京都フュージョニアリング(KF)は2026年10月29日、レーザー駆動型の慣性核融合を開発するドイツのFocused Energy(FE)と、技術協力に関する覚書を締結したと発表した。燃料とターゲット、トリチウム燃料サイクルを中心に情報交換を進め、共同開発の可能性を探る。核融合炉の過酷な環境に耐える材料や計測技術も協力対象に含まれる。
レーザー核融合は、レーザーを使って燃料を圧縮・加熱し、核融合反応を起こす技術だ。しかし、核融合反応の成功がそのまま発電の実現につながるわけではない。発電所として運転するには、燃料を継続的に供給・回収する仕組みや、核融合で生じた熱を電力に変換する設備などを組み合わせる必要がある。今回の覚書は、こうした発電プラントの実現に必要な技術を巡る協力の枠組みであり、新たな発電性能の実証を発表したものではない。
燃料サイクルや計測技術で共同開発の可能性を探る
KFの発表によると、今回の協力には、ドイツのカールスルーエに拠点を置くKFの欧州法人KFEUも関わる。対象となるのは、燃料とターゲット、トリチウム燃料サイクル、極限環境向けの材料・計測技術だ。両社はこれらの分野で情報交換を進め、共同開発の可能性を検討する。ただし、今回の覚書によって、各分野で具体的な共同開発プロジェクトの開始が決まったわけではない。
今後はKFEUを中心にドイツの研究機関とも連携し、日本とドイツに広がるネットワークを活用して研究開発や実証、産業分野での協力機会を探る。また、関連技術のサプライチェーン構築も目指す。現時点では、具体的な設備の納入先や投資額などは公表されていない。
両社の役割について、KFはFEが燃料ターゲットの製造から発電プラント全体の統合設計までを手掛ける一方、KFは燃料サイクルや増殖ブランケットなど、核融合炉を支える周辺設備の工学技術に強みを持つと説明している。今回の協力は、こうした両社の技術領域を組み合わせる可能性を探るものだ。ただし、言及された設備のすべてについて、共同開発や導入が確定したわけではない。
KFの代表取締役社長を務める世古圭氏は、今回の発表で「フュージョンエネルギーは、フュージョン反応を支えるさまざまな技術がひとつの発電プラントとして連携してはじめて実現します。」と述べている。核融合反応そのものだけでなく、発電プラント全体を構成する技術の統合が重要だという考えが、今回の協力の背景にある。
レーザー核融合発電に必要な燃料循環と周辺設備
米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)は、2025年に公開した解説記事で、慣性核融合を発電に利用するための基本的な構想を説明している。この方式では、重水素とトリチウムを封入した小さな燃料カプセルにレーザーを照射し、燃料を急激に圧縮・加熱することで核融合反応を起こす。
これを発電プラントとして運用するには、燃料ターゲットの製造と投入、レーザー照射という一連の工程を繰り返しながら、核融合で生じた熱を回収し、蒸気タービンなどを通じて電力に変換する必要がある。発電した電力の一部は、レーザー装置をはじめとするプラント設備の運転に使うことが想定されている。なお、LLNLの国立点火施設(NIF)は核融合反応を研究するための実験施設であり、電力を供給する発電所ではない。
もう一つの重要な課題が、燃料の循環だ。重水素とトリチウムを使う核融合では、反応によって生じる中性子を利用し、炉内側に配置した増殖ブランケットのリチウムから新たなトリチウムを生成する構想がある。生成したトリチウムを回収して燃料として再利用することで、継続的な運転に必要な燃料を確保することを目指す。こうした燃料の循環と、設備の運転に必要な電力の確保を両立させることが、核融合発電の実用化に向けた重要な条件となる。
今回の覚書が対象とする技術も、こうした発電プラントの構成要素と関係している。以下の表では、LLNLが説明する一般的なレーザー核融合発電の構想を踏まえ、それぞれの協力分野が担う役割と、今回公表された内容を整理した。なお、これは発電プラントに必要な技術を説明するものであり、FEの具体的な設備設計や実証結果を示すものではない。
| 覚書の協力対象 | 発電プラントとの関係 | 今回公表された範囲 |
|---|---|---|
| 燃料とターゲット | 燃料を封入したカプセルを製造・投入し、レーザーを照射する | 情報交換と共同開発の可能性を検討。投入・照射の具体的な試験条件は未公表 |
| トリチウム燃料サイクル | トリチウムの生成・回収・再供給を通じて、燃料の継続的な利用を支える | 協力の検討対象。増殖性能や燃料回収率の実測値は未公表 |
| 極限環境向け材料・計測技術 | 核融合炉の過酷な環境に対応する材料や、設備の状態を把握する計測技術に関わる | 具体的な材料、計測対象・方法、機器寿命、試験結果は未公表 |
今回の協力は、レーザーによって核融合反応を起こす工程だけでなく、燃料を循環させる設備や、プラントの運用を支える材料・計測技術にも及ぶ。ただし、材料の種類や耐久性、計測対象、測定方法、具体的な試験条件などは明らかにされていない。そのため、現時点では各技術の開発段階や性能を評価することは難しい。もっとも、今回の発表にデータが含まれていないことは、両社が関連する技術や試験データを保有していないことを意味するものではない。
ドイツ・ビブリスでの発電所建設構想と今後の課題
FEは、2030年代半ばまでにドイツのビブリスでレーザー核融合発電プラントを建設することを目指している。今回の協力は、このような発電所の実現に向けて必要な周辺技術を検討する取り組みと位置づけられる。ただし、ビブリスでの建設はFEが掲げる目標であり、今回の覚書によって建設時期や運転開始が確約されたわけではない。また、今回の発表では発電出力や具体的な試験日程、発電コストなども示されておらず、計画段階の情報から実際の運転性能を評価することはできない。
発表内容の根拠についても区別が必要だ。今回の主な情報源は企業のプレスリリースであり、新たな実験結果を報告した査読済み論文やプレプリントではない。実験やシミュレーションの具体的な結果も公表されておらず、試料数や試験条件、効果量、再現性などを評価するためのデータは確認できない。PR TIMESに掲載された発表もKF自身による同一内容の公表であり、第三者による独立した検証ではない。また、前述のLLNLの資料はレーザー核融合発電の一般的な仕組みを解説したもので、今回の協力に関する実測結果を報告したものではない。
今後の進展を判断するうえでは、トリチウムの増殖性能や燃料回収率、関連機器の寿命について、具体的な運転条件とともに実測データが示されるかが重要になる。さらに、燃料の供給・回収やレーザー装置などを含めたプラント全体で、運転に必要な電力と取り出せる電力がどのような収支になるかも欠かせない評価項目だ。今回の覚書は、レーザー核融合の実用化に必要な技術を結びつけるための一歩といえるが、その成果を評価するには、今後の具体的な開発計画と実証データの公表を待つ必要がある。



