NVIDIAの現行「Vera Rubin NVL72」製品仕様では、GPU当たりのHBM4メモリ帯域が19.2TB/s、GPU間を接続するNVLinkの帯域が3TB/sと記載されている。2026年10月27日(日本時間)に確認したこれらの数値は、同社が7月21日に公開した公式技術解説と比べ、それぞれ約13%、約17%低い。HBM4の容量は288GBのままだが、容量と帯域は異なる指標であり、帯域の変更はAIの処理性能に影響する可能性がある。一方、8基のGPUを搭載するHGXでは、公式仕様に記載された数値の間に最大26%の差が見つかっている。ただし、これはNVL72の仕様変更率とも、実際のAI処理性能の低下率とも異なり、製品構成と比較条件を区別して評価する必要がある。
Vera Rubin NVL72、HBM4帯域は19.2TB/s、NVLinkは3TB/sに
NVIDIAが公開した7月21日付のRubin GPU技術解説では、HBM4メモリの容量を288GB、帯域を最大22TB/sと説明していた。NVLinkの帯域は3,600GB/s、すなわち3.6TB/sとされている。また、1月5日付のRubinプラットフォーム解説でも、HBM4帯域22TB/s、NVLink帯域3.6TB/sという数値が示されており、NVLinkについては双方向の帯域であることが明記されている。ところが、72基のGPUと36基のCPUを搭載する現行Vera Rubin NVL72の製品仕様には、HBM4容量を288GBに維持しながら、帯域については以前より低い数値が記載されている。
| 項目 | 1月・7月の公式説明 | 現行NVL72のGPU単体仕様 | 公称値の差 |
|---|---|---|---|
| HBM4容量 | 288GB(7月) | 288GB | 変化なし |
| HBM4帯域 | 22TB/s | 19.2TB/s | 12.7%低い |
| NVLink帯域 | 3.6TB/s | 3TB/s | 16.7%低い |
減少率は、旧公称値を基準として計算したものだ。HBM4帯域は(22-19.2)÷22×100で約12.7%、NVLink帯域は(3.6-3)÷3.6×100で約16.7%となる。ただし、これらはNVIDIAが公開した仕様値の比較であり、実機を使用した性能測定の結果ではない。HBM4容量が288GBで変わらなくても、データの読み書きに使える帯域が異なれば、メモリアクセスが性能を左右する処理では影響が生じる可能性がある。
現行仕様では、GPUを2基組み合わせたSuperchipのHBM4容量が576GB、帯域が38.5TB/s、NVLink帯域が6TB/sとされている。72基のGPUを搭載するNVL72ラック全体では、それぞれ20.7TB、1,400TB/s、216TB/sとなる。ただし、GPU単体、Superchip、ラック全体の公称値には丸めが含まれており、19.2TB/sを2倍した38.4TB/sと、Superchipの38.5TB/sがわずかに異なる。同様に、単体の帯域を72倍した数値とラック全体の公称値に差があっても、それだけで追加の性能低下や仕様変更があったとは判断できない。
HGXでは最大26%の差、GPU単体と8基構成の仕様が一致せず
さらに大きな差が見られるのが、8基のGPUを搭載するHGXプラットフォームだ。NVIDIAの現行HGX製品ページでは、Vera CPUまたはx86 CPUと8基のRubin SXM GPUを組み合わせた構成について、HBM4の総容量を2TB、帯域を130TB/sと記載している。一方、同じページに掲載されたGPU単体の仕様には、HBM4容量288GB、帯域22TB/sという従来の数値が残っている。単体の22TB/sを8基分に換算すると176TB/sになるため、8基構成の公称値130TB/sとの間には46TB/sの差が生じる。
この差を176TB/sを基準に計算すると、(176-130)÷176×100で約26.1%となる。つまり、最大26%という数字は、HGXの同じ製品ページに記載されたGPU単体の帯域を8倍した値と、8基構成の公称帯域を比較した結果だ。 過去のHGX製品と現在のHGX製品を同一条件で比較したものではなく、実測された性能低下率でもない。現時点でNVIDIAは、この差が生じている理由を説明しておらず、NVL72でも同様の割合で帯域が減少したと解釈することはできない。
NVIDIAが公開した2026年10月版のHGX公式データシートにも、8基構成のHBM4容量2TB、帯域130TB/s、NVLink帯域24TB/sという仕様が掲載されている。したがって、130TB/sという数値はHGXの製品ページだけに見られるものではなく、別の公式資料でも確認できる。ただし、GPU単体の22TB/sという記載との食い違いが解消されたわけではない。なお、データシートにある「Oct26」は2026年10月版を意味する表記であり、10月26日に仕様が変更されたことを示すものではない。
ここで注意したいのは、NVL72のGPU単体仕様である19.2TB/sを、そのままHGXにも適用できるとは限らない点だ。逆に、HGXの130TB/sを8で割った16.25TB/sを、Rubin GPUの確定した単体帯域とみなすこともできない。HBM4容量についても、GPU単体の288GBと8基構成の2TBという記載が併存しているが、単位や丸め方の違いがあるため、これらの数値から正確な減少率を算出することは適切ではない。製品構成による仕様の違いなのか、公開資料の更新が統一されていないだけなのかは、現時点の情報では判断できない。
HBM4とNVLinkの帯域は、AIの処理性能にどう影響するのか
HBM4の帯域が重要なのは、大規模言語モデル(LLM)の推論性能が、GPUの演算能力だけでなくメモリとのデータ転送速度にも左右されるためだ。生成AIがトークンを順次生成する際には、モデルの重みを読み出すほか、過去のトークンに関する情報を保持するKVキャッシュにもアクセスする。HBM4の容量はモデルやKVキャッシュをどれだけ保持できるかを左右し、帯域はそれらのデータをどれだけ速く読み書きできるかに関係する。NVIDIAが7月の技術解説でメモリシステムの効率を重視していたのも、こうした生成処理におけるデータ転送の重要性が背景にある。
HBM4は従来のHBM3eと比べ、メモリインターフェースの幅が2倍に拡大されている。これはGPUとメモリの間で並列に転送できるデータ量を増やすための変更だが、実際の帯域はインターフェース幅だけでなく、信号の転送速度などにも左右される。そのため、HBM4を採用しているというだけで、当初公表された22TB/sの帯域や、それに見合う実効性能が保証されるわけではない。
メモリからのデータ読み出しがボトルネックとなる処理では、HBM4帯域の違いが性能に影響する可能性がある。ただし、メモリアクセスの待ち時間が処理全体に占める割合は、モデルの構造やバッチサイズ、入力と生成するトークンの長さ、KVキャッシュの利用方法などによって変わる。GPUの演算処理とメモリアクセスを効率的に重ねられるかどうかも重要だ。したがって、公称メモリ帯域が12.7%低いからといって、AIのトークン生成速度も同じ割合で低下すると結論付けることはできない。
一方、NVLinkはGPU同士の高速なデータ転送を担う。NVIDIAの1月の技術解説では、複数の専門家ネットワークから必要なものを選んで処理を振り分けるMoE(Mixture of Experts)や、GPU間の集合通信、同期処理などが主な用途として挙げられている。大規模なAIモデルを複数GPUに分散させる場合、GPU間の通信帯域は処理効率を左右する重要な要素となる。ただし、必要な通信量はモデルの分割方法によって異なり、通信処理と演算をどこまで並行して実行できるかによっても、帯域の差が実際の性能に及ぼす影響は変わる。
また、RubinプラットフォームにはGPU間のNVLink以外にも、CPUとGPUを結ぶNVLink-C2Cや、サーバー間・ラック間を接続する外部ネットワークがある。現行NVL72の仕様では、SuperchipのNVLink-C2C帯域は1.8TB/s、ラック全体の外部ネットワーク帯域は双方向32.4TB/sとされている。ただし、これらはそれぞれ異なる通信経路であり、外部ネットワークの帯域をHBM4やGPU間NVLinkの帯域に加算して、性能差を補えるわけではない。実際の影響を評価するには、処理がどの経路を使用し、どこで通信待ちが発生しているのかを把握する必要がある。
AIの実性能は未確認、同一条件での比較が必要
NVIDIAはHGXの製品ページで、RubinがHGX B200と比較して10倍のトークン処理性能を発揮するとの予測を示している。この比較は「Kimi K2-Thinking」を使用し、最初のトークンが出力されるまでの時間を500ミリ秒以下、入力と出力をそれぞれ4,000トークンとする条件に基づいている。ただし、Rubinでは疎なNVFP4、B200では密なNVFP4を使用しており、計算条件が完全に一致しているわけではない。したがって、この10倍という数字は、特定の条件で異なる世代のGPUを比較した予測値として解釈する必要がある。
また、この性能予測はHBM4やNVLinkの帯域が現在の数値になる前後で、同じRubin GPUを比較したものではない。帯域の公称値が引き下げられても性能への影響がないと証明するものではなく、逆に12.7%や16.7%という帯域差を使って10倍という予測値を単純に減額しても、実際の処理性能は算出できない。AI推論の性能は演算能力、メモリアクセス、GPU間通信、ソフトウェアによる最適化など、複数の要因が組み合わさって決まるためだ。
仕様変更の影響を正確に判断するには、まずHGXとNVL72でそれぞれ対象となるGPUのSKUと最終仕様を確定する必要がある。そのうえで、同じAIモデルと計算精度を使用し、バッチサイズ、入力トークン数、生成トークン数などの条件をそろえて測定することが重要だ。最初のトークンが出力されるまでの時間(TTFT)と、生成中のトークン処理速度を比較すれば、実際の推論性能にどのような差があるのかを評価できる。さらにHBM4の実効帯域やGPU間通信の待ち時間も測定することで、性能差が生じる原因を切り分けられる。
現時点では、NVIDIAが公称帯域を変更した正確な時期や理由、最終的に出荷される各SKUの仕様は確認できていない。明らかなのは、現在公開されているNVL72の帯域が以前の公式説明より低く、HGXについてもGPU単体と8基構成の仕様に食い違いが残っていることだ。今後、NVIDIAがこれらの仕様を整理し、実機による推論性能の測定結果が明らかになれば、帯域の違いが実際のAIワークロードにどの程度影響するのかを判断できるようになる。



