米オークリッジ国立研究所(ORNL)は2026年10月22日、AIや先端製造技術を活用し、米国の製紙・林産物産業の近代化を支援する研究拠点「CRAFT」を発表した。複数の国立研究所が連携し、AIによる材料・工程の探索や操業データの解析を、パルプ化、脱水、乾燥などの製造工程の改良につなげる。企業が研究設備や試験機会を利用できる仕組みを整え、新技術を実際の工場に導入する前に、その性能や経済性を検証できるようにする計画だ。

CRAFTは長期目標として、製造工程のエネルギー効率を10〜25%向上させ、生産コストを最大17%削減することを掲げる。ただし、これらは今後の研究開発によって目指す数値であり、今回の発表で実証された成果ではない。重要なのは、AIによる技術開発だけでなく、研究成果を実際の製造現場で利用できるか判断するための仕組みを整備する点にある。

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4つの国立研究所が連携、2,000万ドルで製紙産業の近代化を支援

CRAFTはORNLとロッキー国立研究所(National Laboratory of the Rockies:NLR)が中心となり、パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)とアイダホ国立研究所(INL)も参加する共同研究拠点だ。資金は米エネルギー省(DOE)のIndustrial Technologies Officeが提供し、連邦政府からの支援額は2,000万ドルとされる。複数の国立研究所が持つ研究設備や専門知識を集約し、製紙・林産物メーカーの技術的な課題に対応する。

CRAFTの公式説明によると、拠点の目的は、企業ごとの技術的・事業的な課題に応じて、研究開発に必要な資源や試験機会を提供することにある。参加対象は製紙・林産物メーカーだけでなく、製造設備の供給企業や、紙製品などを利用する下流の顧客にも広がる。研究所が開発した技術を一方的に企業へ提供するのではなく、製造現場や顧客のニーズを起点として研究課題を設定する仕組みだ。

DOEの採択資料では、CRAFTの対象として既存工場の改良と新設工場向けの技術開発の双方を挙げている。2,000万ドルは、同資料に掲載された16件の採択案件のうち、CRAFTに割り当てられた金額だ。ただし、DOEは採択額や費用分担額が今後の交渉によって変更される可能性があると注記しており、最終的な支出額が確定したことを意味するものではない。

AIとデジタルツインで製造工程の効率化を目指す

CRAFTの研究対象は、木材などから製紙用の繊維を取り出すパルプ化、使用した薬品を再利用する薬品回収、紙を形成する抄紙工程、水分を除去する脱水・乾燥工程など、多岐にわたる。これらの工程に対し、分子レベルから製造工程全体までを対象としたモデル化、AIによる新技術の探索、実験による性能検証を組み合わせる。製造プロセスそのものを改良する研究に加え、代替材料や新しい製造方法の開発も進める方針だ。

既存工場の操業改善には、センサー、AI、デジタルツインなどの技術を活用する。デジタルツインは、実際の設備や製造工程の状態をデジタル空間に再現し、運転条件の分析や変更による影響の検討に役立てる技術だ。CRAFTでは、こうした手法を操業データの解析と組み合わせ、エネルギー消費や生産効率の改善につなげることを目指す。

ただし、AIによる解析結果をそのまま工場の改善効果として扱うわけではない。モデルが提案した工程条件や技術的な改良案については、実験や試験設備を通じて性能と適用可能性を検証する必要がある。ORNLは企業と協力し、研究の初期段階から試験への投資を検討するとともに、自動化、モデル化、データ解析などの技術を利用できる環境を整える計画だ。

この仕組みの狙いは、研究段階で有望と判断された技術を、実際の工場に導入する前に評価できるようにすることにある。製造業では、新しい工程や設備が研究室で優れた性能を示しても、既存設備との適合性や生産規模への拡大、導入費用などが障壁となる場合がある。CRAFTは研究資源と試験機会を結び付けることで、企業が技術的な有効性だけでなく、投資に見合う改善効果が期待できるかを判断するための材料を提供する。

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エネルギー消費の大きい乾燥工程も研究対象に

製紙産業のエネルギー効率改善は、DOEが以前から取り組んできた課題だ。DOEが2015年に公表した米国のパルプ・製紙産業に関する調査では、6つの製造工程についてエネルギー消費量を推計し、既存技術や開発中の技術によって削減できる可能性を分析した。調査対象の6工程は産業全体のエネルギー消費量の52%を占めており、その分析結果を基に業界全体の省エネ余地も推計している。

この52%は調査対象となった工程のエネルギー消費割合を示すもので、省エネによって削減できる割合ではない。また、2015年の調査結果はCRAFTによる研究成果ではなく、製紙工程のエネルギー消費と改善の可能性を把握するための過去の分析だ。製紙産業全体の効率を高めるには、各工程のエネルギー消費を把握し、改良の対象と方法を具体的に検討する必要があることを示している。

乾燥工程については、以前から新しい水分除去技術の開発も進められている。例えば、DOEが2021年4月29日に公開した資料では、ミネソタ大学が高周波と超音波を従来の製造工程に組み合わせ、水分除去の効率を高める技術を開発する計画が示された。このプロジェクトは設計、開発、製作、試験を対象としており、研究段階の技術を実際に構築して検証することを目的としていた。

ただし、この技術が実用化されたことや、CRAFTの研究に採用されることが決まったわけではない。過去の研究開発とCRAFTに共通するのは、工程の改良技術を研究室で開発するだけでなく、設備としての性能や実用性を検証する必要があるという課題だ。CRAFTでは、こうした検証を行うためのパイロット規模の試験機会を整備し、企業が新技術の商用化や既存設備への導入を判断できるようにする。

エネルギー効率10〜25%向上、コスト最大17%削減を長期目標に

CRAFTは最初の3年間で研究開発と技術検証の基盤を整え、長期的には製紙・林産物産業のエネルギー効率と生産コストの改善を目指す。公式ページでは、エネルギー効率を10〜25%向上させ、生産コストを最大17%削減するという目標を掲げている。

項目 計画・目標 時期・条件
連邦政府の支援額 2,000万ドル FY2025〜FY2027の採択資料に記載。金額は交渉により変更される可能性がある
研究基盤の整備 研究ツール、パイロット規模の試験設備、専門家ネットワーク、商用化支援体制 最初の3年間
エネルギー効率 10〜25%向上 長期目標
生産コスト 最大17%削減 長期目標

重要なのは、最初の3年間の計画と長期的な改善目標を区別することだ。3年間で整備するのは研究設備や試験機会、企業との連携体制などであり、その期間内にエネルギー効率や生産コストの目標値を達成すると約束しているわけではない。また、エネルギー効率の向上率はエネルギー消費量の削減率と必ずしも一致せず、両者を単純に置き換えることはできない。

現時点では、目標値の算定に用いた基準工場や対象工程、具体的な達成期限、実際の工場で測定した改善結果は示されていない。企業がCRAFTを利用する際の設備の利用可能状況や契約条件についても、個別の確認が必要となる。今後、パイロット試験によって対象工程や比較条件、エネルギー消費量、生産コスト、設備投資額などが明らかになれば、企業は自社工場への導入効果をより具体的に判断できるようになる。

CRAFTの意義は、AIを利用した新技術の開発だけでなく、その成果を製造現場で検証し、商用化へつなげる体制を整えようとしている点にある。エネルギー効率10〜25%向上と生産コスト最大17%削減という目標がどこまで実現可能なのかは、今後の試験で明らかになる。研究室での技術開発と工場での実用化の間にある隔たりをどこまで埋められるかが、この取り組みの成果を左右することになる。