キオクシアホールディングスは2026年10月30日の取引終了後、4〜9月期の売上収益が4兆2,472億円、営業利益が3兆2,647億円だったと発表した。一方、10〜12月期の売上収益は2兆5,000億円と、前四半期比わずか0.8%の増加を見込んでいる。発表後のPTS(私設取引システム)では、株価が一時約7%下落したと報じられた。
太田裕雄社長は、9月8日に行われたBloombergの取材で「価格はもう十分上がった」と述べたと、翌9日に報じられている。この発言と今回の売上見通しを合わせると、NAND型フラッシュメモリーの価格が天井に近づき、キオクシアが値上げを抑え始めたようにも見える。しかし、決算内容を為替、出荷時期、販売単価の3つに分けて検証すると、価格上昇の勢いが鈍っていることは確認できるものの、価格が頭打ちになったとまでは言い切れない。
0.8%増の売上見通しに影響する円高と出荷時期のずれ
キオクシアが示した2026年10〜12月期の業績見通しは、売上収益が2兆5,000億円(前四半期比0.8%増)、営業利益が1兆9,950億円(同0.0%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益が1兆3,600億円(同0.3%増)となっている。売上、営業利益、最終利益のいずれも、前四半期からほぼ横ばいの予想だ。ただし、決算説明資料によると、この見通しには1ドル161円から157円への約4円の円高が織り込まれており、営業利益を約550億円押し下げる要因になるという。決算説明会の質疑要旨では、為替条件が確定しているのは10月分のみで、11〜12月分は未確定と説明している。
円高が業績に与える影響は、ドル建ての売上を円に換算すると分かりやすい。例えば、1億ドルの売上は1ドル161円なら161億円だが、157円では157億円になる。ドル建ての売上が変わらなくても、円建てでは約2.5%減少する計算だ。キオクシアは販売単価の動向をドル建てで開示しているため、円建ての業績を見る際には、為替レートの変化を考慮する必要がある。
会社の試算では、ドル円相場が1円変動すると、四半期の売上収益に約150億円、営業利益に約140億円の影響が生じる。つまり、1円の円高は営業利益を約140億円押し下げる要因となる。ただし、この為替感応度は10〜12月期の想定販売量に基づく推計であり、他の四半期にそのまま当てはめることはできないと会社は注記している。
実際、10〜12月期の売上見通しは円建てで前四半期比0.8%増だが、各四半期の為替レートでドル換算すると、約3.4%増になる。7〜9月期の売上2兆4,800億円を1ドル161円で換算すると約154億ドル、10〜12月期の見通し2兆5,000億円を157円で換算すると約159億ドルとなるためだ。これは編集部による概算であり、10〜12月期は予想値であることに加え、実際には円建てで価格を決める取引もあり得る点に注意が必要だ。また、会社が示した約550億円という為替影響額は営業利益に対するものであり、売上全体をドル換算した今回の計算とは対象が異なる。
売上の伸びを抑えるもう一つの要因が、出荷時期のずれだ。キオクシアによると、10〜12月期の記憶容量ベースの出荷量は、7〜9月期とほぼ同じ水準になる見込みだ。これは一部の製品を7〜9月期に前倒しで販売したことに加え、受注から納品までの期間が長いデータセンター・企業向け製品の比率が上昇し、一部の出荷が2027年1〜3月期にずれ込むためだという。会社は、その反動もあって1〜3月期の出荷量が大幅に増加すると見込んでいる。
つまり、10〜12月期の0.8%という増収率には、約4円の円高と出荷時期のずれという2つの要因が影響している。ただし、これらだけで売上の伸びが小さい理由をすべて説明できるかは、開示資料からは確認できない。少なくとも、円建て売上の伸び率だけを根拠に、NAND型フラッシュメモリーの価格が頭打ちになったと判断するのは早計だ。
販売単価の上昇率は2倍超から20%台半ばへ縮小、10〜12月期は緩やかな上昇を予想
価格の動向を判断するうえで重要なのが、キオクシアが四半期ごとに開示する平均販売単価(ASP)だ。同社が公表する主な指標は、販売した製品の構成変化を含む「製品構成込みの平均販売単価」であり、ドル建ての前四半期比上昇率として示されている。この指標は2026年1〜3月期に2倍超となった後、4〜6月期には約70%、7〜9月期には20%台半ばへと上昇率が縮小した。10〜12月期については、緩やかな上昇を見込んでいる。
| 期間 | 製品構成込みの平均販売単価(ドル建て、前四半期比) | 記憶容量ベースの出荷量(前四半期比) |
|---|---|---|
| 2026年1〜3月期 | 2倍超 | 約10%減 |
| 2026年4〜6月期 | 約70%上昇 | 1桁台前半の増加 |
| 2026年7〜9月期 | 20%台半ばの上昇 | 10%台前半の増加 |
| 2026年10〜12月期(見通し) | 緩やかな上昇 | ほぼ横ばい |
これらの数値から、販売単価の上昇率が四半期ごとに縮小していることは確認できる。1四半期で単価が2倍超になるような急騰局面は過ぎ、価格上昇の勢いは明らかに鈍っている。ただし、会社は「2倍超」「20%台半ば」といった概数で開示しており、正確な上昇率は分からない。また、1〜3月期の出荷量減少は、計画的な設備保守と在庫販売によるもので、単価変動とは別の事情がある。
さらに注意したいのは、製品構成込みの平均販売単価と、同じ製品同士を比較した販売単価では、異なる動きが見られることだ。キオクシアは製品構成の影響を除いた「同一製品ベースの平均販売単価」も開示している。7〜9月期には、製品構成込みの単価が20%台半ばの上昇だったのに対し、同一製品ベースでは30%台前半の上昇となった。つまり、同じ製品同士で比較した値上がり幅は、製品構成込みの平均よりも大きかった。
これは、販売する製品の構成が変わることで、全体の平均販売単価が押し下げられる場合があるためだ。例えば、記憶容量当たりの単価が低い製品の販売比率が高まれば、個々の製品の価格が上昇していても、全体の平均販売単価の伸びは小さくなる。したがって、製品構成込みの平均販売単価の上昇率が縮小したからといって、同じ製品の値上がり幅まで縮小したとは限らない。
10〜12月期についても、キオクシアは増収の主因を販売単価の上昇と説明している。その一方、製品構成込みの単価上昇が緩やかになる理由として、スマートデバイス向け製品の比率が相対的に高まることを挙げた。データセンター・企業向け製品の一部出荷が1〜3月期にずれ込むことで、スマートフォンなどに使われる製品の構成比が上がるという。ただし、10〜12月期の同一製品ベースの販売単価見通しは開示されていない。
業界全体の予測と比べても、単価の動向にはなお不明な点が残る。調査会社TrendForceは9月30日、2026年10〜12月期のNAND型フラッシュメモリーの契約価格が前四半期比15〜20%上昇すると予測した。これは7月に示した7〜9月期の予測(10〜15%上昇)を上回り、市場全体では価格上昇が加速するとの見方だ。
製品別では、エンタープライズSSDの値上がり幅が前四半期より拡大する一方、PC向けSSDでは異なる傾向が見られるという。PCメーカーが主力製品に搭載するSSDの容量を減らしていることから、メモリーメーカーは値上げ幅を抑えるなど、柔軟な価格設定を進めているとTrendForceは分析している。ただし、同社の15〜20%という数字は業界全体の契約価格に関する予測であり、キオクシアの製品構成込みの平均販売単価とは定義が異なる。キオクシアが値上げを抑えているのか、それとも製品構成の変化によって平均単価の伸びが小さく見えているだけなのかは、同一製品ベースの見通しが開示されていない現段階では判断できない。
キオクシアは値上げを抑えて収益機会を逃したのか
太田社長は9月8日のBloombergの取材で、NAND型フラッシュメモリーの価格について「価格はもう十分上がった」と述べ、営業部門に対してデータセンター事業者への大幅な値上げを求めないよう伝えたと報じられた。背景には、価格の高騰によってAI分野への投資意欲が損なわれることへの懸念があるとされる。太田社長は、前四半期のような約70%の値上がりが再び起こるとは考えにくいとの見方を示し、「値上げしすぎれば、自分たちの市場と成長を損なう」「ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)でも予算には限りがある」と語った。一方、将来の値上げそのものは否定せず、当面は現在の高い価格水準を維持することを優先する姿勢を示している。
この発言からは、需要が強い局面でも値上げを控え、結果として本来得られたはずの収益を逃しているのではないかという疑問が生じる。特に、長期契約を低い価格で結んでしまえば、その後も市場価格の上昇を十分に利益へ反映できない可能性がある。この点を考えるうえで、まず確認したいのが7〜9月期の実績だ。
キオクシアは7〜9月期について、販売単価と出荷量がいずれも7月時点の会社見通しを上回ったと説明している。同四半期の売上収益は2兆4,800億円で、前四半期比40.3%増となった。これは2025年度(2026年3月期)通期の売上収益2兆3,376億円を、わずか1四半期で上回る規模だ。少なくとも7〜9月期の業績には、値上げを抑えたことによる明確な売上の伸び悩みは見られない。
業界予測と比較しても、キオクシアの販売単価は大きく上昇している。7〜9月期の製品構成込み平均販売単価はドル建てで20%台半ばの上昇となり、TrendForceが7月3日時点で予測していたNAND契約価格の上昇率10〜15%を上回った。ただし、TrendForceの数字は期初時点の予測であって実績ではなく、キオクシアの数値も製品構成を含む社内平均であるため、両者を直接比較することはできない。この比較から分かるのは、キオクシアの単価上昇が期初の業界予測を上回る水準だったということまでであり、同社が市場平均より高く販売できていたことを証明するものではない。
また、太田社長の発言が報じられたのは7〜9月期の途中にあたる9月9日だ。同社は、発言の前後で成立した取引の価格を区別して開示していないため、社長の方針が実際の販売単価にどの程度影響したのかは分からない。7〜9月期の実績は、販売単価が会社の想定以上に上昇したことを示しているが、値上げ抑制の方針が業績に与えた影響を検証する材料にはならない。
10月30日の決算説明会の質疑要旨でも、会社は値上げそのものを停止する方針を示していない。キオクシアは2027年を通じてNAND型フラッシュメモリーの供給不足が続くと予想しており、販売単価についても「基本的に上昇基調」との見通しを示している。ただし、価格がどの程度上昇するかについては、今後の市場動向を注視する姿勢だ。9月の社長発言と合わせると、価格の急騰を避けながら高い水準を維持し、必要に応じて値上げを続ける方針と解釈できる。
収益機会を逃しているかどうかを判断するうえでは、長期供給契約(LTA)の価格条件も重要になる。キオクシアによると、2027年の生産能力はほぼ割り当て済みで、2028年についても記憶容量ベースの出荷量の50%を大きく超える分を複数年契約で確保している。すでに2029〜2030年の供給についても顧客との協議を始めているが、これらの契約における価格条件は開示していない。一方、同業のSK hynixは、長期契約について合意済みの価格レンジ内で市場動向を反映する仕組みを説明しているものの、キオクシアが同様の条件を採用しているかは不明だ。
現時点で確認できるのは、7〜9月期の販売単価が会社の見通しを上回り、同年7月時点の業界予測よりも大きく上昇していたことだ。決算資料からは、値上げを控えたために売上を取り逃したという明確な根拠は見つからない。ただし、長期契約の価格条件が非開示である以上、より高い価格で販売できた可能性があったのか、あるいは将来の価格上昇を利益に十分反映できるのかまでは判断できない。
税負担が急増する一方、下期には3,300億円の設備投資を計画
上期の利益急増に伴い、キオクシアでは税負担も大幅に増えている。2026年4〜9月期の法人所得税費用は1兆55億円に達し、税引前中間利益3兆2,034億円に対する比率は約31.4%となった(編集部計算)。ただし、同期間に実際に支払った法人所得税は1,107億円にとどまる。9月末の未払法人所得税は9,747億円で、3月末から8,702億円増加した。会社は今後の多額の納税に備えるとともに、下期も利益の積み上がりによって税負担が増えると見込み、手元資金を厚く確保したと説明している。
4〜9月期の法人所得税費用1兆55億円は、同期間の有形固定資産の取得による支出1,353億円の約7.4倍に相当する。ただし、法人所得税費用には繰延税金も含まれており、実際の納税額は前述の1,107億円だ。また、有形固定資産の取得支出には無形資産への投資や政府補助金の受け取りは含まれないため、この2つの数字だけで投資と税負担の大小を単純に比較することは適切ではない。キオクシアは2026年度のグロス設備投資を4,700億円と見込み、そのうち3,300億円を下期に実施する計画だ。したがって、上期の投資額が税費用を大きく下回っていることをもって、設備投資が不足しているとは判断できない。
株主還元については、すでに大規模な施策を実施している。キオクシアは8月に8,000億円の自社株買いを完了し、9月30日を基準日とする中間配当も決議した。配当額は1株90円で、10月1日に実施した1対3の株式分割後に換算すると30円、総額は479億3,700万円となる。効力発生日は12月8日で、同社にとって上場後初の配当となる。
追加の自社株買いについて、会社は実施を見送ったのではなく「保留」していると説明し、下期の投資状況を見極めたうえで判断する方針を示した。中長期的には、戦略投資の状況に応じて、余剰資金の100%を株主に還元する考えも明らかにしている。
財務面では、利益の拡大を背景に手元資金が大きく増えている。9月末の現金及び現金同等物は1兆3,973億円で、3月末から9,266億円増加した。一方、社債及び借入金は3月末の1兆476億円から6,039億円へ減少し、会社定義のネットキャッシュは8,127億円となった。
売上の急拡大に伴い営業債権も増加しているが、売上に対する比率は大きく変わっていない。9月末の営業債権は1兆6,484億円で、7〜9月期売上収益の66.5%に相当する。3月末の営業債権は6,606億円、1〜3月期の売上収益は1兆29億円で、比率は65.9%だった。営業債権は売上の拡大とほぼ同じ割合で増えており、この比率だけを見る限り、売上に対して債権が突出して増加している状況ではない。ただし、営業債権には「その他の債権」も含まれており、顧客構成や回収条件の変化については開示されていない。
2027年の価格を左右する長期契約と、2029年度稼働予定の増産計画
今後のNAND市場について、キオクシアは引き続き需要の拡大を見込んでいる。記憶容量ベースで見た市場全体の成長率(ビット成長率)は、2026年が10%台後半、2027年が20%台前半になるとの予想だ。同社自身の2027年の出荷量も市場並みに増加すると見込み、スマートフォンやPC向け需要の弱さをデータセンター・企業向け需要が補う構図を想定している。
合弁相手のSandiskも、データセンター向け事業の成長を報告している。同社の7〜9月期にあたる四半期のデータセンター向け売上は48億200万ドルとなり、前四半期比61%増加した。AIインフラやクラウドサービス向けのストレージ需要が、NAND市場全体の成長を支える重要な要素になっている。
一方、供給能力の拡大には時間がかかる。キオクシアは2026年度のグロス設備投資見通しを、7月時点の4,500億円から4,700億円に引き上げ、下期に3,300億円を投じる計画だ。今年度は3年間の投資計画の範囲内で、来年度に予定していた投資の一部を前倒しするものの、3年間の計画全体を大きく変更する考えはないとしている。
新たな生産拠点については、北上工場の第3製造棟(K3)の用地造成に着手しており、2029年度の稼働を予定している。また、Sandiskとは2032年までに国内で約5兆円を投資する計画を進めており、生産能力はキオクシアとSandiskが60対40の割合で分け合う。ただし、K3の建設も約5兆円の投資計画も、政府による支援を前提としている。
この投資規模については、需要拡大に対して十分なのかという議論もある。元東芝CFOの久保誠氏は、太田社長が年間4,000億〜5,000億円規模の投資を続ける方針を示したことに対し、「投資の桁は一つ多くてもいい」と述べている(文春オンライン、8月9日)。久保氏の指摘は販売価格の設定ではなく、成長市場に対応するための投資規模に向けられたものだ。
こうした需要拡大と供給能力の制約が続くなか、キオクシアの収益を左右するのが長期契約の価格条件だ。2028年の記憶容量ベースの出荷量の半分を大きく超える分を複数年契約で確保できれば、市況が変動しても一定の販売数量を見込める。一方、契約価格が固定されているのか、市場価格に連動して変動するのかによって、将来の利益は大きく変わる可能性がある。キオクシアは契約の価格条件を開示していないため、現在の需給逼迫が将来の利益にどの程度反映されるかは不明だ。
今後の判断材料は、大きく3つある。第一に、10〜12月期の決算で同一製品ベースの平均販売単価がどの程度上昇したか。第二に、2027年1〜3月期に会社が見込む出荷量の大幅な増加が実際に起こるか。そして第三に、長期契約における価格の決め方がどこまで明らかになるかだ。
同一製品ベースの販売単価が引き続き上昇し、1〜3月期に出荷量の増加が確認されれば、急激な値上げを避けながら高い価格水準を維持するという太田社長の方針と、2027年も価格上昇が続くとする会社の見通しが、業績上も両立していると判断する材料になる。
今回の10〜12月期の売上見通しは、円建てではほぼ横ばいだが、想定為替レートで換算するとドル建てで約3.4%の増収となる。販売単価の上昇率が縮小していることは確かだが、それだけでNAND型フラッシュメモリーの価格が天井に達したとは言えない。キオクシアの価格抑制方針が実際の収益にどう影響するかを判断するには、今後の同一製品ベースの販売単価と長期契約の価格条件を確認する必要がある。
