2026年4〜6月期、OpenAIの営業損失は123億ドルに達した。1〜3月期の93億ドルから32%増えた一方、売上の伸びは57億ドルから67億ドルへの18%どまりだ。それでも会社の値札は動いていない。

2026年3月の1220億ドル調達で付いた8520億ドルという評価額は、8月10日に完了した70億ドル分の従業員株売却でもそのまま使われた。同じ株に、二つの値段が並んで付いている。セカンダリー市場でも上乗せはわずか3%にとどまり、同じ市場でAnthropicは前回ラウンドを1割以上上回る水準まで買われている。赤字が評価額を押し上げてきたのなら、損失が過去最大に膨らんだこの半年こそ、値札は上がっていなければ筋が通らない。

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損失93億ドルから123億ドルへ、評価額8520億ドルは4カ月動かず

WSJが伝えた2026年上半期の内訳は、四半期ごとに悪化している。1〜3月期は売上57億ドルに対して営業損失93億ドル、4〜6月期は売上67億ドルに対して営業損失123億ドル。半期累計の営業損失は216億ドルに達した。The Informationが報じた社内の通期予測は140億ドルで、これは米国会計基準(GAAP)に沿わない調整後の数字だ。株式報酬などを含むGAAP基準の上半期実績216億ドルは、基準の異なる140億ドル予測の1.5倍にあたる。

未公開企業の評価額は、株式市場のように毎日つく値段ではない。誰かが株を売買し、その取引で1株いくらと決めた瞬間にだけ更新される。8520億ドルという数字は2026年3月に閉じた1220億ドルの調達ラウンドで決まり、8月の従業員株売却では同じ数字が再利用された。据え置きは、市場が現状維持を選んだ結果ではない。値を付け直す機会に、前回の数字がそのまま持ち出されただけだ。

ここでよく混同されるのが、確定した評価額と目標評価額である。日本語圏の報道で繰り返し出てくる「160兆円」は、CEOのSam Altmanが掲げるIPO時の目標1兆ドル超を1ドル=159.5円で換算した数字だ。いま取引で確定しているのは8520億ドル、同じレートで約136兆円になる。両者には17%の開きがあり、その開きを埋めているのは実績ではない。約136兆円という数字自体、2026年度の日本の一般会計予算約122兆円を上回る。

通期でいくらの赤字になるかも、数え方によって4倍以上に開く。社内予測の140億ドルは会社が自ら定義する調整後の指標であり、何を除いた数字なのかを外から確かめられない。上半期の実績216億ドルを同じペースで年率へ引き延ばせば通期は400億ドル規模になり、予測分析サイトfuturesearch.aiがQ1・Q2実績からGAAP基準で組み直した試算は約600億ドル、幅を取れば380億ドルから950億ドルに開く。評価額の妥当性を論じる前に、赤字の額そのものが確定していない。

損失の増え方と売上の増え方を並べると、この半年に何が変わったのかがはっきりする。売上は四半期で18%伸び、損失は32%伸びた。非公開企業であるOpenAIは、会計基準が異なるとはいえ216億ドルと140億ドルの開きがなぜこれほど大きいのかを公に説明していない。説明のないまま、値札だけが半年間そこに置かれている。

290億ドルから8520億ドルへ、29倍の階段を作った5段の取引

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Microsoftが100億ドルを出した2023年1月、OpenAIの評価額は290億ドルだった。そこからThrive Capital主導の従業員株テンダーで800億ドル、2024年10月2日の66億ドル調達で1570億ドル、2025年3月31日の400億ドル調達で3000億ドルへ切り上がる。2025年3月のラウンドは、SoftBankが300億ドル、シンジケートが100億ドルという内訳だった。2025年10月の従業員株売却で5000億ドル、2026年3月31日の1220億ドル調達で8520億ドル。38カ月で約29.4倍である。

この5段のうち2段は、会社に1ドルも入っていない。2024年2月までに成立した800億ドルのテンダーと、2025年10月の5000億ドルは、既存株主や従業員が持ち株を第三者へ売る取引だ。新株を発行しないので資本は増えず、既存株主の持ち分も薄まらない。それでも成立した価格は次のラウンドの出発点として使われ、階段の一段として残る。評価額の上昇と会社の資金調達は、同じ動きに見えて別々に進んできた。

切り上げの間隔と幅も動いている。290億ドルから800億ドルまでは13カ月かけて2.8倍になったが、5000億ドルから8520億ドルへの直近の一段は5カ月で1.70倍だった。1回あたりの上げ幅は縮み、取引の間隔は短くなっている。資金の出し手が増えて取引が頻繁になるほど、一度に乗せられる幅は小さくなる。

2025年10月28日に完了した資本再編は、この階段の途中に置かれた分岐点だった。非営利法人はOpenAI Foundationへ改称して支配権を保ったまま、営利子会社をOpenAI Group PBC(公益法人)へ転換する内容だった。転換後の持ち分は、OpenAI Foundationが26%で約1300億ドル、Microsoftが27%で約1350億ドルと開示されている。1350億ドルは5000億ドルの27%と正確に一致する。26日前の10月2日に従業員のセカンダリー取引が付けた5000億ドルが、そのまま持ち分計算の基準点になったわけだ。

同じ転換で、Microsoftは持ち分の数字を確定させる代わりに権利の一部を手放した。OpenAIのモデル・製品に関する技術利用権は2032年まで延びた一方、研究IPの利用権はAGI(汎用人工知能)の到達が検証されるか2030年のいずれか早い時点までとされ、消費者向けハードウェアは対象外となった。AGIの到達自体はOpenAIが宣言し、独立したパネルがその宣言を検証する仕組みに変わり、計算資源の調達に関する優先交渉権は消滅している。資本構造としては、この時点でOpenAIは投資家が値段を付けられる普通の会社に近づいた。IPOという出口が現実の選択肢として語られ始めるのも、この転換の後である。

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実績売上の65倍という値付けが成り立つ条件

8520億ドルを2025年通期の売上130.7億ドルで割ると、約65倍になる。AI企業の売上倍率は中央値で20〜30倍、インフラ層の最上位でも40〜100倍の帯に収まるという集計があり、65倍はその中央値の2倍以上に位置する。2025年のOpenAIはGAAPベースで385億ドルの純損失、営業損失で209.2億ドルを計上した。純損失は売上の3倍近い。その会社に、売上の65倍の値札が付いている。

Bridgewater Associatesの共同CIOであるGreg Jensenは、売上倍率35倍という水準について「まだ存在していないモノポリー的な帰結を織り込んだ値段だ」と述べたと伝えられている。35倍でその評価なら、65倍はさらに先を見ている。買い手が支払っているのは現在の事業の対価ではなく、この会社が最終的に市場を独占するという筋書きが実現したときの取り分である。

赤字が減点にならない理屈は、損失の中身を見る順番にある。買い手はまず売上の増え方を見て、次にその市場がどこまで広がるかを見る。損失が計算資源の先行取得と学習コストで説明できるかぎり、赤字は将来の生産能力の前払いとして読み替えられ、損益計算書の一番下の行は割引率の材料から外れる。この読み替えには条件が一つある。損失の伸びが、売上の伸びを下回っていることだ。

同じ会社を別の分母で割ると、見える数字は変わる。2025年末に200億ドルだったOpenAIの年換算売上高(revenue run rate)は、2026年7〜8月に400億ドルへ倍増した。8520億ドルを400億ドルで割れば21倍になり、これは業界中央値の帯の内側だ。65倍と21倍のどちらを使うかで結論は反転し、強気と弱気の分かれ目はそのまま「実績売上を見るか、直近の年換算売上を見るか」に置き換わる。

この物差しには、経営の側から見たときの副作用がある。倍率が下がる道は分母である売上が伸びることだけで、コストを削っても倍率は1ポイントも動かない。損失を圧縮しても評価額の説明が良くならない以上、支出を絞る動機は経営に働きにくい。赤字が評価額を押し上げるように見える現象の一部は、この物差しが選ばれていること自体から生じている。

この2つの倍率がどこまで縮むかは、2026年の実績で決まる。上半期の売上は57億ドルと67億ドルで合計124億ドル、年換算400億ドルは四半期あたり100億ドルの水準にあたる。下半期にその水準で計上できれば通期は320億ドル前後になり、8520億ドルはその約26倍まで下りて業界中央値の上限に届く。65倍という数字が実績の説明に変わるかどうかは、上半期の124億ドルと年換算400億ドルの差を売上が埋められるかにかかっている。

先例として引かれるのはAmazonである。1996年から97年にかけて売上を約9倍に伸ばしながら赤字を続け、初めて通期で黒字を計上したのは2003年だった(発表は2004年1月)。同じ論理で語られたUberは、成長率が鈍った局面で赤字を許してもらえなくなった。両者を分けたのは赤字の大きさではない。赤字と併走する成長率が、投資家に読み替えを続けさせるだけの説得力を持っていたかどうかだった。

2026年上半期のOpenAIは、この併走の向きが変わった半年になった。売上が18%伸びるあいだに損失は32%伸び、65倍を21倍へ引き直すための根拠が四半期ごとに薄くなっている。値札が動かないのは、買い手が強気を維持したからでも弱気に転じたからでもなく、引き直す材料が両方向に出そろっていないからだ。

誰がこの賭けの担保を出しているのか

Sam Altmanは2025年11月、NvidiaやAMD、Broadcomなどと8年で30ギガワット、総額約1兆4000億ドルの計算資源契約を結んだと語った。一次文書は公開されておらず、数字はAltmanの発言として伝えられている。2026年2月にはCNBCが、投資家向けの支出目標を2030年までで6000億ドル規模へ引き直したと単独で報じた。1兆4000億ドルは8年間の契約総額、6000億ドルは2030年までの投資目標であり、対象期間が異なるため単純比較はできない。どちらも将来計画であり、実行済みの支出ではない点は共通する。

支払いの原資を作っているのは、OpenAI本体より取引先の側だ。OpenAI自身は社債を発行していない。一方でAI関連の債券発行は2026年に世界で約5700億ドル規模に達する見込みで、前年比4倍のペースにある。OpenAI向けの調達を肩代わりしてきたOracleは2026年7月、S&Pに長期格付けをBBBからBBB-へ引き下げられ、OpenAI向けの契約が「主要な信用リスク」と名指しされた。OpenAIの貸借対照表には載らない債務が、取引先の格付けを削っている。

社債を出さない理由をOpenAIは公にしていない。はっきりしているのは結果のほうだ。格付けが削られたのはOracleの側であり、社債を出さないかぎりOpenAI本体の信用力が市場で試される場面はない。返済能力を採点されない借り手が、兆ドル単位の設備投資の受益者になっている。

Nvidiaが2026年8月10日に発表した融資プラットフォームは、この構造をもう一段はっきりさせた。ApolloやBlackstone、KKRなど6社と組み、5000億ドルを超える第三者資本を動員する枠組みだ。案件の一部を支えるのが残余価値保証であり、5000億ドルが企業別にどう配分されるかは発表文で示されていない。

GPUを担保に取る貸し手は、借り手が倒れたときに担保をいくらで売れるかを読めない。Nvidiaは一部の案件について、機会総額の最大25%まで残余価値支援を提供する可能性があるとしており、これが実行されれば読めない部分が縮み、融資が動きやすくなる。自社製品の中古価格の一部を自社が支援し、自社製品を買うための資金を作る回路になりうる。この枠組みはまだ最終契約前の覚書(MOU)段階であり、対象となる案件や条件は今後確定する。

Nvidiaは資本の側からも支えている。2026年3月の1220億ドルラウンドに300億ドルを投じ、主要な出資者の一角になった。同じラウンドではAmazonが500億ドルを入れており、出資額そのものはAmazonが上回る。8月10日の6社プラットフォームとは別に、Nvidiaは2026年8月17日、SB EnergyのオハイオAI施設をめぐるOpenAIのリース・電力支払い義務について最大1050億ドルの保証契約を締結したとSEC提出書類で確認されている。当初2500億ドル規模と報じられていた保証枠は、この個別契約を経て確定額まで縮小した。

資金の流れを追うと、同じ会社が複数の役回りを兼ねている。Nvidiaは出資者として資本を入れ、保証の提供者として貸し手のリスクを引き受ける。そして計算資源の売り手として、その資金で買われるGPUの代金を自ら受け取る。日本経済新聞は2026年2月、NvidiaとOpenAIのあいだを回る資金をITバブル期の循環投資になぞらえて報じた。売り手が買い手の購買力を作る構造では、需要が本物かどうかは製品が実際に使われるまで確かめられない。

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米政権の科学技術顧問David Sacksは、この融資計画の最大のリスクは計算資源の供給過剰だと警告した。ドットコム期に大量に敷設され使われないまま残った光ファイバーが、今度は「dark GPU」として再来しかねないという見立てである。OpenAIが赤字を出し続けても本体が倒れにくいのは、賭け金の相当部分がMicrosoftやNvidia、Oracleの側に置かれているからだ。裏を返せば、評価額の調整は本体より先に取引先の格付けや社債価格へ出る。

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黒字化したAnthropicと、無分別と呼ばれたxAI

Anthropicの評価額は2025年9月のSeries Fで1830億ドル、2026年2月のSeries Gで3800億ドル、5月28日のSeries H(650億ドル調達)で9650億ドルへ切り上がった。8カ月余りで5.3倍になり、OpenAIの8520億ドルを追い抜いている。年換算売上も2025年末の90億ドルから2026年5月に470億ドル、7月末には650億ドルへ伸びた。

決定的な違いは損益にある。2026年4〜6月期、Anthropicは売上115億ドル超(前四半期比143%増)を計上し、調整後営業利益で黒字に転じたと報じられている。Anthropic自身にとって初めての四半期黒字だった。同じ四半期、OpenAIは売上67億ドルに対して123億ドルの営業損失を出している。売上でも損益でも、Anthropicが上に立った四半期だった。

損失そのものが評価額を押し上げるのなら、黒字化したAnthropicの値札は伸び悩むはずだった。結果は逆に出ている。年換算売上で割った倍率を並べると、OpenAIは8520億ドル÷400億ドルで約21倍、Anthropicは9650億ドル÷650億ドルで約15倍になる(いずれも2026年7〜8月時点)。売上1ドルあたりでOpenAIに約1.4倍のプレミアムが付いたまま、足元の売上と利益はAnthropicが上回る。

投資家が値段を付けているのは、成長率と将来の市場地位の見立てだ。Anthropicが黒字化したことで、投資家は同社の成長を外部資金への依存なしに続けられる会社として値付けし直した。OpenAIの21倍にはまだ、赤字を埋め続ける前提の資金調達リスクが織り込まれている。

同じロジックの極端な適用例がxAIだ。2026年1月6日に200億ドルをSeries Eで調達して評価額2300億ドルを付け、その27日後の2月2日にSpaceXと株式交換を軸に合併した。統合後の評価額は1兆2500億ドルに達し、取得対象となったxAI側の取引価値2500億ドルは史上最大のM&A案件と評された。合併までのあいだ、xAIの財務は外から見えなかった。

中身が表に出たのはSpaceXのS-1だった。開示された2026年1〜3月期の売上は8.18億ドル、営業損失は24.7億ドルで、売上の約3倍を失っている。同じ四半期に設備投資へ回した額は77億ドルにのぼる。PitchBookのシニアリサーチアナリストHarrison Rolfesは「従来型のSaaS企業と比べれば、この財務状況は無分別に見える」と評した。

倍率で見ると、上位2社が突出しているわけでもない。xAIの2026年1〜3月期の売上8.18億ドルを年率へ引き延ばすと約32.7億ドルになり、Series E時点の評価額2300億ドルはその約70倍にあたる。ARR約4.5億ドル(2026年3月)のPerplexityも、230億ドルへの評価額引き上げが報じられた時点で約51倍だ。時点の揃わない概算ではあるが、売上あたりで最も高い値が付いているのは規模の小さい側になる。

非公開のあいだ、これらの数字は開示の事故でしか表に出ない。xAIの実態はSpaceXの上場準備の副産物として明らかになり、OpenAIの2025年実績も流出した資料として伝わった。売上130.7億ドル、営業損失209.2億ドル、純損失385億ドルという数字は、会社が自ら投資家以外へ示したものではない。値付けを検証する材料は、値付けをする人の手元にしかない。

SoftBankの11.66%が抱える15兆円という日本側の持ち分

SoftBank Groupは2026年4月時点でOpenAI株の11.66%を保有するとされる。8520億ドルの評価額で換算すると約993億ドル、1ドル=159.5円(2026年8月28日時点)で約15兆8000億円にあたる。同社は2025年3月の400億ドルラウンドで300億ドルを投じたほか、2026年3月のラウンドでも300億ドルをコミットしており、8月29日時点の払込済み額は4月・7月分の計200億ドルで、残る100億ドルは10月に払い込む予定だ。評価額が1割下がれば、円換算で1兆6000億円規模の保有価値が消える計算になる。

この持ち分の性質は、上場企業の株主にとって特有の会計処理を伴う。SoftBankはOpenAI株を公正価値評価(FVTPL)の対象として保有しており、新たな取引が起きなくても四半期ごとに評価を見直し、評価差額を損益として計上する。OpenAI自体の評価額は次の取引まで動かなくても、SoftBankの四半期決算に表れる評価は市場環境や社内モデルの見直しに応じて先に動くことがある。東証に上場する同社の決算を通じて、国内の年金基金や個人投資家は、取引の有無にかかわらず動くこの評価差額に接続されている。

日本の事業会社はもう一方の側に並んでいる。SBIホールディングスは2026年6月2日、日本の金融グループとして初めてAnthropicと戦略提携を結んだ。NECは6月11日、三井住友FGや大和証券を含む金融8社とAnthropicをつなぐ連携を発表している。日立や富士通も同じ4〜6月に提携を公表しており、国内大手6社がこの時期にAnthropic側へ寄った。

提携が集中した4〜6月は、Anthropicが初の四半期営業黒字に向かっているとBloombergが報じた5月20日をはさむ時期にあたる。国内の大手が選んだのは、評価額の階段を上る会社への出資よりも、損益が黒に転じつつある会社との業務提携だった。出資のリターンは評価額が改定されるまで実現しないのに対し、提携の見返りは自社の業務の中で回収できる。

資本ではOpenAI、業務ではAnthropicという分かれ方が生じている。SoftBankの持ち分は次のラウンドの値付け一つで15兆円台が上下するのに対し、Anthropicと組んだ企業が受け取るのは製品と運用の成果であり、評価額の変動とは直接つながらない。日本のAIへの資金は、値札に賭ける側と、使って回収する側の二つに分かれて動いている。

セカンダリー市場が先に値付けを訂正し始めた

ラウンドで付いた8520億ドルに対し、Forge Global基準のOpenAI株は2026年8月時点で約8800億ドル、ラウンド比でわずか3%高いだけの水準にとどまる。同じ時期、Anthropic株は非公開市場で1兆1000億ドル前後まで買われ、5月のSeries H評価額9650億ドルを14%ほど上回る。2025年後半から2026年前半までOpenAIが大きく上回っていた構図は、この夏のあいだにAnthropicの逆転で入れ替わった。

この差が出る理由は、二つの市場の値決めの作法が違うところにある。新規ラウンドの評価額は会社と主導投資家の交渉で決まり、優先株に付く条件次第では数字が実態より高く出る。セカンダリーは既存株主と買い手の相対取引で、そうした条件の恩恵が薄い普通株に近い株が動く。だから上乗せ幅の大小は、次のラウンドの値付けに対する市場参加者の見方を先に映す。3%というほぼゼロの上乗せは、次に付く数字が8520億ドルを大きくは超えないという見方が優勢だという意味になる。

売っている側の顔ぶれも、この差を読む材料になる。8月の70億ドル分は会社が用意した従業員向けの売却枠で、ラウンドと同じ8520億ドルで成立した。それから数週間のうちにセカンダリー市場で付いた上乗せが3%にとどまったことは、次のラウンドが8520億ドルを大きく超える確信を市場がまだ持てていないことを示す。

出口の想定時期も社内で揃っていない。OpenAIは2026年6月に米証券取引委員会(SEC)へ非公開で上場申請し、想定評価額は1兆ドル超とされる。Altmanはその数字を掲げる一方、CFOのSarah Friarは2027年の上場が現実的だと社内で語ったと伝えられている。目標額を語る側と時期を見積もる側で、置いている前提が1年分ずれている。

上場は資金調達の手段であると同時に、値付けの検証装置でもある。申請が非公開で行われたため提出書類はまだ表に出ていないが、上場が実現すれば、流出資料と取引先の格付けから推し量るしかなかった数字が監査済みの書式で並ぶ。SoftBankが2019年に470億ドルの評価を付けたWeWorkは、同じ年のS-1で19億ドルの赤字が開示された途端に評価が崩れ、2023年に破産した。開示は、非公開のあいだ積み上がった値札を一度に精算する。

3年2カ月の29倍を作ったのは、赤字そのものではなかった。売上の伸びが損失の伸びを上回っているあいだ、投資家は赤字を将来の生産能力の前払いとして読み替え続けた。その読み替えを支えていた成長率の説得力が、2026年上半期に初めて逆転した。値札が132日動かず、セカンダリー市場でもほぼ横ばいにとどまるあいだにAnthropicが評価額の首位を奪ったのは、読み替えの前提が崩れたところに市場が価格で反応したからだ。

次に確認できる数字は三つある。次のラウンドが8520億ドルを上回る値を付けるか。IPOがFriarの言う2027年に来て、想定額が1兆ドルの水準を保つか。そして通期の営業損失が上半期216億ドルの延長線に乗るか、それとも売上の伸びが損失の伸びを再び上回る四半期が出るか。三つ目が最初に反転すれば、65倍という数字は将来への織り込みから実績の説明へ変わり、OpenAIは開示のないまま値踏みされる状態から抜け出せる。