The Nuclear Company(TNC)は2026年10月21日、米ケンタッキー州ルイス郡に最大6基の原子炉を建設する計画「Prosperity One」を発表した。オハイオ川沿いに総出力約6.6GWの原子力発電所群を整備する構想で、同社によれば、すべて完成すれば米国最大の原子力発電拠点となる。まずは2基の建設を計画しており、必要な承認を得たうえで2028年の着工を目指す。ただし、6基すべての建設が決定したわけではなく、用地調査や事業の実現可能性の評価を経て、段階的に開発を進める計画だ。原子炉の設計認証や用地に関する権利、地域の受け入れ準備は進んでいるものの、実際の建設には個別の許認可や送電網への接続計画など、さらに多くの条件を満たす必要がある。
最大6基・6.6GWの構想、まずは2基の建設を計画
TNCが採用を予定しているのは、Westinghouseの大型原子炉「AP1000」だ。最大6基を設置した場合の合計出力は約6,600MW(6.6GW)に達する。同社の発表によると、初期段階では2基の建設を計画しているが、着手には用地の詳細調査、事業の実現可能性の確認、必要な許認可の取得が条件となる。つまり、6.6GWは最終的な設備規模を示すものであり、2028年に全6基が完成、あるいは稼働を開始するという計画ではない。
AP1000は、外部電源などへの依存を抑える受動的な安全系と、設備の一部を工場で製作して現地で組み立てるモジュール工法を採用した原子炉だ。すでに米ジョージア州のVogtle原子力発電所で導入されており、3号機は2023年、4号機は2024年に商業運転を開始している。Prosperity Oneは、実用化されていない新型炉を試験的に建設するのではなく、既存の運転実績を持つ原子炉を新たな立地に展開する計画である。
地元紙Lewis County Heraldは、地域の説明会で話題となった小型モジュール炉(SMR)と、今回採用する大型のAP1000を区別している。AP1000にもモジュール工法が使われるが、それは小型モジュール炉であることを意味しない。最大6基の大型炉を建設するには、個々の原子炉の設計だけでなく、敷地全体の配置や送電網への接続など、大規模な発電拠点としての整備計画が必要になる。TNCの最高原子力責任者Joe Klecha氏は今回の発表で、「オハイオ川沿いの地域社会は、何世代にもわたって米国産業の屋台骨を支えてきた」と述べた。同社は雇用創出や税収増加への期待を掲げており、長年にわたって産業開発の候補地とされてきた土地を、新たな原子力発電拠点として活用する構想を打ち出している。
4,200エーカー超の用地を確保、ただし土地の取得は未完了
計画地となるルイス郡のCarrs Bottomでは、開発チームが所有する土地と、購入オプションを取得した土地を合わせて4,200エーカーを超える用地が確保されている。Lewis County Heraldの取材によると、地元実業家のSam Howard氏は、Carrs Land LLCを通じて2026年7月1日に738エーカーの土地を800万ドルで購入した。その後、周辺の土地についても購入できる権利を確保し、開発に向けた調査対象を広げている。ただし、4,200エーカー超という面積は、所有地と購入オプションの対象地を合計したものであり、そのすべてをTNCが取得したわけではない。
Howard氏は同紙に対し、TNCがTrace Creekとの提携契約に基づいて用地の調査を進められると説明している。この契約は、TNCが土地を購入したことを意味するものではない。土地の所有権、将来的に購入する権利、調査を実施する権利はそれぞれ異なり、今回の発表によって用地全体の取得が完了したと判断することはできない。現時点では、開発に必要な土地の権利関係を整理しながら、原子力発電所の建設に適しているかを調べる段階にある。
Heraldによると、Howard氏は9月の時点では、具体的な開発計画や進出企業の名前を明らかにしていなかった。今回の発表では、TNCとの提携関係に加え、計画名、採用予定の原子炉、最大6基という構成が公表され、事業の具体像が示されたことになる。一方、この地域では約50年前から石炭火力発電所などの建設構想が持ち上がっていたものの、実現には至らなかった経緯もある。過去の開発計画を踏まえても、事業者や設備の構想が明らかになることと、実際に建設が始まることは区別する必要がある。
立地面では、候補地をCSXの鉄道路線が通り、近くには765kVの高圧送電線が走っているとHeraldは報じている。鉄道は大型設備の輸送手段として、既存の送電線は発電した電力を送り出すための設備として、それぞれ検討材料になる。ただし、送電線が近くに存在するからといって、新たな原子力発電所を接続できるとは限らない。TNCも初期段階の作業に送電網への接続計画を含めており、必要な接続条件や設備については今後の検討が必要だ。
2028年着工を目指すも、原子炉の設計認証と建設許可は別
米原子力規制委員会(NRC)は、Prosperity Oneの発表に先立つ2026年10月14日、AP1000の設計認証を更新した。今回の更新では、Vogtle原子力発電所3号機と4号機の建設・運転で得られた経験を標準設計に反映し、認証の有効期間を2066年まで延長している。すでに審査された設計変更を標準設計に組み込むことで、今後AP1000を採用する事業者が同様の変更について個別に承認を求める負担を軽減する狙いがある。
NRCによると、Vogtleの建設から運転開始までの過程では、約200件のライセンス変更が審査・承認された。今回の設計認証の更新では、そのうち適用可能な変更や運転経験が標準設計に反映されている。ただし、標準設計の認証が更新されたからといって、Prosperity Oneの建設が認められたわけではない。ルイス郡の地盤や環境条件に適合するか、敷地固有の安全対策やセキュリティ要件を満たすかについては、別途審査を受ける必要がある。NRCも今回の更新について、個別の原子力施設の立地、建設、運転を許可するものではないと明記している。
今回の計画に関係する設計認証や用地の権利、地域の準備状況を整理すると、以下のようになる。
| 項目 | 現時点で確認できる進捗 | まだ認められていないこと |
|---|---|---|
| AP1000の標準設計 | NRCが10月14日に認証を更新し、有効期間を2066年まで延長 | Prosperity One固有の環境・安全・セキュリティに関する承認 |
| Carrs Bottomの用地 | 開発チームの所有地と購入オプションの対象地が4,200エーカー超。TNCは提携契約に基づく調査が可能 | TNCによる用地全体の取得、原子炉の建設許可 |
| 地域の準備認定 | 地元自治体が州の認定制度への申請を支持する決議を採択 | 個別の原子力発電所の建設を認める承認 |
この表は、TNCの10月21日付発表、NRCの10月14日付発表、Lewis County Heraldの報道を基に、それぞれの手続きが何を対象としているかを整理したものだ。Heraldの解説記事も、地元自治体による決議は原子力発電所の建設を許可するものではないと説明している。標準設計の認証、用地調査を進める権利、地域の準備認定はいずれも計画を前進させる要素ではあるが、それぞれ対象が異なる。初期段階の2基についても、用地調査の結果や個別の許認可を踏まえて建設の可否を判断する必要がある。
地域の支持についても、必ずしも全会一致で進んでいるわけではない。Heraldによると、ルイス郡が7月に州の制度への参加を支持した際は全会一致だったが、10月12日に行われた2回目の決議は賛成4、反対1で可決された。これらの決議は地域として受け入れ準備を進めることに関するものであり、特定の開発事業や原子炉の技術、建設場所を正式に承認または否認するものではない。2028年の着工目標に向けては、こうした地域の準備と並行して、実際の建設に必要な手続きを進めることになる。
今後の焦点は送電網への接続と事業採算性
TNCが初期段階で予定している作業には、用地の詳細調査や地盤調査、環境評価が含まれる。さらに、送電網への接続計画を策定し、連邦政府の許認可に向けた準備も進める方針だ。2028年の着工目標が実現可能かを判断するには、これらの調査結果が具体的な設計や許認可申請にどのようにつながるかを確認する必要がある。特に、最大6基という長期構想とは別に、初期2基の建設に必要な条件がどこまで整うかが重要になる。
事業の採算性に関わる情報も、今後明らかにする必要がある。Heraldの解説によれば、発電した電力を誰に、どのような条件で販売するのかは公表されていない。また、計画全体の建設費や、Prosperity One固有の雇用創出見通しも示されていない。TNCは発表の中でVogtle原子力発電所の雇用実績などを紹介しているが、別の発電所での実績を、そのまま今回の計画で生まれる雇用数とみなすことはできない。
地元住民にとっては、雇用や税収の増加への期待だけでなく、生活環境への影響も重要な判断材料になる。Heraldは、住民から放射性廃棄物の管理やオハイオ川への影響について懸念が示されたほか、緊急時の対応体制や住民による直接投票を求める議論もあったと報じている。TNCも水利用や緊急時の対応を計画上の検討事項に挙げており、交通や住宅への対応も含め、発電所の敷地外に及ぶ影響を評価する方針だ。こうした課題への具体的な対応が示されるかどうかも、地域での計画の進展を左右する要素となる。
Prosperity Oneは、運転実績のあるAP1000を最大6基導入する大規模な原子力発電計画だが、現時点では用地調査と事業化に向けた準備を進める段階にある。今後は初期2基について、用地調査の結果や許認可の進捗に加え、送電網への接続条件、電力の販売先、建設費と資金調達の見通しが具体化するかが焦点となる。これらの条件が整って初めて、最大6.6GWという構想を、実際の建設に向けて動き出す事業として評価できるようになる。



