Appleは2026年8月25日、M5 MaxとM5 Ultraを搭載したMac Studioを発表した。国内では予約を受け付けており、発売は9月22日。M5 Maxモデルの最低価格は税込41万9,800円である。Appleが掲げるM1 Max比の性能は、Xcodeのコードビルドで最大2.5倍、LM Studioでは最大10.7倍に達する。
この数字だけを見ると、2022年のM1 Max搭載機は一気に旧式になったように映る。だが、2.5倍と10.7倍は同じ意味の速度ではない。後者が測っているのは14Bパラメータの量子化モデルで最初のトークンが生成されるまでの時間であり、試験には128GBメモリと8TB SSDを積んだM5 Maxの上位構成が使われた。41万9,800円のベースモデルを買えば、あらゆる処理が10倍になるという話ではない。
M1 Maxからの買い替えを決める材料は、世代名よりも、仕事のどこで待たされているかにある。新機種はAI、3Dレンダリング、高速I/Oで待ち時間を大きく縮める可能性がある。その反面、国内の入口価格はM1 Max世代から17万円上がり、標準SSDは512GBのままだ。性能差を測定条件まで分解すると、アップグレードの恩恵を受ける作業と、実機テストを待つべき作業の境界が見えてくる。
同じ筐体のまま、ボトルネックが動いた
M5 Max搭載機の外形は幅19.7cm、奥行き19.7cm、高さ9.5cmで、M1 Max搭載機と変わらない。机上の占有面積を増やさず、演算系とメモリ、外部接続を更新した点は、Mac Studioの価値を保っている。
ベース構成の違いは表の通りである。M5 MaxではCPUが10コアから18コアへ、GPUが24コアから32コアへ増えた。メモリは32GBから36GBへ増えたが、SSDは512GBで変わらない。メモリ帯域幅は400GB/sから460GB/sへ増えた。上位構成では40コアGPU、128GBメモリ、614GB/sまで拡張できる。
| 項目 | M1 Max Mac Studio(2022年、ベース) | M5 Max Mac Studio(2026年、ベース) | M5 Maxの上限 |
|---|---|---|---|
| CPU | 10コア | 18コア | 18コア |
| GPU | 24コア | 32コア | 40コア |
| ユニファイドメモリ | 32GB | 36GB | 128GB |
| メモリ帯域幅 | 400GB/s | 460GB/s | 614GB/s |
| SSD | 512GB | 512GB | 8TB |
| Thunderbolt | Thunderbolt 4、最大40Gb/s | Thunderbolt 5、最大120Gb/s | 同左 |
変化の重心は、増えたコア数と専用回路の双方にある。M5 MaxはGPUの各コアに行列演算を担うNeural Acceleratorを組み込み、ハードウェアによるレイトレーシングにも対応する。AI推論や画像生成、3Dレンダリングでは、世代間の差が通常のCPU処理より大きくなりやすい。
外部接続も仕事の流れを変え得る。Thunderbolt 5の最大120Gb/sは、M1 Max世代のThunderbolt 4が示す最大40Gb/sの3倍である。ただし、これは対応ストレージやケーブルを含む接続経路の上限だ。単体SSDが必ず3倍速くなるわけではない。複数の高速ストレージ、映像入出力、拡張筐体を同時に使い、従来の40Gb/sが詰まっている環境ほど効果は大きい。
最大10.7倍の中身は、最初の1トークンを待つ時間
Appleが示したM1 Max比の倍率は、処理内容によって4倍以上の幅がある。Xcodeでオープンソースプロジェクトをビルドした試験は最大2.5倍、Redshiftのレンダリングは最大4.9倍だった。DaVinci Resolve StudioのMagic Maskは最大5.3倍、画像生成は最大7.4倍である。Oxford NanoporeのMinKNOWでベースコール処理を行った試験は最大3.5倍である。
最も大きい最大10.7倍は、LM Studioで14Bパラメータのモデルを4ビット量子化し、8000トークンのプロンプトを入力したときの値だ。測定対象は最初のトークンが生成されるまでの時間である。文章を最後まで出す総所要時間でも、連続生成時の毎秒トークン数でもない。プロンプトを読み込み、最初の応答を返す段階でM5 MaxのGPU内アクセラレータが強く効いた結果と読める。
試験構成にも注意が要る。M5 Max側は18コアCPUと40コアGPUを備えた試作Mac Studioだった。メモリは128GB、SSDは8TBである。M1 Max側の量産機は10コアCPUと32コアGPUを備え、64GBメモリと8TB SSDを搭載していた。両者はGPUコア数もメモリ容量も一致しない。Appleが製品の上限性能を示す試験としては理解できるが、36GB/512GBのベースモデル同士をそろえた比較ではない。
Redshiftの最大4.9倍も、M5 Max側ではハードウェアレイトレーシングを有効にしている。これは新世代の専用回路が作業を短縮する実例であり、同時に倍率を一般化できない理由でもある。コンパイル中心なら2.5倍側、対応したAIや3D処理なら5〜10倍側に近づく可能性がある。どちらの数字を買い替え判断へ使うかは、普段のアプリと処理に同じ高速化経路があるかで決まる。
発売前の比較でMacBook Proを代用する限界
第三者ベンチマークにも時期の制約がある。AppleInsiderは新機種の発売前にM1 MaxとM5 MaxのMac Studioを比較し、Geekbench 7のCPUスコアを並べた。ただし、記事公開時点でM5 Max搭載Mac Studioの結果はなく、M5 Max側には16インチMacBook Proの投稿値を代用している。記事自身もこの点を明記している。
参照されたM5 Maxの結果はシングル3569、マルチ33387だった。メモリは128GBで、モデル識別子はMac17,6である。Appleのサポート情報によれば、Mac17,6は2026年の16インチMacBook Proを指す。M1 Max側はMac Studioのシングル2143、マルチ14611、32GBメモリだった。同じGeekbench 7の数字でも、筐体、メモリ容量、OSビルドがそろっていない単発投稿である。
この比較から、M5 Maxチップの短時間CPU性能がM1 Maxを大きく上回る方向は確認できる。Mac Studioの量産機が同じ数値になるとは限らない。冷却容積と電力設定が違うため、長時間レンダリング時の持続性能、ファンの音、壁コンセントでの消費電力はMacBook Proから推定できない。SSD速度も搭載容量や部品構成の影響を受ける。
新Mac Studioは9月22日発売予定である。現段階の第三者比較は「チップがどの程度伸びそうか」を見る先行指標に位置づけ、デスクトップとしての完成度は量産機の測定へ留保するのが妥当だ。とりわけM1 Maxを現役で使えている所有者は、発売前の単発スコアだけで急ぐ必要はない。
17万円高くなった入口、据え置かれた512GB
2022年のM1 Max搭載Mac Studioは、国内で税込24万9,800円から販売された。2026年のM5 Max搭載機は41万9,800円からで、差額は17万円、名目の上昇率は68.1%になる。この比較は為替や物価を調整しておらず、CPUとGPUの構成も違う。新機種の割高・割安を68.1%だけで断定することはできない。それでも、M1 Max所有者が追加投資の大きさを測る基準にはなる。
同じ期間に、ベースのユニファイドメモリは32GBから36GBへ4GB、12.5%増えた。SSDは512GBで据え置かれている。ローカルAIを前面に出す製品として36GBは小規模な量子化モデルを動かせるが、モデル本体とコンテキストが同じメモリ領域を使う。そこへアプリとOSの使用量も加わる。Appleが最大10.7倍を測った128GB構成とは、収容できるモデルと余裕が異なる。
512GB SSDも用途との釣り合いを考える必要がある。動画素材、3Dアセット、複数のローカルモデルを置けば、空き容量は早く減る。Thunderbolt 5で高速な外部ストレージを増設できるため、内蔵SSDだけが解決策ではない。しかし外部SSD、対応ケース、ケーブルの費用と机上配線まで含めれば、最低価格のまま運用できる利用者は限られる。
価格差を性能倍率で割る考え方にも落とし穴がある。10.7倍の試験と同じAI待ち時間が毎日発生するなら、短縮できる人件費や納期は17万円を回収し得る。コードビルドが主で最大2.5倍に近く、しかも現在の待ち時間が短いなら、回収期間は長くなる。購入価格ではなく、月に何時間の待ち時間を削れるかを見積もる方が実務的だ。
買い替えを決めるのはピーク性能より、削れる待ち時間
M1 MaxからM5 Maxへの更新効果が大きいのは、まず対応アプリでGPU内のNeural Acceleratorやレイトレーシングを継続的に使う人である。ローカルLLMのプロンプト処理や画像生成が日々の納期を支配しているなら、公称倍率の大きい側へ近づく。3DレンダリングやMagic Maskのような映像解析も同様だ。128GBまで拡張できるため、64GBを上限としたM1 Maxでメモリ不足に直面している場合も、性能より先に処理可能な案件の範囲が広がる。
次に、Thunderbolt 4の帯域を使い切っている制作環境が該当する。複数の高速SSDや高解像度映像機器を並行運用し、コピーやキャッシュ待ちが発生しているなら、Thunderbolt 5は計算性能とは別の待ち時間を削れる。内蔵ストレージを増やすか、外部ストレージへ投資するかを含め、システム全体で判断すべき領域だ。
CPU中心の開発作業にも更新価値はあるが、期待値はAIの10.7倍ではなく、AppleのXcode試験が示す最大2.5倍を起点に置く方が安全である。実際のビルドはプロジェクト構成とキャッシュ、並列化の程度で変わる。現在のM1 Maxでビルド待ちが一日の流れを何度も止めるなら候補になる。待ち時間が数十秒で済んでいるなら、価格差に対する効果は薄い。
ProRes中心の編集や一般的なオフィス作業では、M1 Maxがすでに十分な場合が多い。既存のタイムラインがリアルタイムで再生でき、書き出しが業務の律速になっていなければ、数字の大きさほど日常は変わらない。まずアクティビティモニタやアプリの計測機能で、演算とメモリのどちらが詰まっているかを確認したい。ストレージや外部I/Oの待ち時間も別に測る。
9月22日以降に見るべき実測値は明確である。36GB/512GBのベース構成では、まず長時間のCPU・GPU性能と騒音を測りたい。消費電力とSSD速度、128GB構成との差も判断材料になる。Apple公称値とMacBook Proの代用値は、M5 Maxが大幅に進んだことを示している。まだ示していないのは、41万9,800円の入口モデルが個々の仕事で何分を返してくれるかである。M1 Max所有者に必要なのは、最大倍率への期待ではなく、その分数を量産機で確かめることだ。



