米戦略国際問題研究所(CSIS)のFutures Labは2026年10月8日、中国の調査船が、他国の調査船と比べて公海上の海底インフラ付近に長く滞在する傾向があるとの分析結果を発表した。48カ国223隻の航跡を比較したところ、中国籍の船舶と海底インフラ付近で過ごす時間の割合に、統計的な関連が認められたという。報告書では、グアム沖や西太平洋で測量とみられる航跡を繰り返した中国の調査船2隻についても詳しく分析している。

分析対象は2020年1月1日から2025年12月9日までの航跡で、成果は学会への提出原稿を政策向けに再構成したホワイトペーパーとして公開された。研究にはGeneral Atomicsが支援を提供し、船舶の追跡にはOptixのデータが使用されている。ただし、船舶が海底インフラ付近に滞在していたという事実だけで、妨害工作や軍事目的の情報収集を立証できるわけではない。今回の報告は、航跡の統計分析から不審な活動を把握する可能性を示す一方、船舶の行動から任務の目的を特定することの難しさも浮き彫りにしている。

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223隻の航跡を比較、中国船と海底インフラ付近の滞在時間に関連

研究チームは、漁業調査船や海洋調査・測量船などを抽出し、船舶情報サービス「MarineTraffic」を使って船種と船舶識別番号(MMSI)を確認した。その結果、48カ国223隻を分析対象に選定した。ただし、これは一定の条件に基づいて抽出した標本であり、世界各国の調査船を網羅したものではない。また、船舶によっては、特定の年に船舶自動識別装置(AIS)の観測データが存在しない場合もあった。

比較に用いた指標は、AISデータの時刻差から推定した各船の追跡時間のうち、公海上の海底インフラ付近で過ごした時間の割合だ。研究チームは、海底光ケーブルとガスパイプラインの地図上の経路から1km以内を「近傍」と定義し、周辺での活動や位置情報の誤差も考慮できるようにした。ただし、この方法で分かるのは船舶が地図上の海底インフラ付近にいたかどうかであり、実際に設備へ接近・接触したことを直接確認できるわけではない。近傍にいたと判定されても、船舶がケーブル本体の正確な位置を特定していたとは限らない。

CSISの報告書の7ページにある脚注2と25〜28ページに基づき、分析の主な条件と数値を整理すると次のようになる。

数字・条件 意味
223隻・48カ国 船種などを検証して選定した調査船の標本
2020年1月1日〜2025年12月9日 航跡データの観測期間
海底インフラから1km ケーブルやパイプラインの近傍と判定する距離
各船の推定追跡時間 近傍で過ごす時間の割合を算出する際の分母
調整済み決定係数(R²)約1.3% 回帰モデルがデータの変動を説明できる割合

これらの数値は、それぞれ調査対象の規模、空間的な判定基準、統計モデルの説明力を表しており、破壊工作の発生件数や攻撃確率を示すものではない。国籍別の回帰分析では、中国、米国、ロシアを個別に扱い、残る45カ国を共通の比較基準とした。付録の表A3に記載された観測数1,177は、船舶ごとの年次データを集計した「船舶×年」の件数であり、1,177隻を調査したという意味ではない。同じ船舶の複数年にわたるデータが含まれるため、船舶数と観測数を区別する必要がある。

分析によると、大半の船舶では、年間の追跡時間に占める海底インフラ近傍での滞在時間は1%未満だった。一方、2024年には中国の調査船7隻が80パーセンタイルを超え、標本の上位約20%に入った。ただし、米国の調査船が上位に位置する年もあり、海底インフラ付近に長く滞在する行動が中国船だけに見られるわけではない。また、比較しているのは追跡時間に占める割合であり、実際の滞在時間の長さをそのまま順位付けしたものではない。

なお、この統計分析では海底光ケーブルだけでなく、ガスパイプライン付近で過ごした時間も集計対象に含まれている。報告書では、こうした海底インフラ全体の分析に加え、特定の通信ケーブル付近で繰り返し調査活動を行った中国船2隻の航跡を詳しく検証した。全体の統計的な傾向と、個別の通信ケーブルに関する事例分析は分けて捉える必要がある。

グアム沖で繰り返された測量状の航跡、鉱物探査との関係は

最初の事例として取り上げられたのは、中国の海洋調査船「向陽紅06」だ。同船は2024年2〜5月にかけて、グアム沖の公海へ3回展開し、海底通信ケーブル「Apricot」と「AAG」の地図上の経路付近で、測量活動とみられる航跡を残した。航跡には、平行な測線を何度も往復する「芝刈り機状」のパターンが見られ、海底地形の測量で一般的に用いられる航行方法と整合していた。

研究チームが注目したのは、こうした航跡と海底ケーブルの位置関係に加え、鉱物資源の有望地域との重なりだ。初期の調査海域は、コバルトを多く含む鉄マンガン殻の有望地帯や、米地質調査所(USGS)が示す鉱物資源の有望地域から外れていたという。一方で、航跡は海底通信ケーブルの近傍に集中していた。著者らはこの位置関係をもとに、鉱物探査という説明が当初の活動内容とどこまで一致するかを検討した。

7月の調査海域には、ACC-1、AAG、SEA-USという海底通信ケーブルの地図上の経路が含まれていた。ただし、ACC-1は建設計画中の回線であり、航跡がその予定経路と重なっていても、既設ケーブルの調査が行われたことにはならない。航跡と海底インフラの関係を評価する際には、運用中の設備と計画段階の経路を区別する必要がある。

8〜10月になると、向陽紅06の調査範囲は拡大し、航跡の密度も高まった。活動海域は鉱物資源の有望地域にも広がっており、著者らは、初期の情報収集を目的とした可能性のある活動から、鉱物探査を中心とする活動へ移行したとの見方を示している。ただし、これは航跡と海底地形・鉱物資源の分布を照合した推測であり、実際の任務命令や取得データを確認した結果ではない。

また、既知の鉱物資源の有望地域から外れていたからといって、科学調査の可能性を排除できるわけでもない。報告書は、海底地形や海水温、塩分濃度、海流などのデータが、海洋科学だけでなく、潜水艦の運用やソナーの性能評価にも利用できると説明している。つまり、科学調査で得られる情報が軍事的にも価値を持つことはあり得るが、それだけで調査の目的が軍事的だったと断定することはできない。今回の航跡分析からは、向陽紅06が実際にどのような観測機器を使用し、何のデータを収集したのかまでは明らかになっていない。

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科学号は西太平洋からベーリング海へ、複数の海底ケーブル付近で活動

もう1隻の事例は、中国の海洋調査船「科学号」だ。同船は2024年3〜5月にかけて、沖ノ鳥島の西方海域へ繰り返し展開した。CSISは、海底通信ケーブル「TGN-IA」「Apricot」「JUPITER」の付近を航行したり、地図上の経路を横切ったりする航跡を確認している。向陽紅06の事例では時期によって調査海域が変化したのに対し、科学号では同じ海域への反復的な展開と、その後の広範囲にわたる移動が特徴となっている。

科学号は7月半ば以降、日本海と津軽海峡を経由してベーリング海へ向かい、複数の国際海底通信ケーブル付近で測量状の航跡を残した。報告書では、ロシアの海底通信ケーブル「Polar Express」付近での活動も取り上げられている。航跡が重なった回線には中国が権益を持つものも含まれており、中国以外の国に関係する通信ケーブルだけを選んで活動していたと一般化することは難しい。

こうした航跡を評価する際には、単にケーブルの経路を横切ったかどうかだけでなく、特定海域への反復的な訪問や、複数の海域にまたがる測量状の航行パターンにも注目する必要がある。ただし、同じ場所で繰り返し活動していたことが、そのまま破壊工作の証拠になるわけではない。CSISも、単発の航跡やケーブルとの交差には通常の調査活動などによる説明が成り立つ可能性を認めている。寄港やAIS信号の途絶についても、それだけで不正な活動を示すことはできない。

今回の2隻の分析は、海底通信インフラ周辺での活動を継続的に監視するうえで、過去の航跡が有用な手掛かりになることを示している。一方、AISから把握できるのは基本的に船舶の位置と移動の履歴であり、海中で実施された作業の内容ではない。実際に何を測定し、どのような目的で航行していたのかを明らかにするには、航跡以外の情報による裏付けが不可欠となる。

統計的な関連は確認されたが、船舶の任務や意図は立証できない

CSISの統計分析では、中国籍の調査船であることと、海底インフラ付近で過ごす時間の割合との間に正の関連が認められ、分析条件を変更した頑健性の検証でも、その関連は維持された。ただし、統計的な関連が確認されたことと、国籍によって個々の船舶の行動を十分に説明できることは別だ。付録の表A3によると、回帰モデルの調整済み決定係数(R²)は約1.3%にとどまっている。これは、モデルが滞在時間割合の変動のうち、ごく一部しか説明できていないことを意味する。

説明力が低いからといって、確認された統計的な関連が無意味になるわけではない。しかし、船舶の行動には国籍以外にもさまざまな要因が関わるため、旗国だけから任務の目的や活動内容を推定するには限界がある。著者らも、今後は行動に関係する変数を追加し、標本を拡大する必要があると指摘している。また、追加モデルでは推定精度が弱まることも報告されており、分析結果の解釈には慎重さが求められる。

CSISは、今回の研究結果について、個々の船舶の任務や意図を立証するものではないと明確に留保している。特定の国籍や反復的な航跡を監視の優先順位を決める手掛かりにすることは考えられるが、それだけで軍事目的の情報収集や破壊工作を認定することはできない。航跡から分かる行動の特徴と、その背後にある意図の推測は、明確に区別する必要がある。

一方、海底通信インフラの安全保障を考えるうえでは、船舶の意図を見極めることに加え、実際にケーブルが損傷した場合の通信への影響を把握することも重要になる。米中経済安全保障調査委員会(USCC)が2026年9月22日に公開した委託調査報告の要旨は、海底ケーブルの断線の多くが事故や自然要因によって発生していると指摘したうえで、回線損傷時のネットワークへの影響をシナリオ分析している。ただし、これはCSISの航跡分析とは別の研究であり、その結果を追試したものではない。

USCCの分析によると、単一の海底通信ケーブルが損傷しただけでも、米国と台湾、日本、フィリピンを結ぶ直接経路の利用可能な通信容量が圧迫され、通信の一部がより遅い迂回経路へ振り分けられる可能性がある。複数の回線が同時に損傷した場合には、太平洋全体の通信ネットワークで利用できる余剰容量がさらに不足するおそれがあるという。ただし、これは想定した障害条件に基づくモデル分析であり、実際に発生した通信障害の測定結果ではない。また、日本全体の通信が停止することを予測したものでもない。

こうしたリスクへの対応として、CSISの著者らは国際的な情報共有や共同巡視の強化に加え、地域の修理拠点や多国籍の海底ケーブル修理船団への投資を提言している。USCCも、監視体制の整備だけでなく、通信経路の冗長化と修理能力の強化を求めている。いずれも政策提言であり、具体的な施策の実施が決まったわけではない。

今回の研究は、中国の調査船と海底インフラ付近での滞在時間に統計的な関連があることを示した一方、個別の任務や意図を特定するには至っていない。今後は、船舶が実際に実施した調査内容や取得データを確認できるかが、航跡分析の妥当性を評価するうえで重要になる。同時に、海底ケーブルの損傷によってどの通信経路の容量が失われ、迂回経路や修理によってどこまで補えるかを検証することも欠かせない。事故と意図的な損傷のどちらにも備えるには、不審な活動の監視と、障害発生後の通信を維持・復旧する能力の両方を強化する必要がある。