米原子力関連企業Holtecは2026年10月21日、ミシガン州のパリセード原子力発電所で、傾いた燃料集合体の回収を完了し、使用済み燃料プールに移したと発表した。燃料装荷作業の再開に向けた重要な工程が完了したことになる。ただし、今回の回収成功は、原子炉の再稼働に必要なすべての準備が整ったことを意味するわけではない。
Holtecが進めているのは、出力800MWの既存原子炉を再稼働させ、発電を再開する計画だ。米エネルギー省(DOE)は最大15億2,000万ドルの融資保証を通じて、この事業を支援している。一方、米原子力規制委員会(NRC)は、燃料集合体の回収方法を変更することを認めた10月13日、同発電所の調達部門と品質保証部門で、安全上の懸念を報告しにくい職場環境が存在すると認定していた。燃料集合体を安全に回収できたかという技術的な問題と、職員が問題を報告し、適切に是正できる組織体制が整っているかという問題は、別々に評価する必要がある。再稼働に向けた進捗を判断するには、設備面の作業だけでなく、職場環境の改善や運転員の資格審査がどこまで進んでいるかも確認しなければならない。
傾いた燃料集合体を回収、通常とは異なる移送方法を採用
Holtecがパリセード原発で燃料装荷を開始したのは2026年8月30日だった。同社の9月21日の発表によると、燃料棒を束ねた「燃料集合体」を設置し、把持具を解除した後に集合体が傾いたため、装荷作業を停止したという。Holtecは、この事象を受けて根本原因の調査を開始したと説明している。ただし、燃料集合体が傾いた正確な日付は、この発表では明らかにされていない。
問題となった燃料集合体「DD41」は、約30度傾いた状態になっていた。このため、通常の燃料交換機と移送管を使った方法では回収できず、専用の装置と「燃料移送容器」を使用する必要が生じた。燃料移送容器は、燃料集合体を内部に収容し、放射線を遮蔽するとともに、放射性物質を閉じ込める機能を維持しながら移送するための設備だ。今回の回収では、通常の燃料移送とは異なる作業条件への対応が求められた。
NRCは10月13日付の承認文書で、DD41の回収に限って適用する一度限りの特別な操作を認めた。この承認には、最終安全解析報告書の変更が含まれており、専用容器を使って燃料集合体を空気中で移送する方法が認められている。通常の水中移送とは条件が異なるため、NRCは放射線遮蔽や燃料集合体の落下時に想定される影響、熱の管理などを評価した。承認は、移送経路や作業条件に応じた安全解析に基づくものであり、特定の回収作業に限定されている。
安全性を確認するうえで重要な対象の一つが、燃料棒の「被覆管」だ。被覆管は核燃料を覆い、内部の放射性物質を閉じ込める役割を持つため、燃料集合体が傾いたことや支持構造が変形したこととは別に、損傷の有無を確認する必要がある。NRCの文書では、化学試料の分析と水中映像による確認結果を踏まえ、移送前の段階で被覆管が破損した兆候はないと評価していた。さらに、回収手順には作業中の追加損傷を監視する方法や、異常が認められた場合の作業中止基準も定められている。NRCの安全評価は、こうした監視措置と解析条件を含む、具体的な回収手順に対するものだ。
Holtecの10月21日の発表によると、DD41は専用装置と燃料移送容器を使って回収され、使用済み燃料プールへの移送を完了した。同社は、一連の作業を安全に実施したと評価している。今回の回収成功によって燃料移送に関する一つの課題は解消されたものの、燃料集合体が傾いた根本原因と、その再発を防ぐための対策については、別途確認が必要だ。回収作業の完了を、そのまま原子炉の運転再開に必要な準備全体の完了と捉えることはできない。
調達・品質保証の2部門で、安全上の懸念を報告しにくい職場環境
設備面の対応が進む一方、NRCはパリセード原発の組織運営についても問題を指摘している。NRCは2026年7月20日から9月3日にかけて職場環境の検査を実施し、120人を超える職員への聞き取りなどを行った。10月13日付の書簡と検査報告書によると、多くの職員は安全上の懸念を報告できると認識していたものの、調達部門と品質保証部門では、報復を恐れて問題の報告をためらう職場環境が存在すると認定された。なお、120人超という数字は検査全体で聞き取りを受けた人数であり、問題が認定された2部門の職員数や、報復を恐れている職員の全社的な割合を示すものではない。
職員が懸念していた報復には、解雇も含まれていた。検査官は、調達や適格性確認に関する問題、作業管理や実施手順への懸念を伝えにくいとする証言を記録している。また、品質保証部門が独立性を保てているかを疑問視する声もあった。ただし、これらは職員の認識や証言を踏まえた職場環境の評価であり、実際に違法な報復行為があったと立証されたことを意味するわけではない。
品質保証部門の職員が問題を報告しにくい環境に置かれていれば、作業を実施する部門とは独立した立場で安全性を確認するという、本来の役割が十分に果たされているか疑問が生じる。原子力発電所の再稼働では、設備を修復できることだけでなく、修復作業の過程で発見された問題を適切に報告し、是正できる仕組みが重要になる。そのため、NRCが指摘した職場環境の問題は、再稼働に向けた組織体制を評価するうえで無視できない。ただし、今回の職場環境の問題が燃料集合体の傾斜を引き起こしたという因果関係は確認されていない。
NRCによる職場環境の評価は、前年から変化していた。2025年6月の検査では健全な職場環境と評価されていたが、その後、工程や作業範囲、幹部の変更があり、職員間の情報共有にも課題が生じていた。2026年前半には匿名による問題報告が増加したことなどを受け、NRCは追加の検査を実施した。検査官は、作業計画の立て方についても、廃止措置を前提としたプロジェクト型の管理方式から、発電所の運転を前提とした方式への移行が完了していないと指摘している。設備の復旧を進める組織から、継続的な発電所運営を担う組織へと移行できているかも問われている。
一方、NRCは今回の検査で、規則違反や重大な設備安全上の問題を確認したわけではない。独立した作業確認や監督、部門間の協力といった措置が機能していることを踏まえ、安全性が損なわれているとは評価せず、認定した職場環境の問題が再稼働計画に悪影響を及ぼすとも判断していない。これは検査時点で実施されていた措置を踏まえた評価であり、職場環境に問題がないという意味ではない。NRCが報告しにくい環境の存在を認定したことと、設備の安全性が損なわれていないと評価したことは、判断の対象が異なる。
さらにNRCは、経営層には以前から問題を把握する機会があったものの、それまでの対応では調達・品質保証の両部門における問題を解消できていなかったと指摘した。このため、10月13日付の書簡から30日以内に、独立した組織による評価を含む改善計画を提出するよう要請している。計画には、職員が当面安心して安全上の懸念を報告できるようにする措置や、同様の問題がほかの部門にも広がっていないかを確認する取り組みを含める必要がある。また、是正措置の有効性をどのように測定するか、問題の是正に関する仕組みや従業員の懸念を受け付ける窓口が適切に機能しているかも評価の対象となる。
ただし、30日という期限は改善計画の提出期限であり、その時点までに職場環境の改善をすべて完了させることが求められているわけではない。NRCは、計画を受領してから約2週間後に協議することも希望している。今後は計画が提出されたかどうかだけでなく、具体的な対策が実施され、職員が安心して問題を報告できる環境へと改善されたかが重要な確認事項となる。
NRCの3文書から見える再稼働準備の現状
パリセード原発では、運転員の資格審査についても別の確認が進められていた。NRCが10月13日に公表した免許試験報告書によると、新規運転員を対象とする実技試験は7月27日の週に、筆記試験は8月5日に実施された。受験者は上級運転員の免許申請者9人と運転員の免許申請者6人の計15人で、このうちすべての試験項目に合格して免許を取得したのは、それぞれ3人ずつの計6人だった。残る9人は一つ以上の試験区分で不合格となり、暫定結果の通知を受けた。試験結果が確定したのは8月31日である。
ただし、この15人は今回の新規免許申請者に限られており、発電所で働く運転員全員を対象とした試験ではない。したがって、9人が一つ以上の区分で不合格となったことをもって、既存の運転員の資格が取り消された、あるいは運転に必要な人員が不足していると判断することはできない。その後に再試験が行われたかどうかや、発電所全体で必要な資格を持つ運転員を十分に配置できるかについても、この報告書だけでは確認できない。
NRCが10月13日付で公表した3つの文書は、同じパリセード原発を対象としながら、それぞれ異なる問題を扱っている。燃料集合体の回収方法に関する承認、職場環境に関する改善要求、新規運転員の免許試験結果を整理すると、何が確認され、何が今後の課題として残されているのかが明確になる。
| 2026年10月13日付のNRC文書 | 判断の対象 | 確認・決定された内容 | 文書だけでは判断できないこと |
|---|---|---|---|
| DD41回収方法の変更承認 | 一度限りの燃料集合体の回収作業 | 専用容器を使った移送方法を、解析条件に基づいて承認 | 原子炉の再稼働に必要な準備全体の完了 |
| 職場環境に関する書簡 | 安全上の懸念を報告・是正する組織体制 | 2部門の問題を認定し、独立評価を含む改善計画の提出を要請 | 改善計画の提出・実施状況と、その効果 |
| 新規運転員の免許試験報告 | 新規免許申請者15人 | 6人が免許を取得し、9人は一つ以上の試験区分で不合格 | 発電所全体で必要な運転員を確保・配置できているか |
燃料集合体の回収が成功したからといって、職場環境の問題が解消されたことにはならない。同様に、今回の新規運転員試験の結果だけで、発電所全体の運転体制が十分かどうかを判断することもできない。3つの文書はそれぞれ異なる対象を評価したものであり、共通の安全指標として単純にまとめることは適切ではない。
なお、パリセード原発では前年にも別の安全関連事象が報告されている。NRCの事象報告によると、2025年10月21日、燃料を取り出した原子炉キャビティに人が転落し、水を飲み込んだ後、除染を受けて敷地外の医療機関に搬送された。この事象は2026年に発生した燃料集合体の傾斜とは別の事故であり、今回認定された職場環境の問題との因果関係も確認されていない。過去の事象を評価する際にも、それぞれの発生時期や状況を区別する必要がある。
パリセード原発の再稼働は、米政府による大規模な資金支援を伴う事業でもある。DOEは2025年9月の発表で、2024年9月に締結した最大15億2,000万ドルの融資保証契約と、再稼働後の原子炉出力が800MWとなる計画を説明している。ただし、15億2,000万ドルは融資保証の上限額であり、その全額がすでに支払われたことを意味するものではない。大規模な既存原子炉を再び発電設備として稼働させる計画だからこそ、個別の設備作業の完了と、日常的な運転を担う組織体制の整備を区別して評価することが重要になる。
今後の焦点は、燃料集合体が傾いた根本原因の解明と再発防止策、独立評価に基づく職場環境の改善、そして資格を持つ運転員の確保・配置を含めた運転準備の進展だ。これらはNRCが定めた正式な再稼働許可条件を網羅したものではなく、今回明らかになった問題を踏まえて、再稼働に向けた準備状況を判断するための確認事項である。Holtecが具体的な対策とその効果を示し、必要な運転体制の整備状況も明らかになれば、パリセード原発が設備と組織の両面でどこまで再稼働に近づいたのかを、より正確に評価できるようになる。



