モバイルバッテリーが膨らんだり、触れないほど熱くなったりしたとき、中では何が起きているのか。経済産業省は2026年8月31日、製造業者の自己検査に加えて、国の登録を受けた第三者機関による検査を義務づける案を示した。技術基準には異物混入や電極の巻きずれを防ぐ品質管理も加える方針だ。充放電の正常な流れから発火までをたどると、外部検査が狙う故障と、それでも利用者の手元に残る危険を分けて考えられる。

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小さな箱の中にある三つの仕事

モバイルバッテリーは、電気をためる電池セル、入出力を整える電圧変換回路、異常時に電流を遮断する制御・保護回路で構成される。外から見えるUSB端子は、この三つをつなぐ出入り口にすぎない。スマートフォンを充電するとき、セルが蓄えた化学エネルギーは電気へ戻され、電圧変換回路がUSB機器の要求する電圧へ整えて送り出す。

逆にモバイルバッテリー本体を充電するときは、USB端子から来た電力を充電回路がセルへ渡す。セルの電圧や温度を監視し、満充電に近づけば電流を絞り、上限に達すれば止める。残量表示もセルへ出入りした電荷や電圧などを基に推定しており、箱の中へ電気をそのまま詰め込んでいるわけではない。

三つの仕事を分けると、発熱の意味も見分けやすい。電圧を変換する回路やセルには電気抵抗があり、正常な充放電でも熱は出る。ただし、設計された範囲の熱はケースから周囲へ逃がせる。ケースを布などで覆えば放熱しにくくなり、同じ出力でも内部温度は上がりやすい。触れ続けられないほどの発熱、膨張、焦げた臭いは、その範囲を外れた可能性を知らせる兆候である。

電池セルは、余った電子を容器へ保管するタンクでもない。充電器が外部から電子を負極側へ送り込むと、セル内部では電荷の偏りを打ち消すようにリチウムイオンも負極側へ移る。その結果、正極と負極の組み合わせが持つ化学的なエネルギー差が大きくなる。放電は、この差を使って電子を外部回路へ流す過程である。電源を抜いても蓄えたエネルギーが残るため、端子を遮断した製品でも、セル内部で短絡すれば熱を発生させうる。

イオンは内側、電子は外側を走る

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リチウムイオン電池のセルには、正極と負極、その間を満たす電解液、両電極の接触を防ぐセパレーターがある。放電時にはリチウムイオンが電解液を通って負極から正極へ移る。一方、電子はセパレーターを通れないため、スマートフォンなどがつながる外部回路を通って負極側から正極側へ向かう。この電子の流れが、利用できる電流になる。充電時は外部から電力を加え、イオンと電子を反対向きへ戻す。

セルを、細かな穴が開いた隔壁で二つに分けた施設に例えてみよう。リチウムイオンは隔壁の穴を通れるが、電子は外周道路を回らなければ反対側へ行けない。外周道路にスマートフォンを置けば、電子が通過するときに仕事をさせられる。セパレーターが破れて両電極が触れる状態は、隔壁に大穴が開き、外周道路を通らず内側で一気に近道するのに近い。

この比喩には限界がある。実際の充放電では荷物が二つの倉庫を移るようにイオンの場所が変わると同時に、正極と負極の材料自体も化学的な状態を変える。充放電を繰り返すと反応が完全には元へ戻らない部分が残り、材料や界面の劣化が積み重なる。古いセルの容量が落ち、内部抵抗が増えて発熱しやすくなるのは、単純な通路の混雑では説明できない化学変化である。

電解液とセパレーターは、イオンを動かしながら電子には近道をさせないという、相反する役割を受け持つ。セパレーターにはイオンが通る微細な孔が必要だが、膜が薄くなれば同じ体積へ多くの材料を収めやすくなる一方、異物や変形の影響を受けやすくなる。製品安全では容量や薄さと同じように、膜の均一性、電極端部の処理、組み立て時の位置合わせを管理しなければならない。今回の技術基準見直しで異物混入と電極の巻きずれが挙げられた理由は、この境界面がセル内部の絶縁を担っているからだ。

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保護回路が止められる異常、止めにくい異常

端子から流れ込む電圧が高すぎる場合、制御・保護回路は充電経路を遮断できる。過大な出力電流、深すぎる放電、センサーが捉えた温度上昇にも同じ考え方で対応する。回路が電圧、電流、温度を測り、設定した安全範囲を外れたら電気の出入りを止めるためだ。

しかし、セル内部の狭い一点で正極側と負極側がつながる内部短絡は事情が違う。製造工程で金属異物が入り込む、電極やセパレーターの位置がずれる、落下や圧迫でセルが変形するといった経路で、セパレーターが傷つくことがある。短絡電流はセル内部だけを流れるため、外部端子を切り離しても、すでに生じた局所発熱を止められない場合がある。

急速充電も、それ自体を発火原因と決めつけると故障の入口を見失う。対応する機器どうしは、充電回路が受け取れる電圧と電流を決め、セルの状態に合わせて充電量を調整する。正常な設計と放熱条件の中でも、電力が大きければ回路とセルの発熱は増えやすい。高温の車内、布団の上、損傷したセルといった別の条件が重なれば温度の余裕が小さくなるため、規格上の充電速度と実際の使用環境を分けて考える必要がある。

経済産業省の故障分析も、異物混入、電極の巻きずれ、外力、過充電、保護回路の不作動など、異なる入口からセル内部の短絡や発火へ至る経路を示している。つまり保護回路は安全設計の一部だが、セル製造の品質を代替しない。完成品の外側で正しく電圧を測れることと、内部に将来セパレーターを傷つける異物がないことは、別々に確かめる必要がある。

内部短絡から炎までの連鎖

内部短絡が起きても、すべてのセルが発火するわけではない。短絡する面積と充電状態に加え、材料やケースの構造、周囲へ熱を逃がせる条件によって、電圧が落ちるだけで終わる場合もあれば、熱暴走へ進む場合もある。NASAの安全指針も、すべての内部短絡が熱暴走になるわけではないと区別している。

熱暴走へ進むときは、次の因果が重なる。

  • 局所発熱: 傷ついた一点に大きな電流が集中し、電気抵抗による熱が発生する。
  • 短絡の拡大: 温度が上がると樹脂製のセパレーターが収縮・溶融し、正極側と負極側が触れる範囲が広がる。
  • 発熱反応: 高温になった電極材料と電解液が反応し、内部の化学エネルギーがさらに熱として放出される。
  • ガスと圧力の上昇: 電解液や電極材料が分解し、可燃性成分を含むガスが生じてセル内部の圧力を上げる。
  • 噴出と着火: ケースの安全弁や破損部から高温のガスと内容物が噴き出し、周囲の空気や着火源と条件がそろえば炎になる。

連鎖の特徴は、温度上昇が反応を速め、その反応熱がさらに温度を上げることにある。これが熱暴走である。保護回路が外部への電流を止めても、セル内部に残った化学エネルギーが短時間に熱へ変わり続けるため、発煙が始まった後に通常の充電停止だけで収束させるのは難しい。

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膨張は、この連鎖に入る前にも現れうる。劣化や異常反応で生じたガスがセル内部にたまると圧力が上がり、外装が柔らかい袋状のセルでは表面が押し広げられる。膨らんだ外装を押し戻しても、ガスを生んだ反応や内部損傷は元へ戻らない。むしろ圧力を加えれば、電極とセパレーターをさらに変形させる恐れがある。膨張を残量増加や外装だけの問題とみなさず、内部状態が変わった証拠として使用を中止する必要がある。

「燃えるのはリチウム金属が入っているから」という説明も正確ではない。一般的なリチウムイオン電池は、通常使用時に金属リチウムの塊を出し入れしているわけではない。主な危険は、高いエネルギーを小さなセルに蓄え、可燃性の有機電解液を使い、内部短絡によって電極と電解液の発熱反応が自己加速しうる点にある。

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第三者検査で減らせる事故と、手元に残るリスク

日本経済新聞によると、NITEが把握したモバイルバッテリーの発火などの事故は2025年に192件あり、2021年の約4倍へ増えた。経産省はモバイルバッテリーを、第三者機関による検査が必要な「特定電気用品」に指定する案を2026年8月31日に示した。2026年度内に電気用品安全法の政省令を改正し、2027年3月にも施行する方針である。

現在は製造業者が自ら技術基準への適合を検査してPSEマークを表示できるが、制度改正後は国の登録を受けた第三者機関の検査が加わる。併せて技術基準を見直し、異物混入や電極の巻きずれを防ぐ品質管理を求める。製品が基準に適合するかを第三者も検査し、製造時の潜在欠陥を減らす手順を技術基準で求める狙いだ。

セル内部の欠陥は、完成品を一度充電して動作を確かめる検査では見つけにくい。微小な異物がすぐ短絡せず、充放電による膨張と収縮を経てからセパレーターへ達する場合があるためだ。製造工程で異物を入れない管理、電極とセパレーターを正しい位置で巻く管理、完成後に安全基準へ適合しているかを確かめる検査は、それぞれ別の段階を受け持つ。第三者機関を加える制度案は、事故後の回収より前に、出荷前の適合確認と製造時の品質管理を厚くする方向へ踏み込む。

それでも、PSEマークは「発火しない」という保証書にはならない。出荷時に問題がなかったセルでも、購入後に硬い床へ落とす、荷物や座席で強く圧迫する、高温の車内へ放置する、水に濡らすといった扱いで損傷する可能性がある。第三者検査が減らすのは主に製造・設計段階の見逃しであり、利用中に加わる熱や外力は別に避けなければならない。

消費者庁は、本体が異常に熱い、膨らんでいる、変形している、焦げた臭いがする、煙や異音が出るといった兆候があれば、直ちに使用を中止してメーカーや販売店へ相談するよう求めている。購入時はPSEマークと販売事業者、リコール情報を確かめ、使用中はケースの状態と温度を見る。制度が強くなった後も、この二段階の確認が内部短絡へ至る入口を減らす。