日本IBMが北海道千歳市に新たな事業所を開設した。千歳市には、2nm世代の先端半導体の量産を目指すRapidusの工場があり、IBMは技術協力先の近くに拠点を設けたことになる。ただし、Rapidusが目標とする2027年度後半の量産開始には、技術開発や支援体制の拡充だけでなく、巨額の設備投資を支える資金の確保も欠かせない。政府が計画する累計6500億円の出資のうち、4000億円は今後の財政投融資(財投)計画で認められることが前提となっている。

特に重要なのが、2027年度に予定される1500億円の追加出資だ。これは未確定の4000億円の37.5%、政府出資の累計予定額6500億円の約23%に相当する。Rapidusは同年度に約4000億円の民間融資を調達する方針だが、経済産業省は融資を受けるために一定の自己資本比率を維持する必要があると説明している。IBMによる技術支援が拡大する一方、量産開始に向けては、政府出資を通じた自己資本の強化と民間融資の実行が重要な課題となっている。

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IBMが千歳に新拠点、Rapidusの2027年度後半の量産開始を支援

日本IBMは2026年10月26日、北海道千歳市に「千歳事業所」を開設したと発表した。Rapidusなどの半導体関連企業への支援を強化するとともに、半導体産業の集積が進む北海道で新たな顧客を開拓する狙いがある。日本IBMはRapidusに2nm世代の半導体製造技術を提供し、量産に向けた共同開発を進めている。今回の拠点開設によって、Rapidusを含む半導体関連企業への支援体制をさらに拡充する方針だ。

両社の協力関係は2022年12月にさかのぼる。当時IBMは、2021年に発表した2nm世代の半導体技術をRapidusと共同でさらに開発し、日本国内の製造拠点への導入を目指すと発表した。IBMは2021年の技術発表で、同社の2nm技術について、当時の7nm世代と比較して、同じ消費電力で最大45%の性能向上、または同等の性能で最大75%の消費電力削減が期待できると説明していた。いずれも当時の技術的な見通しであり、Rapidusの量産品で実証された性能値ではない。

技術移転に向けて、Rapidusの技術者は米ニューヨーク州のAlbany NanoTech Complexに派遣され、IBMの研究者と共同開発に取り組んできた。Rapidusによると、これまでに約150人の技術者を同拠点へ派遣している。米国での共同研究を通じて製造技術を習得し、日本国内での量産体制の構築につなげる取り組みが進められている。

IBMは技術協力先であると同時に、Rapidusの顧客候補でもある。経済産業省が2026年10月19日に示した資料によると、IBMは超低消費電力で動作するAI半導体の設計プロジェクトについて、製造などにRapidusを活用する意向を表明している。また、Rapidusは2025年末に先行評価用のPDK(プロセス設計キット)を公開しており、60社以上の顧客候補と交渉を進めている。PDKは半導体の設計に必要な製造プロセスの情報や設計ルールをまとめたもので、顧客が実際の製造技術に合わせてチップを設計するために使われる。

Rapidusは2026年4月の発表で、2nm世代の半導体の量産開始目標を「2027年度後半」としている。IBMとの共同開発や技術者の派遣、顧客向けの設計環境の整備が進む中、今回の千歳事業所の開設は国内での支援体制を強化する動きといえる。一方、技術的な準備が進んでも、生産設備の増強や量産立ち上げに必要な資金を確保できなければ、計画どおりの事業拡大は難しい。量産開始までに残された課題は、技術面だけでなく資金調達にも及んでいる。

政府出資6500億円のうち4000億円は未確定

経済産業省は2026年10月19日、財政制度等審議会の財政投融資分科会に提出した資料で、Rapidusに対して2027〜2029年度の3年間で計4000億円を追加出資する計画を示した。年度別の内訳は、2027年度が1500億円、2028年度が1500億円、2029年度が1000億円となる。出資は独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)を通じて実施する方針だ。

政府はすでに2025年度に1000億円、2026年度に1500億円を出資しており、実施済みの出資額は計2500億円に達する。今後予定する4000億円がすべて実行されれば、政府の累計出資額は6500億円となる計算だ。ただし、追加出資は各年度の財投要求が認められることを前提としており、現時点で確定しているわけではない。累計予定額6500億円のうち、未確定の4000億円は61.5%を占める。

年度 政府出資額 状況
2025年度 1000億円 実施済み
2026年度 1500億円 実施済み
2027年度 1500億円 要求段階
2028年度 1500億円 計画段階
2029年度 1000億円 計画段階
合計 6500億円 うち4000億円が未確定

政府出資が重視される理由は、Rapidusの民間融資の調達計画にある。同社は量産に向けた生産ラインの増強などに必要な資金として、民間金融機関から総額2兆円の融資を受ける計画だ。当面は2027年度中に約4000億円を調達することを目指している。経済産業省は、こうした融資を受けるためには一定の自己資本比率を維持する必要があると説明しており、政府出資は自己資本を厚くすることで民間資金を呼び込む役割を担う。

経済産業省が示した資料では、製造業全般、国内の半導体関連製造企業、主要な半導体メーカーの自己資本比率が比較されている。製造業全般の平均は50.4%、国内上場の半導体関連製造企業66社の平均は61.0%、TSMC、Intel、Samsungの3社の平均は65.5%となっている。

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これらは各企業群の平均値であり、Rapidus自身の自己資本比率を示すものではない。半導体ファウンドリーは生産設備への巨額の先行投資を必要とするため、一般的な製造業よりも高い自己資本比率が求められる傾向があると経済産業省は説明している。政府が追加出資を計画するのも、Rapidusの財務基盤を強化し、民間金融機関から融資を受けやすくするためだ。

もっとも、民間融資そのものも確定していない。2025年に民間金融機関から提出されたのは、法的拘束力を持たない意向表明書であり、現在も融資の実行に向けた調整と交渉が続いている。政府は債務保証も活用する方針だが、保証の活用と融資の実行は区別する必要がある。

政府出資の財源についても変更があった。経済産業省は2026年8月31日の2027年度概算要求で、1500億円の出資財源を従来の予算から財政投融資へ切り替えた。同省は、Rapidusの事業が量産開始に近づき、投資によるリターンを見込める可能性が相対的に高まっていることを理由に挙げている。また、千歳工場にあるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発委託事業で取得した設備などについては、NEDOからIPAへ無償譲渡した後、IPAがRapidusへ現物出資する計画だ。

こうした資金計画を踏まえると、IBMの千歳事業所開設は技術支援の拡充を意味する一方、量産開始に向けた資金面の重要な確認点は、2027年度の財投による1500億円の出資が認められるかどうかにある。2028年度と2029年度の追加出資計2500億円は、Rapidusが目指す量産開始時期より後の年度に予定されているため、まずは2027年度分の出資と民間融資の進展が焦点となる。

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4000億円の追加出資は量産開始の決定的な条件なのか

この見立てに対する有力な反論は、政府による支援全体の規模を考えれば、4000億円の追加出資だけを重視する必要はないというものだ。Rapidusへの研究開発委託費の承認額は、2022〜2026年度の累計で約2兆3540億円に達しており、経済産業省は2027年度分としても約3000億円を要求している。これらと比較すれば4000億円の追加出資は相対的に小さく、政府が先端半導体の国産化を継続的に支援する方針も明確になっている。

また、量産が計画どおりに始まるかどうかは、資金調達だけで決まるものではない。The Registerが報じたように、Rapidusは最低発注量を設定せず、小ロットから半導体を製造することで顧客を獲得する戦略を掲げている。こうした事業モデルで十分な顧客を確保できるか、製造歩留まりを量産に必要な水準まで改善できるかといった課題も残る。政府出資が計画どおり実行されたとしても、それだけで技術的な量産体制の確立や事業の採算性が保証されるわけではない。

それでも、2027年度の追加出資を重要な確認点と考える根拠はある。経済産業省が追加出資の必要性として明示しているのが、民間融資を受けるための自己資本比率の維持だからだ。約2兆3540億円の研究開発委託費は、製造技術の開発や設備整備などを支えるためのものであり、出資によって自己資本を増やすこととは財務上の役割が異なる。研究開発への支援が大きいからといって、民間金融機関が求める資本構成の条件まで満たされるとは限らない。

ただし、2027年度の1500億円の出資が、約4000億円の民間融資を受けるための絶対条件だと確認されたわけではない。融資の実行条件は金融機関との交渉によって決まり、他の出資や資金調達手段で必要な自己資本を確保できる可能性もある。したがって、現時点で言えるのは、政府出資が民間融資を呼び込むための重要な手段として位置づけられているということだ。

この見立てを検証する上では、2つの展開に注目したい。第一に、2027年度の1500億円の出資が認められなくても、同年度内に約4000億円の民間融資が実行される場合だ。その場合、予定された政府出資がなくても必要な資金を調達できることになり、出資を融資実行の重要な条件とする見方は弱まる。第二に、資金調達が十分に進んだにもかかわらず、歩留まりや顧客確保などの問題によって量産開始が2027年度後半から遅れる場合だ。この場合は、資金面よりも技術面や事業面の課題が量産開始時期を左右している可能性が高まる。

今後、最も重要な確認点は、2027年度の財政投融資で1500億円の出資が認められるか、そして同年度内に約4000億円の民間融資が実際に実行されるかの2点だ。両方が実現すれば、IBMによる技術支援の拡充に加えて、Rapidusの量産体制構築を支える財務基盤も一段と強化されることになる。ただし、量産開始には製造歩留まりの改善や顧客の確保も必要であり、資金調達の進展と実際の量産準備を引き続き確認する必要がある。