIAの担当者が計測データを審査したという。

今回の503.17km/hは、前年9月にドイツのATP試験場で記録した496.22km/hを6.95km/h上回る。ただし、前年の試験場と今回の公道では走行条件が異なるため、単純な性能比較はできない。注目すべきは、3000PSを超える大出力だけでなく、その力を路面に伝えるために行われた細かな調整だ。初日の490km/hから翌日の500km/h突破に至る過程を見ると、電源システム、車体の姿勢制御、タイヤの接地条件がいかに重要だったかが分かる。

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3019PSを支える1200V電源と30C放電

U9 Xtremeは4基のモーターを搭載する。BYDによると、各モーターの最高出力は555kW、最高回転数は3万rpmで、車両全体の出力は3019PSに達するという。4基の最高出力を単純に合計すると2220kWとなる。なお、ここで使用されているPSはメートル法に基づく馬力の単位で、英馬力を表すhpとは区別する必要がある。

これほどの出力を引き出すには、モーターの性能だけでなく、電池から大量の電力を供給できることが不可欠だ。U9 Xtremeは1200Vの電源システムを採用し、従来のU9の800Vから大幅に高電圧化している。最高出力も従来モデルの1287PSから3019PSへと引き上げられた。ただし、これらはU9 Xtreme自体の仕様であり、今回の最高速走行に向けて新たに追加された技術というわけではない。

電池にはリン酸鉄リチウム(LFP)を使用したブレードバッテリーを採用し、BYDは最大30Cの放電能力を持つと説明している。Cレートとは、電池容量に対してどの程度の速さで充放電するかを表す指標だ。30Cは理論上、満充電相当の容量を2分間で放電する割合に相当する。ただし、これは充電速度を表すものではなく、最高速度を2分間維持できることを意味するわけでもない。

BYDはさらに、バッテリー残量が20%の状態でも1800kWの電力供給に対応できるとしている。残量が少なくなっても大出力を引き出せるという主張だが、その際の電池温度や出力を維持できる時間など、詳しい条件は十分に公開されていない。したがって、電池の放電能力と、実際の走行で高出力を持続できる時間は分けて考える必要がある。電源システムとモーターは高い最高速度を達成するための基盤となるが、実際に加速を続けるには、その出力を路面へ確実に伝えるための車体制御やタイヤの性能も重要になる。

490km/hから503.17km/hへ、温度管理と接地条件を最適化

記録走行が行われたのは、アブダビのAl DhafraにあるE11号線「Sheikh Khalifa Bin Zayed International Road」だ。BYDが確保した閉鎖区間は全長10kmで、最も長い直線区間は7kmに及ぶ。チームは砂漠の砂や日常的な交通による汚れを取り除くために路面を清掃し、清掃ブラシから残った金属片まで全区間にわたって点検したという。500km/hを超える走行では、路面に残った小さな異物も重大な危険につながるためだ。

10月31日に実施した2回の走行では、最高速度は490km/hにとどまった。そこでチームは翌日の走行に向け、バッテリーとモーターの走行開始時の温度を最適化するとともに、空力特性やサスペンション、タイヤの設定を見直した。11月1日にも2回の走行が行われ、2本目で503.17km/hを記録した。この経緯はFIAの公式発表でも確認できる。

空力面では、リアウイングの角度を変更し、後輪側のダウンフォースを増やした。ダウンフォースとは、走行中の空気の流れによって車体を路面へ押し付ける力で、タイヤの接地を安定させる役割がある。また、サスペンションの制御ソフトウェアも変更し、路面のうねりに対応できるよう、サスペンションが伸びる動きを抑える「伸び側の減衰力」を高めた。さらに、タイヤの空気圧も微調整し、超高速域での接地条件を整えている。

U9 Xtremeには、各輪のサスペンションを能動的に調整するBYDの車体制御システム「DiSus-X」も搭載されている。BYDによれば、加減速に伴う車体姿勢の変化を制御し、タイヤの接地状態を安定させる仕組みだ。各車輪に伝える駆動力を個別に調整するトルク配分制御も備え、毎秒100回以上の頻度で駆動力を調整するという。さらに、タイヤとリムの間で生じる相対的な滑りを抑える加工も施しており、駆動力を路面へ伝える部分まで対策を徹底している。

タイヤの技術的な背景については、Gitiが2025年9月に発表した資料が参考になる。共同開発した「GitiSport e.GTR2 Pro」には超高強度のアラミド繊維を採用し、極めて高い速度域で生じるタイヤの変形に対処したという。同社は室内試験で500km/hに相当する速度条件での検証を実施したとも説明している。ただし、これはタイヤ単体の室内試験であり、完成車による500km/h超の実走行とは異なる。また、この資料だけでは、2026年の記録走行に使用されたタイヤが前年と完全に同じ仕様だったかどうかも確認できない。

今回の走行では、バッテリーとモーターの温度管理、リアウイングの角度、サスペンションの制御、タイヤ空気圧など、複数の条件が同時に調整された。したがって、これらの対策を組み合わせた結果として503.17km/hに到達したことは分かるものの、個々の変更が最高速度の向上にどの程度寄与したかは明らかではない。例えば、リアウイングの角度変更やタイヤ空気圧の調整だけで何km/h向上したのかを判断できるデータは公表されていない。

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503.17km/hの記録が証明したこと、まだ分からないこと

今回の記録を評価する際には、認定機関が検証した事実と、メーカーが公表した技術仕様や走行条件を区別する必要がある。503.17km/hという到達速度は計測データに基づいて認定されているが、電源システムの出力特性や車体制御の効果については、主にBYDの説明に依拠している。また、タイヤ単体の室内試験が、完成車の実走行性能を直接証明するわけではない。以下では、認定範囲、電力供給、接地・走行準備という3つの観点から、確認できた事実と評価上の留意点を整理する。

確認項目 公表資料で確認できる内容 評価する際の留意点
記録の認定範囲 一方向の走行で503.17km/hに到達。校正済みVBOXなどで速度を検証し、FIAがデータを審査した 往復平均速度とは別の指標。風向や勾配の具体的な数値、往復平均速度は示されていない
電力供給 1200V電源システム、30C放電能力、残量20%でも1800kWを供給できるというBYDの説明 電池温度や出力の持続時間などが十分に公開されておらず、最高速を維持できる時間は判断できない
接地・走行準備 温度管理、リアウイング、サスペンションの減衰力、タイヤ空気圧を複合的に調整。Gitiは前年にタイヤ単体の室内500km/h試験を公表 各調整の寄与度は不明。前年のタイヤ試験から今回の走行時の仕様や条件が同一だったとは断定できない

数値上の記録更新率は、(503.17-496.22)÷496.22×100≒1.40%となる。計算にはBYDとFIAが示した今回と前年の速度を使用している。ただし、両記録は異なる場所と時期に達成されたものであり、同一条件で車両性能が1.40%向上したことを意味するわけではない。

もう一つの焦点は、この記録が市販されるU9 Xtremeの性能とどのようにつながるかだ。BYDによれば、生産基準を満たす最初の車両「U9X Dawn Moment」は2026年の北京モーターショーで公開され、世界限定30台の生産が計画されている。一部の顧客はすでに個別仕様を承認し、契約締結や生産スケジュールの調整へ進む段階にあるという。ただし、30台すべてが納車されたわけではなく、記録車と顧客向け車両の仕様や制御設定が完全に一致するかどうかも明らかになっていない。

今回の503.17km/hは、電動量産車が実際の走行で500km/hを超えたことを、第三者による検証を通じて示した成果だ。一方、その性能を発揮するには、車両の大出力だけでなく、入念な温度管理や車体の調整、路面条件の整備が必要だった。今後は、顧客に引き渡される車両がどのような仕様となり、どの程度の走行条件で記録車の性能を再現できるのかが注目される。こうした情報が明らかになれば、世界記録としての成果と、市販車としての実際の性能をより正確に評価できるだろう。