Helical Fusionは2026年9月1日、経済産業省の「フュージョンエネルギー発電実証推進事業補助金」で条件付採択となったと発表した。外部のねじれたコイルでプラズマを閉じ込めるヘリカル方式を使い、2030年代の正味発電を目指す企業である。
今回の決定は、発電所の建設許可でも、Helical Fusionへの600億円の交付でもない。制度運営者が公表した4件はいずれも条件付採択で、通知された条件を満たした後に正式採択へ進む。各社の事業内容と交付額も、経済産業省と事務局が今後調整する。
それでも、この事業が研究助成より一段踏み込んでいる点は見逃せない。政府はプラズマ性能に加え、市場性を見込める発電システム、商用炉へつながる技術知見、安全性と地域対話までを発電実証の要件に置いた。Helical Fusionに問われるのは、長時間プラズマの実績を、磁石、燃料循環、熱回収と保守を備えた発電設備へ変えられるかである。
「600億円」の中身を分解する
内閣府の制度設計資料と執行団体の公表を突き合わせると、資金と採択状態は次のように分かれる。
約600億円は4候補を含む事業全体の規模で、Helical Fusionへの交付額ではない。4件はいずれも条件付採択であり、条件確認後の正式採択と個別交付額の決定が残る。
| 論点 | 2026年9月2日時点で確認できること | 未決定・注意点 |
|---|---|---|
| 事業規模 | 国庫債務負担行為を含め約600億円 | Helical Fusion一社への交付額ではない |
| 2025年度補正予算 | 200億円 | 事業全体の初期予算 |
| 採択状態 | 4件すべて条件付採択 | 条件確認後の正式採択は保証されていない |
| 補助率 | 対象経費の3分の2以内 | 事業者側の負担が残る |
| 事業期間 | 交付決定日から最長2029年2月28日まで | 2030年代の発電実証期間そのものではない |
| 個別交付額 | 経済産業省と事務局が今後調整 | 4件の配分は未公表 |
約600億円をそのままドルへ換算し、Helical Fusionが獲得した資金として示すと制度の実態を誤る。公表済みなのは複数年度にまたがる事業全体の規模で、2025年度補正は200億円である。補助率が3分の2以内である以上、採択企業には資金調達と自己負担を含む事業計画も必要になる。
国が選んだのは方式ではなく、絞り込みの競争
条件付採択となった4件は、閉じ込め原理も燃料構想も異なる。
| 代表事業者 | 採択資料に記された方式 |
|---|---|
| EX-Fusion、浜松ホトニクス | レーザー方式 |
| Helical Fusion | ヘリカル方式 |
| LINEAイノベーション | ビームを併用する磁場反転配位方式 |
| Starlight Engine、京都フュージョニアリング | 高温超伝導トカマク方式 |
この並走は偶然ではない。政府の資料は、現時点でどの核融合システムが「勝ち筋」か判断するのは困難だと明記している。そこでスタートアップが主導する複数方式を支援し、数年後に技術進捗、市場性と実施体制を評価する。海外動向も踏まえ、早期の発電実証へ国が継続支援する方式を選ぶ設計だ。
したがって、今回の条件付採択から「日本がヘリカル方式を選んだ」とは言えない。逆に、発電炉の候補を物理実験の成績だけで決めないことは確かである。資金を集められるか、サプライチェーンを構築できるか、立地と安全の説明を進められるかも選抜材料になる。
54分のプラズマと発電所の距離
ヘリカル方式では、外部コイルが作る三次元の磁場でプラズマを閉じ込める。トカマクのように大きなプラズマ電流を流して磁場の一部を作らないため、電流駆動を続ける必要がなく、電流が急減して装置へ大きな力を及ぼすディスラプションを避けやすい。定常運転へ向くとされる理由はここにある。
日本には、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDがある。LHDは主半径3.9m、最大磁場3T、総加熱能力36MWの実験装置で、1998年からプラズマ実験を続けてきた。研究成果には1億度を超えるイオン温度と、3268秒、約54分のプラズマ保持がある。ただし二つは別の到達点で、同じ放電で同時に達成した記録ではない。
さらに、LHDは発電炉ではない。長くプラズマを保つことと、重水素と三重水素の反応熱を取り出し、消費した三重水素を炉内で増殖し、加熱や冷却に使う電力を差し引いて外部へ送電することの間には複数の装置が要る。長時間運転の物理的な土台は強みだが、正味発電の実証へ読み替えることはできない。
磁石は直線試料から巻線コイルへ進んだ
Helical Fusionが先行させてきたのが高温超伝導(HTS)磁石である。ヘリカルコイルは連続した複雑な形状を持つため、完成後に一部分を取り外して交換するのが難しい。大電流を流せる導体を製造し、曲げて巻き、強い電磁力の中で超伝導を保つ製造法が必要になる。
2025年の査読論文では、長さ2mのU字導体を6K、8Tの環境で40kAまで上げ、8秒間維持した。別の試験では20K、8Tで22kAの通電を97回、累計164分行い、劣化やクエンチを確認しなかった。一方、論文が将来炉FFHR-b3向けに置いた条件は20K、19T、52.1kAである。試験設備の上限が8Tだったため、実機側の磁場と電流にはまだ差がある。
2026年には、導体を二重パンケーキ形に巻いたコイルへ進んだ。Helical Fusionの発表によると、初期温度10K、外部磁場7Tの試験で局所磁場は最大8.9Tに達し、40kAを280秒維持した。導体が受けた電磁力は1m当たり356kNで、急激な磁場変化に対する無絶縁コイルの自己保護も確認したという。結果は国際会議の査読付き論文に掲載された。
直線に近い導体から巻線コイルへ進み、電流、磁場と電磁力を同時にかけた意味は大きい。ただし、280秒のコイル要素試験は、三次元の全コイルを1年以上動かす試験ではない。発電炉では中性子照射による材料劣化、冷却、接続部の信頼性も同時に評価する必要がある。
HARUKAが統合しなければならない三つの壁
Helical Fusionは、2030年ごろの統合実証装置「Helix HARUKA」を経て、2030年代に発電実証装置「Helix KANATA」で正味発電を目指す。HARUKAが担うのは、個別試験で動いた部品を同じ装置へ入れたときの干渉を測ることである。
磁石は強さから寿命へ
会社の発電炉構想は1年以上の連続運転と80%以上の稼働率を目標に置く。局所的に8.9Tへ達したことは前進だが、長時間の熱負荷と放射線環境の中で磁場を保ち、故障時に安全に電流を逃がせるかが次の課題になる。ねじれたコイルは装置の中核を囲むため、交換しにくさも設備寿命へ直結する。
液体金属は熱と燃料を同時に運ぶ
同社は液体金属をブランケット兼ダイバータに使う。プラズマから来る熱と粒子を受け、発電用の熱を運びながら、消費する三重水素を増殖する構想だ。固体部品の交換回数を減らせる可能性がある反面、強い磁場中で液体金属を循環させるポンプ電力、腐食、漏えい時の閉じ込めを確かめなければならない。
2023年の概念設計論文も、液体金属の循環に必要な所内電力を未確定の項目として残した。発電機の総出力が大きくても、磁石の冷却やプラズマ加熱、液体金属の循環に多くの電力を使えば、正味発電は小さくなる。KANATAの成否は核融合出力そのものより、設備全体の電力収支で判定される。
保守計画は紙の上から遠隔作業へ
同じ概念設計は、90個のブランケットモジュールを上部から取り出し、1日に3〜4個を交換して約1カ月で定期保守を終える構想を示した。これは保守時間を稼働率へ結び付けた具体案だが、遠隔保守の実績ではない。配管、遮蔽と作業空間を備えた統合装置で交換手順を再現し、被ばく管理と廃棄物処理まで含めて時間を測る必要がある。
2030年代の発電実証が測るもの
発電実証推進事業の最長期間は2029年2月までであり、KANATAの運転時期とは一致しない。この期間は、2030年代の実証炉を完成させる期限というより、国が継続支援する方式を判断するための証拠を増やす段階と見るべきだ。マイルストーンの達成状況によって、支援継続が見直される仕組みも置かれている。
Helical Fusionは岐阜県土岐市の核融合科学研究所で、HARUKA向けHTS磁石の実証設備を製造・建設中とし、国内30社を超える企業と開発を進めている。正式採択に至った場合、次に見るべきなのは交付額に加え、2029年2月までにどの磁場、運転時間と統合範囲を約束するかである。液体金属系の熱回収と三重水素管理、遠隔保守をどの規模で示すのかも判断材料になる。
今回の決定で、ヘリカル方式は研究装置の延長から、期限と事業条件を持つ発電実証候補へ移った。しかし、方式の優位性はまだ政策的にも技術的にも確定していない。通知条件を満たして正式採択へ進めるかをまず確かめ、巻線コイルの試験を統合装置へ広げ、最後に正味発電と稼働率を実測する。その各段階を飛ばさず追うことが、「連続運転できる核融合炉」という構想の現実味を測る最短の方法になる。



