中国・上海の半導体スタートアップ、東方算芯(Dongfang Suanxin)が7月13日、初のAIアクセラレータ「DF1000」を発表した。14nmプロセスながら、BF16で520TFLOPS、メモリ帯域6.4TB/sを掲げる。微細化でトランジスタを増やす代わりに、論理回路とDRAMを垂直に重ね、用途に応じて計算資源を組み替える設計を選んだ。米国の輸出規制で先端製造装置と高帯域メモリの調達が難しくなるなか、中国のAIチップ開発がどこへ迂回路を引こうとしているのかが見えてくる。

ただし、DF1000をNVIDIA H200の代替品と呼ぶには早い。公開されたのはピーク演算性能と帯域が中心だ。メモリ容量と消費電力は分からず、量産歩留まりや実際の大規模モデルを使った訓練時間も見えない。東方算芯が動かしたのは勝敗そのものではなく、競争の判定軸である。

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14nmに積層と再構成を重ねる

DF1000の設計は「ソフトウェア定義計算」と「3D DRAM近存計算」の二つで成り立つ。東方算芯によれば、計算側はFP32からFP4まで複数の精度に対応し、モデルに合わせてデータ経路を動的に組み替える。Tensor Tileを基本単位にする非同期データフローを採用し、計算とデータ転送を重ね合わせるという。GPUのような汎用性とASIC(特定用途向け集積回路)の効率を両立させようとする設計思想だ。

メモリ側では、論理回路の層とDRAMの層をハイブリッドボンディングで直接重ねる。はんだの微小バンプを挟まず、銅配線と絶縁膜を接合するため、東方算芯は層間の接続間隔を従来の数十マイクロメートル級からサブマイクロメートル級へ縮められると説明する。配線が短くなり、接続本数も増やせる。6.4TB/sというメモリ帯域は、この垂直接続が生む最初の数字だ。

大規模モデルの訓練では、演算器が速くても重みや中間データを供給できなければ待ち時間が増える。推論、とりわけトークンを一つずつ生成する処理も、メモリ帯域に縛られやすい。DF1000は14nmの演算密度の不利を、データを動かす距離と時間の短縮で補おうとしている。

6.4TB/sと520TFLOPSをどう読むか

公開値のうち、DF1000が最も強く見えるのはメモリ帯域だ。6.4TB/sはNVIDIAが公表するH200 SXMの4.8TB/sを上回る。チップ間のScale-up帯域は900GB/sで、H200のNVLinkと同じ公称値である。

指標 東方算芯DF1000 NVIDIA H200 SXM 比較時の注意
製造プロセス 14nm 非掲載 DF1000は成熟プロセス利用を訴求
BF16ピーク性能 520TFLOPS 1,979TFLOPS H200はスパース性利用時。DF1000の条件は未公表
メモリ帯域 6.4TB/s 4.8TB/s 容量と実効帯域も必要
Scale-up帯域 900GB/s 900GB/s 通信方式と集合通信の効率は別に検証が必要
メモリ容量 未公表 141GB 学習できるモデル規模や並列化に影響
最大消費電力 未公表 700W 性能当たり電力と運用費を比較できない

BF16の数字は、そのまま比率にしてはいけない。H200の1,979TFLOPSは計算を疎にするスパース性を利用した値であり、DF1000の520TFLOPSに同じ条件が含まれるかは公表されていない。ピーク値は、コンパイラと演算ライブラリが計算器をどこまで埋められるかも示さない。東方算芯自身、H200超えを目標に置くのは次世代のDF2000であり、DF1000ではないと説明している。

帯域の優位も条件付きだ。DF1000はメモリ容量を明らかにしておらず、モデルを何枚のカードへ分割する必要があるかを判断できない。訓練ではカードをまたぐたびに勾配の同期が発生する。900GB/sという物理帯域があっても、集合通信ライブラリやネットワーク構成が弱ければ、カードを増やしたときの性能向上は鈍る。

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制約は接合歩留まりとソフトウェアへ移る

DF1000は輸出規制を無効にする製品ではない。米商務省産業安全保障局(BIS)は2024年12月、先端半導体の製造に使う24種類の装置、3種類の設計・製造ソフト、高帯域メモリ(HBM)を追加で規制した。一方、2026年1月にはH200やAMD MI325Xの対中輸出を、安全要件を満たす顧客ごとの審査へ切り替えている。規制は強いが、すべての先端AIチップを一律に閉め出す制度ではない。

東方算芯の対応は、14nmと国内供給網で作れる部品へ設計を合わせ、HBMと先端ノードに集中していた調達リスクを分散するものだ。これが実現すれば、輸出許可の変更に製品計画を振り回されにくくなる。ただし、会社は「国内供給網」を掲げるものの、製造委託先、DRAMの種類、接合装置の供給元を公開していない。どこまで国内で完結するかは検証できない。

しかもハイブリッドボンディングは製造難度を消さない。接合面には高い平坦度と清浄度が必要で、わずかな粒子や位置ずれが接続不良を招く。積層前に良品ダイを選別しようとしても、微細な接合面をプローブで傷つければ後工程に響く。SemiEngineeringが報じた業界関係者の説明によれば、現行のHBM4がハイブリッドボンディングへの移行を見送り、マイクロバンプを継続する一因も歩留まりと検査にある。魏少軍CEO自身も、積層するシリコン層が増えるほど歩留まりが下がり得ると認めている。

もう一つの難所がソフトウェアだ。東方算芯はDeepSeek、Qwen、GLMなどのモデルへ最適化し、独自のCAAPソフトウェア群で主要なAIフレームワークや演算子開発を支えるとしている。しかし、対応演算子の範囲、分散訓練の安定性、既存CUDAコードの移植工数はまだ見えない。ピーク性能を実アプリで引き出すには、コンパイラとカーネルを磨き、通信や障害監視も長期間安定させる必要がある。

上海配備と64カードから実用性を測る

東方算芯はチップ単体よりも、導入可能なシステム一式を前面に出している。DF1000カードはOCP Accelerator Module(OAM)2.0に準拠し、国内OEM各社のAIサーバーへ載せやすくした。OAMはアクセラレータの寸法と電力、冷却と管理、高速接続の共通条件を定める仕様であり、独自カードごとにサーバーを設計し直す負担を減らす。

周辺製品には、標準Ethernetを使う64カードの「TY64」スーパーノード、高密度液冷サーバー「QY100」、512カード級のクラスター「HS512」が並ぶ。ここには、NVIDIAの強さをチップ一枚の性能ではなく、複数カードを束ねるネットワークと運用ソフトまで含めて捉える姿勢がうかがえる。OAM準拠はハードウェア導入の入口を広げるが、CUDA互換を保証するものではない。

最初の検証場所は上海になる。魏少軍は7月7日、2026年後半から上海の企業、大学、研究機関へDF1000を展開し、主にクラウド上の大規模モデル訓練へ使うと聯合報に語った。7月13日の発表時には量産準備が整い、年末までの出荷を見込むとも説明している。顧客名、導入枚数、稼働率は公表されていないため、現時点では先行配備の計画と見るべきだ。

実用性は、同じモデルを同じ精度まで学習させる所要時間で測れる。次に、64カードへ増やした際の性能向上率と停止頻度を見れば、通信とソフトウェアの成熟度が分かる。電力消費と冷却費まで開示されれば、14nmを使う経済性も判断できるだろう。

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DF2000まで半年未満、実測値がロードマップを選別する

東方算芯の計画は速い。SCMPによれば、DF1000の能力を2倍にしてH200超えを狙うDF2000を2026年第4四半期に投入し、2027年第4四半期にはさらに2倍のDF3000でNVIDIA B300との競争を目指す。DF1000の本格出荷とDF2000の投入時期が同じ年末に重なるため、製品世代の更新と顧客側の評価が並行して進む日程になる。

このロードマップを支えるのは、ピークTFLOPSの増加より量産データだ。年末までにメモリ容量と消費電力が公開され、上海の導入先が実際の訓練時間とクラスター稼働率を示せるか。さらにハイブリッドボンディングの歩留まりが、価格と供給量に耐える水準へ達するか。三つがそろえば、DF1000は中国のAI計算基盤に新しい選択肢を加える。欠けたままなら、14nmと3D積層の組み合わせは有望な設計案にとどまる。