全固体電池は何年も「あと数年」と言われ続けている。最大の障害は、充電のたびに電解質の中を伸びていく金属リチウムの枝、デンドライトだ。研究の大半は、この枝をどうすれば生やさずに済むかを競ってきた。SLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学のチームは逆を試し、形状記憶合金のリングで電池を締め上げて枝の向きを横へ曲げた。この研究は2026年7月1日付でNatureに掲載され、SLACが8月28日に発表した論文によれば、過去の実験で見たことのない密度の枝が生えても、数千回の充放電を通じて短絡が起きなかったという。

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リチウムの枝は、硬いセラミックの中をどう伸びるのか

充電中の全固体電池の内部では、正極から移ってきたリチウムイオンが負極側で電子を受け取り、金属のリチウムに戻る。SLACとスタンフォード大学の説明によれば、この金属リチウムが電解質にもとからある微小な欠陥、つまり細孔や結晶粒どうしの境目へ入り込む。析出した金属は体積を持つから、周囲のセラミックを内側から押し広げる。広がった隙間を次のリチウムが埋め、枝は一段ずつ伸びていく。正極まで届けば両極が金属でつながり、電池は短絡する。

セラミックの電解質は硬い。硬ければリチウムの侵入を機械的に押し返せる、というのが全固体電池に期待された性質のひとつだった。ところが硬さは逆にも働く。硬くて脆い材料はいったん亀裂が入ると、その先端へ応力が集中して一気に走るからだ。液体電解液を使う電池では急速充電のときに問題になるデンドライトが、固体電解質では低速の充電でも電解質を貫いてしまう。

全固体電池は、可燃性の有機溶媒を固体電解質へ置き換えることで安全性を高め、負極に金属リチウムを使うことで高いエネルギー密度を狙う。デンドライトが両極をつなぐと、この2つの利点は損なわれる。短絡したセルは内部で大電流を流して発熱し、燃えにくい材料を選んだ利点も薄れる。金属リチウム負極で稼いだ容量も、そこでは使えなくなる。量産の可否は、セル1個あたり何回の充放電まで枝が電極に届かないかという一点に集約されてきた。

今回の論文は、デンドライトの生まれ方を2つの段階に分けて報告している。サイクルの初期には電解質の表面から侵入し、充放電を長く重ねたあとには電解質の内部でも新たな核が生まれるという。内部で発生するという説自体は以前からあったが、直接の証拠は乏しかった。それが今回の観察で埋まったと説明されている。表面をいくら平滑に仕上げても、長期サイクルでは内部から枝が湧いてくることになる。

表面から入る枝であれば、電解質と負極の界面を整える方向の対策で発生を遅らせられる。内部で生まれる枝には、その手が届かない。長期サイクルのあとには結晶粒どうしの境目や細孔からも核が立つのなら、界面の作り込みを積み上げても寿命の上限はある地点で頭打ちになる。圧縮という発想は、この地点で意味を持つ。

形状記憶合金のリングが、縦に伸びる枝を横へ曲げる

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チームは、形状記憶合金で作ったリングで電解質を締め上げた。形状記憶合金は、あらかじめ覚えさせた形へ戻ろうとする性質を持つ。戻る動きを外側から拘束すれば、その分だけ大きな力が周囲へ伝わる。研究チームはこのリングで電解質を囲み、170℃まで加熱した。縮もうとするリングの力が、電極面と平行な2つの方向から電解質を押さえ込む。

論文の題にある「二軸応力下(biaxially stressed)」がこの状態を指す。電極間を縦に貫こうとする亀裂は、割れ目の面が電極面に対して垂直に立っている。面内方向の圧縮は、その面を両側から押し合わせる向きに働く。開こうとする力に閉じる力が対抗するため、縦への伝播は進みにくくなる。

押さえる向きが1方向だけなら、その向きと平行に立つ亀裂面は押し合わされずに残る。逃げ道が残れば、枝はその面を伝って縦に進める。電極面の中で直交する2方向から同時に押さえた場合、縦向きの亀裂面はどの方位を向いていても圧縮を受ける。だからこそ、論文は題に「二軸」を掲げている。

一方、電極面と平行に走る横向きの割れ目は、面の向きが圧縮の方向と直交している。押し合わされないので、こちらは開いたままだ。リチウムは抵抗の小さい経路を選ぶから、縦へ進めなければ横へ伸びる。論文の題の後半にある「deflection(偏向)」は、この向きの切り替わりを指す。電極に届かない限り、枝が何本あっても短絡は起きない。

圧縮をかけたセルには、これまでの実験で見たことのない密度でデンドライトが生じた。それでも数千回の充放電を通じて短絡は起こらず、電池は動き続けた。筆頭著者のTeng Cuiは、前例のない数のデンドライトを生成したのに電池は短絡しなかったと述べ、機械特性と電気化学の相互関係が電池設計の新しい戦略につながりうると説明している。枝の数を減らすことと、電池を守ることは同じではなかった。

使われた電解質は、ガーネット型のLi6.6La3Zr1.6Ta0.4O12という組成のセラミックだという。スタンフォード放射光施設のX線測定では、内部にデンドライトが生じたあとも電解質の結晶構造そのものは変わっていなかったと報告されている。バルクの結晶構造自体は保たれていたことになる。研究にはKyungpook National UniversityとArizona State Universityの研究者も加わり、資金は米エネルギー省が出している。

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原因究明から設計へ、相次いだ4本の報告

XenoSpectrumが2026年7月に伝えたMITの研究は、固体電解質の結晶粒界にできる空間電荷層がデンドライトの発生源になると報告した。同じ年の4月には、マックス・プランク研究所が、亀裂に入り込んだリチウムの生む静水圧が固体電解質に引張応力を与え脆性破壊を進めるメカニズムを示している。壊れるのはデンドライトではなく電解質の側だ。どちらの研究も、枝がなぜ生まれ、電解質がどんな条件で壊れるかという原因側の解明に軸足があった。

2025年12月には、Brown大学のZikang YuとBrian Sheldonらが別の手法をJouleに発表している。電解質の両側に温度勾配をつけることで、内部に圧縮応力を発生させる方法だ。デンドライトの浸透が抑えられ、臨界電流密度は3倍に上がったという。発表はSLACの論文がNatureに掲載された時期より半年ほど早い。

Brownの手法とSLACの実験は、機械的な応力で電気化学の挙動を制御するという着想を共有している。ただし、応力に担わせる仕事が違う。Brownは枝を電解質へ入らせないために圧縮を使い、SLACは入ったあとの進む向きを変えるために使った。前者は発生そのものの抑止であり、後者は発生を許した上での無害化である。

2025年12月から2026年7月までの半年余りに、デンドライトの機構と制御をめぐる報告が4本並んだ。うち3本が機械的な応力を扱っている。原因の特定から、応力という機械的な変数を電池の設計へ組み込む段階へ、この分野の重心が移りつつある。共著者でスタンフォード大学准教授のWendy Guは、これらの電池が最終的により高いエネルギー密度と信頼性の向上をもたらしうると述べている。

4本に共通するのは、デンドライトを電気化学だけの問題として扱わなくなった点である。電流密度をどこまで上げられるか、電解質の組成をどう変えるかという議論に、材料へどんな応力がかかっているかという変数が加わった。応力は温度差でも、外からの締め付けでも、セルの構造そのものでも作れる。

2027〜2028年の限定投入までに、何が確かめられるか

トヨタは2027〜2028年に全固体電池を積んだEVを限定的に投入する計画を示している。経済産業省が認定した供給確保計画では、次世代電池2件と全固体電池1件を合わせた生産規模を2030年に年産9GWhとし、2026年以降段階的に生産を始めるとしており、全固体電池単独の生産規模は示されていない。QuantumScapeもVolkswagenグループのPowerCoへ技術を非独占ライセンスし、年間40GWh規模の量産に向けた協業を進めている段階にある。具体的な量産開始年は両社から公式に示されていない。どちらも、デンドライトによる短絡を工場出荷の水準で抑え込む設計が間に合うことを前提にしている。

2027〜2028年の限定投入から2030年の量産まで、間隔は2〜3年しかない。その間に、実験室のセルで確かめた挙動を車載サイズの大面積セルで再現しなければならない。面積が広がれば電解質に含まれる欠陥の数も増え、枝が生まれる起点も増える。国内メーカーの量産設計にとって、圧縮を面全体へ均一にかけ続けられるかどうかは、電解質の材料選定と並ぶ検討事項になる。

今回の実験では、170℃まで加熱した形状記憶合金のリングが電解質を締めていた。車載セルの外装や電池パックの構造が、同じ圧縮を数年にわたって出し続けられるかどうかは別の課題になる。量産へつなぐには、二軸圧縮の効果をガーネット以外の電解質でも再現できること、そして充放電と温度変化を繰り返しても圧縮が抜けないことを確かめる必要がある。

Cuiは今回の成果を完成形として語っておらず、信頼性が高くエネルギー密度も高い、急速充電できる電池を作りたい、この研究はそこへ至るために必要な複数のステップを示している、と述べている。SLAC-Stanford Battery Centerを率いるWilliam Chuehも、こうした洞察がエネルギー貯蔵という大きな課題の解決に向けた実行可能な道筋を示すと説明する。今回の研究は、デンドライトを消す方法を示したのではない。生えても電極に届かせない構造を示した。量産の条件は、その設計から揃っていく可能性がある。