英国Amazonで販売されている32GBのDDR5メモリキットが、約13カ月で79ポンドから422ポンドへと高騰した。OC3Dが10月14日に公開した価格調査によると、同じCrucial Pro製品の価格は約5.3倍に跳ね上がっている。かつては比較的安価に増設できたメモリだが、今やPCの構成を決める上で無視できない費用になっている。
ただし、価格高騰への対応は「容量を減らす」か「値下がりを待つ」かの二択ではない。メモリの速度やレイテンシ(遅延時間)、在庫状況によって、同じ容量でも価格には大きな差がある。英国の同一製品の価格推移に加え、ドイツの仕様別価格や日本の店頭相場を比較すると、必要な容量を維持しながら購入費用を抑える方法も見えてくる。
32GBのDDR5メモリが約13カ月で79ポンドから422ポンドに
OC3Dが公開した価格追跡データによると、調査対象はCrucial Pro DDR5-6000 CL36の16GB×2枚組、合計32GBのメモリキットだ。Amazon UKでの販売価格を追跡したもので、2025年9月18日から2026年10月14日までの変化を示している。厳密な前年同日比ではない点には注意が必要だ。
| 観測日 | 同一32GBキットの価格 |
|---|---|
| 2025年9月18日 | 79ポンド |
| 2025年12月16日 | 226ポンド |
| 2026年1月12日 | 351ポンド |
| 2026年10月14日 | 422ポンド |
2025年9月の79ポンドと2026年10月の422ポンドを比較すると、価格は約5.34倍、上昇率にして約434.2%となる。容量を増やしたわけでも、より高性能な製品に買い替えたわけでもない。まったく同じメモリキットを購入するために、343ポンドも多く支払わなければならなくなったということだ。
一方、2026年1月12日の351ポンドを基準にすると、10月14日までの上昇率は約20.2%となる。2025年末から2026年初頭にかけて急騰した価格が、その後も下がることなく、さらに上昇を続けていることが分かる。
もっとも、これは英国Amazonで販売されている特定のメモリキットを追跡した結果であり、英国市場のすべてのDDR5製品が同じ倍率で値上がりしたわけではない。市場全体の動向を判断するには、ほかの製品や地域の価格も確認する必要がある。
同じ容量でも価格差は大きい、低遅延メモリの割高感
メモリの購入費用を左右するのは容量だけではない。動作速度やレイテンシといった性能条件も、価格に大きく影響する。
ドイツの3DCenterが2026年9月に実施した価格調査では、同じ容量でも性能条件によって最安価格に大きな差が生じていることが確認された。
以下は、9月中旬の週末に購入可能だった製品について、メーカーを問わず仕様別に最安価格を比較したものだ。「DDR5-6000以上」は、データ転送速度が6,000MT/s以上の製品を対象としている。
| 容量と速度の条件 | CL指定なしの最安値 | CL28指定の最安値 |
|---|---|---|
| 32GB(16GB×2)、DDR5-6000以上 | 430ユーロ | 470ユーロ |
| 64GB(32GB×2)、DDR5-6000以上 | 849ユーロ | 1,329ユーロ |
特に差が大きいのが64GBキットだ。DDR5-6000以上という条件だけなら最安849ユーロで購入できるが、CL28という低遅延仕様を加えると1,329ユーロに上昇する。容量は同じ64GBでも、価格は480ユーロ、率にして約56.5%も高くなる。
ただし、この比較ではメーカーや正確な転送速度まで統一されているわけではない。そのため、480ユーロという差額のすべてがCL28という仕様に由来するわけではなく、性能向上に対する純粋な追加費用を示すものでもない。
CL(CAS Latency)は、メモリに読み出しコマンドを送ってからデータが利用可能になるまでのクロックサイクル数を表す。Kingstonの技術解説によると、実際の遅延時間はCL値だけでなく、メモリの転送速度によっても変わる。したがって、CLの数値が小さいほど、必ずPC全体の性能が高くなるというわけではない。
3DCenterの調査では、32GBのDDR5-6400以上・CL30指定の製品が1,215ユーロという例も確認されている。容量が半分にもかかわらず、先ほどのCL指定なしの64GBキットより高価だ。もちろん、転送速度やレイテンシなどの条件が異なるため、単純な性能比較はできない。
それでも、メモリ不足を解消するために容量を増やすことと、より高速・低遅延な製品を選ぶことは、分けて考えられる。まず必要な容量を決め、その上で速度やレイテンシの条件を広げて比較すれば、容量を減らさずに購入費用を抑えられる可能性がある。
日本では32GBが値下がりする一方、64GBは値上がり
日本のメモリ市場でも、すべての製品が一様に値上がりしているわけではない。
AKIBA PC Hotline!が2026年9月後半に実施した秋葉原の店頭価格調査では、DDR5-6000の32GBキットが値下がりする一方、64GBキットの最安価格は上昇していた。
| DDR5-6000の容量 | 最安価格(税込) | 前回調査からの変化 |
|---|---|---|
| 32GB(16GB×2) | 52,990円 | 8,490円安 |
| 64GB(32GB×2) | 123,200円 | 25,220円高 |
この調査は2026年9月12〜19日の秋葉原店頭価格に基づくもので、特価品や最安製品の入れ替わりも反映されている。
64GBキットの最安価格が上昇した主な理由として、同媒体は、それまで97,980円で販売されていたCFD販売の製品が品切れになったことを挙げている。調査時点での最安製品はCorsair製の123,200円だった。
つまり、同じ64GBキットが25,220円値上がりしたわけではない。最も安い製品が市場から消えた結果、購入可能な製品の最低価格が上がったのである。
一方、32GBキットではCorsair製品の特価販売が最安価格を押し下げた。メモリ全体の供給不足が続いていても、特売によって一部の製品が安くなることはある。反対に、安価な製品が品切れになれば、同じ容量でも購入費用が大きく増える。
もちろん、これらは9月時点の調査結果であり、10月の販売価格を保証するものではない。しかし、供給不足の中でも容量によって価格の動きが異なることや、在庫状況が最安価格に大きな影響を与えることは読み取れる。
英国の特定製品の価格推移、ドイツの仕様別最安価格、日本の店頭特価は、それぞれ調査条件が異なる。これらを単純に比較するのではなく、価格高騰の規模や製品選びの余地を知るための別々の判断材料として捉えるべきだろう。
AI需要がPC向けメモリの供給を圧迫
DDR5の価格高騰の背景には、AI関連需要の拡大によるメモリ市場全体の需給逼迫がある。
AIアクセラレーター向けの広帯域メモリ(HBM)だけでなく、一般的なサーバーで使用されるDRAMの需要も増えている。PC向けDDR5は、これらの製品と半導体メーカーの生産能力を奪い合う状況に置かれている。
TrendForceは2026年9月30日の市場調査で、エージェント型AIの処理を支える汎用サーバー向けに、RDIMMと呼ばれるサーバー用メモリモジュールの調達が増えていると指摘した。
メーカー各社は需要に対応するため、低容量RDIMMの生産・供給比率を引き上げているものの、部品の供給やモジュールの組み立て、検査能力にも制約がある。TrendForceは、サーバー向けへの生産配分がさらに進めば、2027年にはPC向けDRAMの供給量が減少する可能性があると予測している。
これは、PCの販売台数が減ったとしても、必ずしもPC向けメモリの供給に余裕が生まれるとは限らないことを意味する。半導体メーカーが生産能力をサーバー向けに振り向ければ、PC向けの供給量も減ってしまうためだ。
TrendForceはまた、従来型DRAMの契約価格が2026年第4四半期に前四半期比10〜15%上昇すると予測している。
ただし、これは半導体メーカーと大口顧客の間で取引される契約価格の見通しであり、店頭のDDR5メモリキットが同じ割合で値上がりすることを意味するものではない。それでも、メモリの調達コストを押し上げる圧力が続いていることを示す材料にはなる。
長期契約でもメモリ価格は固定されない
供給不足への対応として、大手顧客とメモリメーカーの間では長期供給契約の重要性が増している。しかし、長期契約を結んだからといって、メモリ価格が固定されるわけではない。
Micronが2026年9月30日に公表した決算説明資料によると、同社が締結している複数年の戦略的顧客契約には、契約した数量を引き取るか、代金を支払う義務が設けられている。顧客にとっては将来の供給を確保しやすくなり、Micronにとっては一定の需要を見込んで生産計画を立てやすくなる仕組みだ。
一方、価格の決定方法は契約ごとに異なる。
同社によれば、これらの契約による見込み売上高の約4分の3には、あらかじめ価格設定の枠組みが設けられている。そのうち過半には価格の上限と下限が設定されているが、残る約4分の1は市場価格を基準として定期的に交渉する方式だ。
つまり、長期契約によって一定の購入数量が確保されていても、価格まで完全に固定されているとは限らない。
この仕組みだけを根拠に、今後AI需要が弱まってもDDR5の小売価格は下がらないと断定することはできない。供給量や需要の変化に加え、各契約の価格条件が市場にどう影響するかを見極める必要がある。
Micronは2028年も供給不足を予測、新工場の稼働にも時間
メモリ価格がいつ落ち着くのかについては、依然として不透明な状況が続いている。
Micronは同じ決算説明資料で、2027年と2028年もDRAMの供給不足が続くとの見通しを示した。業界全体のビット出荷量、すなわち出荷されるメモリの総容量が両年とも20%台前半のペースで増加しても、需要を十分に満たすことは難しいとみている。
つまり、DRAMの生産量が増えても、それを上回る需要があれば供給不足は解消しない。
新工場の建設も進んでいるが、稼働開始がすぐに大幅な供給増加につながるわけではない。
Micronの計画では、米アイダホ州の新工場「ID1」が2027年半ばに初期のウェハー生産を開始する予定だ。さらに、同州の「ID2」と日本の工場拡張では、2028年末に初期生産を始める計画となっている。
ただし、初期生産から十分な量を供給できる体制が整うまでには、さらに数四半期を要する見込みだ。Micron自身も、メモリ市場の需給がいつ均衡を取り戻すかについて明確な見通しは示していない。
したがって、新工場が稼働する年を、そのままDDR5の値下がり時期と考えることはできない。
容量を諦める前に、速度と在庫を見直す
こうした市場環境の中でPCを新たに組み立てたり、メモリを増設したりする場合は、必要な容量を確保する費用と、高速・低遅延な製品を選ぶための追加費用を分けて考えることが重要になる。
例えば、使用しているアプリケーションでメモリ容量が不足しているなら、低遅延仕様を優先するために容量を減らすことが、本当に適切なのかを検討する必要がある。反対に、現在の容量で十分に足りているなら、高価なメモリへ急いで交換する必要があるかを考えるべきだ。
購入時には、CPUやマザーボードが対応するメモリ速度、メーカーが公開している対応メモリ一覧(QVL)も確認したい。Kingstonも、高速・低遅延なメモリキットを購入しても、PCの構成によっては公称性能を発揮できない場合があると説明している。
また、今回の日本の価格調査が示すように、特価品の登場や品切れによって最安価格が大きく変わることもある。特定の型番だけにこだわらず、同等の仕様を持つ複数の製品を比較することも有効だ。
DRAMの供給不足がいつ解消するかは、現時点では見通せない。しかし、必要な容量を明確にし、対応する速度やレイテンシの条件を整理した上で、実際に購入できる製品を比較することはできる。
メモリ価格が高騰しているからといって、すぐに容量を諦める必要はない。まずは、どの性能条件にどれだけの追加費用を支払うことになるのかを見極めることが、現在のDDR5市場では重要になっている。



