2010年に製造された古い記憶媒体が、公称の書き換え限界を桁違いに超えて動き続けているという話がネット上を駆け巡った。Redditのコミュニティ「r/ssd」に投稿されたスクリーンショットには、容量わずか64GBのSanDisk製SSDが、累計で9ペタバイト(PB)以上の書き込みを記録しながら稼働している姿が示されていた。

9PBという容量は、64GBのドライブ全体を約14万回以上も完全に書き換えた計算になる。一般的なSSDの寿命指標から見れば、物理的な限界を数百倍も突破したかのような数値だ。

だが、この数値の裏側には、ストレージの測定指標とハードウェア構造の間に横たわる決定的な乖離が隠されている。この実験を行った本人が技術フォーラムで明かしている手法を詳細に追うと、物理的なフラッシュメモリが奇跡的な耐久性を発揮したわけではないことがわかる。行われていたのは、SSDの頭脳であるコントローラとファームウェアの処理能力を極限まで酷使する特異な負荷試験だった。

AD

ネット上で話題となった「9ペタバイト生存」の数字

話題の発端となったのは、RedditユーザーのFresh-Palpitation-72による投稿だ。Wccftechなどのテック系メディアがこれを取り上げ、16年前の旧式SSDが過酷な耐久試験を生き延びているとして報じた。

公開されたSMART(自己診断機能)のデータによると、ドライブの累積稼働時間を示すAttribute 9(Power-On Hours)は6万1,000時間を超えていた。これは年数に換算して約7年間の連続通電に相当する。ホストから送信された総書き込みセクタ数を示すTotal_LBAs_Writtenのカウンタは、9ペタバイトを突破していた。

この実験は突発的に行われたものではない。検証者はTechwolfsというハンドルネームを用い、技術コミュニティのLevel1Techsフォーラムにおいて2026年7月頃から「Forced a 16 year 64gb ssd p4 sandisk from 2010 rated for 40tbw, hit 1 petabyte to pass 8 petabytes」と題したスレッドで詳細な経過を記録していた。自身のYouTubeチャンネル「WolfyTech」でも、初期段階である1ペタバイト到達時の挙動を動画で公開している。

メディアの報道では「初期のMLCフラッシュメモリの並外れた耐久性」といった文脈で語られることが多かった。しかし、提示された数値を額面通りに受け取る前に、対象となったハードウェアの素性と、検証者が実際に施したテスト内容を切り分ける必要がある。

2010年生まれの薄型端末向けSSD「SanDisk P4」の素性

試験台となった個体は、SanDiskが2010年6月1日に台湾のComputex Taipeiで発表したモジュラー型ソリッドステートドライブ「SanDisk SSD P4」の64GBモデル(ファームウェアバージョン: SSD 8.10)である。

SanDiskの公式データシートによると、P4シリーズは当時のネットブックやタブレット、薄型組み込み機器向けに設計された第3世代のpSSD製品群に属する。接続インターフェースにはSATA II(3.0 Gbps)を採用し、ハーフ1.8インチやmSATAなど小型のフォームファクタで展開されていた。

フラッシュメモリの製造プロセスには32nm世代のMLC(Multi-Level Cell)NANDが使われている。1セルあたり2ビットのデータを保持する構造だ。SanDiskがデータシート上で保証していた長期データ書き込み耐性(Long Term Data Endurance)は、64GBモデルで40 TBW(テラバイト書き込み)だった。

項目 製品の公称仕様 実験で記録された表面上の数値
ドライブ容量 64GB 64GB
フラッシュメモリ種別 32nm MLC NAND 32nm MLC NAND
インターフェース SATA II(3.0 Gbps SATA II(3.0 Gbps
公称書込耐性(TBW) 40 TBW 9,000 TBW以上(9 PB超)
通電時間 該当なし 61,000時間超(約7年相当)
書込サイクル換算 約625サイクル(40TBW基準) 約140,000サイクル以上(ホスト計算値)

もし9ペタバイトというデータ量が物理的なフラッシュメモリのセルに対して直接書き込まれていたとすれば、ドライブは公称耐性の約225倍という途方もない負荷に耐えたことになる。しかし、半導体の物理的特性として、32nm世代のMLCセルが絶縁層の破壊を起こさずに14万回もの消去とプログラムのサイクルに耐えることは工学的にあり得ない。この矛盾を解く鍵は、書き込み処理のバイパス構造にあった。

AD

ホストのカウンタとNANDの摩耗を切り離したテスト手法

Level1Techsのフォーラムにおいて、検証者はテストの具体的なメカニズムを率直に明かしている。実行されていたのは、フラッシュメモリのセルを削り取るテストではなく、ドライブ内部のキャッシュ層を利用した処理ループだった。

検証者はフォーラム上で次のように述べている。「システムを誘導し、膨大なテレメトリ書き込みをドライブのオドメーター(積算計)へ直接集中的に記録させることに成功した。16年前のコントローラに高負荷がかかり続けるものの、NAND自体は過熱しない状態が保たれている。これらは仮想的なキャッシュ操作であるため、古いMLC NANDフラッシュセルを物理的に破壊する前に、実際のデータは跡形もなく消え去る」

この検証環境では、Windows 11上で5秒周期の高速なマクロループを動作させていた。ホストPCから大量の書き込みコマンドを短時間に送り込み、ドライブが備える揮発性のDRAMキャッシュ層の中で処理を完結させる。データが物理的なNANDメモリのブロックへ固定化(フラッシュ)される前に破棄を繰り返すことで、ホスト向けの積算カウンタであるTotal_LBAs_Writtenの値だけを猛烈な速度で加算させていた。

検証者自身もこの試みを「NANDの摩耗試験ではなく、コントローラとファームウェアの純粋な処理耐久試験」と位置づけている。「多くの人々は物理的なNANDを破壊するためにこうしたテストを行うが、私が試したかったのはコントローラとファームウェアの処理耐性そのものだった」と明記している。

ハードウェア情報サイトのTom's Hardwareに寄せられた読者コメントでも、同様の指摘がなされていた。「テストを実行したユーザーは、NANDへ書き込まれる前に消去されるDRAMキャッシュ宛ての書き込みを送信するツールを作成した。そもそも物理的な摩耗が発生していないため、NANDの消去サイクルによる物理的損耗はここでは無関係である」

メディア報道で見られた「14万回以上の書き換えサイクル」という表現は、積算された9PBの総送信セクタ数をドライブの論理容量(64GB)で単純に割った計算上の数字に過ぎない。ホストからコントローラへ送られたI/Oトランザクションの回数を示しているだけであり、NAND内部で実行されたP/E(プログラムおよび消去)サイクルの実績値ではない。

この事実を裏付ける最も明確な証拠が、SMART Attribute 5の「Reallocated_Sector_Ct(代替処理済セクタ数)」である。この値は実験中も一貫して「0」を維持していた。物理セルの絶縁破壊によって生じる不良セクタの発生と代替処理が、ハードウェアレベルでほとんど行われていなかったことを示している。

SMARTログが暴き出すファームウェアの内部崩壊

物理的なNANDフラッシュが破壊を免れていたとしても、コントローラとファームウェアが無傷だったわけではない。長期間にわたる高頻度のI/O処理は、ドライブ内部の制御論理に確実な爪痕を残していた。

SMARTの詳細な診断項目を精査すると、コントローラの演算処理やログ管理機能が正常な制御の限界を迎えている様子が浮かび上がる。

SMART属性 / 指標 記録された値 状態の技術的解釈 物理NANDへの直接的影響
Attribute 5 (Reallocated Sectors) 0 代替処理された不良セクタは発生していない 物理セルの絶縁層破壊は極小にとどまる
Attribute 172 (Erase Failure / Log) 939,410,736 コントローラの内部数値オーバーフローまたはログ破損 ファームウェア内部のカウンタ管理が破綻
Attribute 187 (Reported Uncorrect) 2,228 コントローラが訂正できなかった読出エラーの累積 ホストへのデータ返却に一部障害が発生
Attribute 230 (Wear Indicator) 36 / 100 ファームウェア内部の損耗モデルによる劣化判定 ホスト側I/O履歴に基づく推定損耗の進行
Sector 0 (LBA 0) の状態 UNC(回復不能エラー) ブート領域の読出失敗、FTLやDMAは稼働継続 ドライブ単体からの起動が困難な状態
外部診断ツールの判定 「正常(Good)」 定義済みの閾値に基づき機械的に正常と判定 内部破損の兆候を見逃すリスクを露呈

顕著な異常を示したのがAttribute 172である。この項目には「939,410,736」という不自然に巨大な数値が記録されていた。検証者はこれを、消去失敗カウンタの破損やコントローラの内部演算における数値オーバーフロー(桁あふれ)だと分析している。16年前のファームウェアが想定していなかった規模のトランザクションを処理し続けた結果、ログの記録領域そのものが破損を起こした形だ。

さらに深刻な兆候として、Attribute 187(Reported_Uncorrect)には2,228件の回復不能エラーが計上されていた。SMARTのエラーログでは、ドライブの先頭位置にあたるLBA 0(セクタ0)において回復不能なUNCエラーが記録されている。ブートセクタが存在する領域の読み出しに失敗している状態だ。

興味深いことに、こうした致命的なエラーを抱えながらも、FTL(フラッシュ変換レイヤー)の論理物理マッピングやDMA転送、ライトキャッシュ機能は動作を維持していた。そして、一般的なディスク診断ソフトであるCrystalDiskInfoは、ドライブの健康状態を「正常(Good)」と判定し続けていた。

検証者はこの挙動に対し、警告を発している。「データは破損し、ドライブはそれを正常に読み出すことができていないにもかかわらず、ソフトウェアは盲目的に『正常』だと叫び続けている。これらの診断プログラムには思考力がない。2010年当時に設定された基本的な論理ルールに機械的に従っているだけに過ぎない」

多くのユーザーが依存している健康度パーセンテージや「正常」の表示は、ファームウェア内部で進行する制御破綻を必ずしも検知できない。古いファームウェアが返す想定外の値を、現代の監視ツールが正しく解釈できない危険性を示している。

AD

耐久性指標の読み解き方と寿命の現実

この実験から得られる真の知見は、「古いMLC SSDは9PB書き込んでも壊れない」という神話ではない。ストレージにおける耐久性指標の意味と、ハードウェアが迎える終焉の多様性である。

メーカーが提示するTBW(Total Bytes Written)という指標は、ハードウェアが物理的に故障する瞬間を予告する絶対的な限界値ではない。規定の条件下においてデータを正常に保持できることを保証する、製品保証の枠組みに基づく基準値である。

かつてThe Tech Reportなどが行った本格的なSSD耐久試験では、物理セルの書き換えを愚直に繰り返すことで、各社ドライブが公称TBWを数倍から数十倍上回って動作することが示された。だが、今回のSanDisk P4の事例はそうしたフラッシュメモリの摩耗試験とは文脈が異なる。コントローラが膨大なI/O要求をどこまで捌ききれるかという、処理能力側の耐久限界を示した事例だ。

検証者自身が指摘するように、実運用におけるSSDの故障原因は、NANDフラッシュの単純な書き換え寿命よりも、コントローラの電子部品故障やファームウェアのクラッシュ、電源喪失時のマッピングテーブル破損のほうが圧倒的に多い。

今回の実験で使われた2010年当時のシンプルなコントローラは、最新の高度に複雑化したコントローラに比べて内部構造が単純だった。そのシンプルさが幸いし、内部ログが破損し読出エラーを出しながらも、即座に文鎮化(完全な応答停止)することなく処理を継続できたと見ることができる。しかし、この結果をもって、現代の大容量なTLCやQLCを採用したSSDが同様のコントローラ耐性を示すと推測することはできない。

ストレージの寿命を見極める際は、表面的な書込カウンタの数字に惑わされない姿勢が求められる。ドライブの健康状態を監視する際は、全体の「正常」アイコンだけでなく、代替処理セクタや訂正不能エラーの生ログを確認する必要がある。どれほど耐久性の高さを謳う製品であっても、ある日突然前触れなく応答を停止するリスクを常に考慮し、多重のバックアップ体制を維持することがストレージ運用の基本原則である。


Google Discover向けタイトル案(候補・公開時に1案選び本セクションは削除)

  1. 16年前の64GB SSDが9PB耐えた記録の裏側とコントローラの真実
    • 狙い: 読者が抱く「9PB耐えた」という驚きに対し、その技術的な裏側を提示して関心を引く。
  2. SanDisk製SSDの「9PB生存」データが暴いたストレージ寿命の誤解
    • 狙い: 表面的な数値と実際の寿命指標のギャップに焦点を当て、実用的な知見を求める層へ届ける。
  3. 64GBのSSDが9PB書き込めた理由、物理メモリは摩耗していなかった
    • 狙い: 物理NANDが摩耗していないという意外な事実をストレートに伝えてクリックを促す。