カナダのGeneral Fusionは2026年10月8日、核融合実証機「Lawson Machine 26(LM26)」で、金属製のライナーを内側に押し込んでプラズマを圧縮し、電子温度が1 keVを超えたと発表した。英国原子力公社(UKAEA)と共同で行ったレーザー計測では約1.1 keV(同社の換算で約1200万℃)を記録した。6月に報告した約0.72 keVを上回り、LM26が掲げる最初の温度目標を達成したことになる。ただし、1200万℃という数字は電子の温度であり、核融合反応を起こす燃料イオンの温度や、装置全体のエネルギー収支とは区別する必要がある。公開された2本の論文からは、圧縮によってプラズマを加熱できることが確認された一方、さらに強く圧縮する際の課題も浮かび上がっている。

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金属でプラズマを圧縮する核融合方式が1 keVに到達

LM26は、初期直径1.76 mの固体リチウム製ライナーでプラズマを囲む装置だ。ライナーとは、容器の内側に設けられた筒状の部材を指す。外側のコイルに電流を流すと、発生した磁場によってライナーが内側に押し込まれ、内部のプラズマが圧縮される。プラズマの体積が小さくなるにつれて密度と温度が上昇する。今回の実験では、圧縮開始から電子温度がピークに達するまでに約3ミリ秒を要した。

General Fusionは、この方式を「磁化標的核融合」と呼んでいる。あらかじめ磁場で閉じ込めたプラズマを形成し、その周囲を金属で押し縮めることで加熱する仕組みだ。超電導磁石や高出力レーザーを加熱・圧縮に使わない設計だが、磁場を使わないわけではない。中央軸に流す電流によってプラズマの安定性も調整しており、加熱の解析には、プラズマ内部の電気抵抗によって生じる「オーム加熱」も考慮されている。単に金属の力でプラズマを押し潰すだけの装置ではない。装置と加熱の仕組みを報告した論文では、圧縮を主な加熱手段として位置づけている。

3ミリ秒は日常の感覚では一瞬だが、マイクロ秒やナノ秒単位で燃料を圧縮する方式に比べれば「低速」に当たる。General FusionとUKAEAの共同発表が世界初としているのは、この低速圧縮によって1 keVに達した点だ。1 keVという温度そのものが核融合研究の最高記録というわけではない。UKAEAも、1969年にロシアのトカマクで1 keVの電子温度を検証した歴史に触れている。

General Fusionは6月22日の発表で、電子温度0.72±0.08 keVを報告していた。今回は1 keVを超える加熱を、異なる計測手法でも確認した。圧縮中もプラズマを維持し、熱の損失を抑えながら温度を上げるという同社の開発方針が、大型実証機で新たな段階に進んだことになる。

電子とイオンで異なる温度、3つの計測結果が示すもの

今回、最も高い温度を記録した圧縮実験「LMC-12」では、電子温度と重水素イオン温度がそれぞれ調べられた。プラズマ中では電子とイオンが別々に運動するため、両者の温度が常に一致するとは限らない。核融合反応を起こすのは原子核なので、電子がどこまで加熱されたかだけでなく、燃料イオンの温度も確かめる必要がある。

LM26が達成した1 keV超という数字は電子温度を示すものであり、同じLMC-12実験で推定された重水素イオン温度は0.459±0.033 keVだった。

測定対象・方法 報告された温度 測定時の半径圧縮比 測定値の意味
電子・トムソン散乱 1.090±0.040 keV 2.35 レーザーの散乱光から測定
電子・軟X線のAXUV診断 1.180±0.065 keV 2.75 フィルターを通した放射信号の比から推定
重水素イオン・中性子診断 0.459±0.033 keV 2.6 中性子生成量とプラズマの密度分布から推定

表は2026年10月6日付のトムソン散乱に関する論文と圧縮加熱に関する論文から、LMC-12の測定値を抜き出したものだ。原文のeV表記と誤差をそれぞれ1000で割り、keVに統一している。半径圧縮比は、圧縮前のライナー半径を測定時の半径で割った値を指す。3つの測定値は観測した時刻や領域が異なるため、単純に電子とイオンの温度比を計算したり、同じ場所を同時に測定した結果として比較したりすることはできない。

今回の電子温度の測定で重要な役割を果たしたのが、UKAEAと共同で設計したトムソン散乱計測システムだ。プラズマにレーザー光を照射し、電子によって散乱された光の波長分布から電子温度を求める。核融合科学研究所の解説でも、散乱光の波長が電子の運動速度と関係していることが説明されている。LM26では金属ライナーが内側に動くにつれて、レーザー光の通り道も狭くなる。そこで、2カ所・8時点で測定できる構成を整え、光路が塞がる直前に1 keV超の電子温度を捉えた。

ただし、ピーク温度の約1.180 keVまでトムソン散乱で直接測定できたわけではない。さらに圧縮が進んだ段階の温度は、軟X線を検出するAXUV診断によって追跡している。トムソン散乱とAXUV診断では、温度上昇の傾向がおおむね一致したものの、観測する場所も測定原理も異なる。こうした計測上の制約を明示し、複数の診断結果を照合している点は、今回の成果を評価するうえで重要だ。なお、加熱や圧縮に高出力レーザーを使わない方式であっても、温度の測定にはレーザーを使用している。

一方、イオン温度は、核融合反応によって発生した中性子の数とプラズマの密度分布をもとに、反応率の式を使って推定した。この計算では、イオンの速度分布が熱平衡状態に対応するマクスウェル分布に従うと仮定している。したがって、電子温度と同じ方法で直接測定した数値ではない。イオンの加熱も確認されたが、電子温度が1 keVを超えたからといって、燃料全体が同じ温度に達したとはいえない。

P. CarleらとUKAEAのM. Maslovが共著した計測論文、およびS. J. Howardらによる加熱論文は、いずれも発表時点では査読に投稿された段階にある。UKAEAが計測に参加したことは結果の信頼性を判断する材料になるものの、査読が完了したわけでも、別の装置で独立した追試が行われたわけでもない。

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圧縮の後半で温度が急落する理由

LMC-12では、半径圧縮比が2.75に達した時点で電子温度がピークを迎え、その後は急激に低下した。圧縮を強めれば、それに応じて温度が上がり続けるわけではなかった。加熱論文では、この現象に関連して、プラズマ内部の電気抵抗が増大し、プラズマ電流が減衰し始めることに言及している。

圧縮の後半までプラズマを維持するには、磁場やプラズマの流れに生じる不安定性を抑え、不純物の混入を減らし、磁束がライナーへ拡散する影響も制御しなければならない。例えば、不純物が混入すると、放射による冷却や電気抵抗の増大を引き起こす。磁束の拡散も、プラズマが粒子や熱を保持する能力を損なう。著者らは複数の要因を挙げており、今回の温度急落を単一の原因で説明しているわけではない。

低速圧縮の利点を発電に生かすには、圧縮にかかる時間と、プラズマが熱を保持できる時間の関係を改善する必要がある。論文によると、エネルギー閉じ込め時間が圧縮完了までの残り時間より短くなると、温度は間もなく低下する。圧縮する力を強めることと、熱が逃げる前に十分な高温・高密度状態を実現することは、別の課題なのだ。

次の目標は10 keVだ。General Fusionの発表によると、より大きな圧縮比を実現するための改修はすでに始まっている。加熱論文には、圧縮部分を円錐状に収束する形状へ変更し、同程度の時間でさらに強く圧縮する計画が記されている。プラズマの生成・圧縮に使う電源を改修するほか、ガス注入弁を増やして燃料供給を調整し、診断システムも更新する予定だ。温度記録をさらに伸ばすには、より強く圧縮してもプラズマを維持でき、その状態を正確に測定できる装置へと改良する必要がある。

固体リチウムによる実証から液体金属を使う発電所へ

LM26の圧縮実験では、使用済みの固体ライナーと中央軸を取り出し、新しい部材に交換する。その後、真空状態を作り直し、診断機器を再設置して次の実験に進む。この手順からも、今回の温度実証と、実際の発電所に求められる運転方式との間には、まだ大きな隔たりがあることが分かる。

General Fusionが商業化に向けて構想しているのは、液体リチウムの壁でプラズマを圧縮する方式だ。液体金属には、中性子を吸収して構造物を保護するだけでなく、核融合燃料となるトリチウムを増殖させ、熱を回収する役割も持たせる。回収した熱で蒸気を発生させ、タービンを回して発電する。同社は、液体金属にこうした複数の機能を担わせることで、既存の材料や技術を活用しやすい発電設備を実現できると考えている。ただし、今回の固体ライナーを使った実験で、液体金属による燃料増殖や発電サイクルまで実証されたわけではない。

温度目標の先にあるのが「ローソン条件」だ。ITERの解説によると、核融合の成立に必要な条件は、温度、粒子数密度、エネルギー閉じ込め時間の組み合わせで評価される。温度を上げるだけでも、密度を高めるだけでも十分ではない。General Fusionは商業化計画で、LM26では水素燃料を用いてこれらの条件を同時に満たし、重水素・トリチウム(D-T)プラズマであれば核融合出力が熱損失を上回る状態に相当することを実証する方針を示している。

ただし、これは発電所全体で投入電力を上回る電力を取り出す実証とは別の段階だ。プラズマの圧縮と燃料供給を繰り返し、液体金属を扱い、熱交換設備を統合するためには、さらなる工学的な検証が必要になる。同社の開発計画にも、高頻度の繰り返し運転に耐える部品や機構、液体金属システム、発電所の周辺設備を実証する工程が盛り込まれている。電子温度が1 keVに達したという結果だけでは、設備の寿命や発電コストを見積もることはできない。

CEOのGreg Twinneyは10月8日の説明で、2028年末までにローソン条件を達成し、2035年ごろには初号発電所の運転を開始することを目指すと述べた。いずれも同社が掲げる開発目標であり、今回の実験結果によって実現時期が保証されたわけではない。

今後の10 keVを目指す実験では、燃料イオンをどこまで加熱できるか、そして圧縮の後半まで高温状態を維持できるかが重要な判断材料となる。さらに、液体金属を使ってこの過程を繰り返す運転を実証できれば、General Fusionが構想する、機械的な圧縮技術と熱交換技術を組み合わせた核融合発電所の実現可能性を、より具体的に評価できるようになる。