The New York Times(NYT)は2026年11月2日、Webブラウザ「Brave」を開発するBrave Softwareを、著作権侵害などを理由に米ニューヨーク南部地区連邦地裁へ提訴した。同日、Daily News、Chicago Tribune、Orlando Sentinelの3紙も別の訴状を提出している。Braveはこれまで、検索エンジンによる記事の索引化や短い抜粋(スニペット)、要約の表示は公正使用(フェアユース)に当たると主張してきた。しかし、今回の訴訟では、記事を索引化する行為そのものに加え、検索APIを通じて記事本文をどこまで提供していたかが重要な争点になるとみられる。NYTの訴状によると、Brave Search APIの「LLM Context」というエンドポイントが、1,295語の記事のうち1,291語、実に99.7%を返した例があるという。

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著作権侵害の焦点は、検索APIが提供する記事本文の量に

NYTは訴状で、5つの請求を立てている。このうち著作権侵害に関するものは、Brave自身が記事を複製したとする直接侵害、顧客による侵害を助長したとする寄与侵害、侵害行為を管理できる立場にありながら利益を得ていたとする代位責任の3つだ。直接侵害については、記事を検索インデックスやデータベースに取り込む際の複製だけでなく、記事の内容を第三者に提供する行為も問題視している。さらに、ペイウォール(有料記事の閲覧制限)を回避する行為がデジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1201条に違反するとの請求と、広告の差し替えによって収益を得たことを理由とする不当利得の返還請求も含まれる。NYTは損害賠償や利益の返還、恒久的な差止めを求めているが、「Paywall blocker」によるペイウォールの回避と広告の差し替えは、APIが提供する記事本文の量とは別の法的論点となる。

検索APIの出力が重要になるのは、NYT自身が以前から、記事の代替となるコンテンツの提供を問題視してきたためだ。訴状によると、NYTは2026年4月に送付した書簡で、Braveが記事の代わりとなる内容を利用者に直接表示しており、公正使用では正当化できないと指摘していた。この主張はBraveの一般利用者向けサービスに関するものだが、記事本文を第三者に渡す検索APIにも同様の論理が適用される可能性がある。

Braveは独自の検索エンジンを運営するため、Webページを収集して検索インデックスを構築してきた。その規模について、同社は2026年2月のブログで400億ページに達したと説明している。NYTの訴状によると、Braveは2023年に検索インデックスの収益化へ方針を転換し、AI企業などに検索データを提供する「Brave Search API」の展開を進めた。訴状はBrave自身の資料を引用し、このAPIの主な用途が複数の主要な大規模言語モデル(LLM)の学習とグラウンディングであると指摘している。グラウンディングとは、AIが回答を生成する際に外部の検索結果や文書を参照し、その内容を回答の根拠として利用する手法だ。

Braveは同じブログで、Search APIが週に数十億回の呼び出しを処理しているとも説明した。NYTはこの数字を引用し、AI企業によるAPIの利用規模が個人利用者による利用を大きく上回っていると主張している。こうした大規模な利用を背景に、検索APIが返す情報の範囲が著作権上の問題として浮上している。

訴状で特に注目されるのが、LLM Contextエンドポイントによる記事本文の提供例だ。NYTによると、このエンドポイントは1,295語の記事から1,291語をそのまま返しており、原文の99.7%に相当する内容が取得できたという。別の記事のタイトルを使って3種類のエンドポイントを試した例でも、LLM Contextは記事の半分近く、Web Searchは3分の1を超える内容を返したとされる。検索結果に数語の抜粋を添える従来の仕組みと、AIに参照情報として記事本文の半分からほぼ全体を渡す仕組みでは、同じ検索サービスでも提供する情報量が大きく異なる。

Braveが先行するNews Corpとの訴訟で正当性を主張してきたのは、主に検索インデックスの構築と、スニペットや大まかな要約の表示だ。Reutersの報道によると、Braveはこうした行為が公正使用に当たると主張している。一方、News Corpは2026年7月21日、カリフォルニア北部地区連邦地裁で反訴し、差止めと侵害1件あたり最大15万ドルの損害賠償を求めた。NYTも過去の書簡で同額を挙げて警告していたという。今回の訴状によれば、NYTは2025年8月と2026年4月、BraveのCEOであるBrendan Eich氏に問題行為の中止を求めたものの、Braveからの返答はなかったとしている。

索引化を認めた2015年の判決は、AI向けの大量出力にも適用されるのか

Brave側にとって重要な先例となり得るのが、2015年のGoogle Booksを巡る判決だ。米第2巡回区控訴裁判所は、Googleが書籍をスキャンしてデジタル化し、検索可能なデータベースを構築する行為を公正使用と認めた。今回の提訴先であるニューヨーク南部地区連邦地裁は第2巡回区に属するため、この判断はBraveの索引化行為を評価するうえでも重要となる。仮に争点が記事の収集と索引化だけに限られるなら、NYTにとって不利に働く可能性がある。

ただし、Google Books判決が認めたのは、書籍を電子化して検索可能にする行為と、表示範囲を制限したスニペットの提供である。その判断が、記事本文のほぼ全体を第三者のAIシステムに渡す行為にまで及ぶかは別の問題だ。NYTが示した99.7%という数字は、まさにこの違いを浮き彫りにしている。記事の索引化が許されるとしても、検索APIからほぼ全文を取得できる状態が公正使用として認められるかどうかは、改めて判断が必要になる。

もっとも、訴状に示された数値を一般化することには慎重であるべきだ。99.7%という割合は、特定の記事1本とLLM Contextエンドポイントを組み合わせた例であり、すべての記事について同じ割合の本文が返されることを示しているわけではない。別の記事を使った検証では、LLM Contextが半分近く、Web Searchが3分の1超という結果だったとされ、取得できる本文の割合には違いがある。さらに、これらはいずれも原告側の主張であり、報道時点でBraveによる反論は確認されていない。

訴状は、Brave Search APIの顧客としてAnthropic、Perplexity、Mistral、xAI、Cohereの名前を挙げている。ただし、これらのAI企業は今回の訴訟の被告ではない。訴状の脚注では、BraveのAPI紹介ページや企業情報ページに、Cohere、Mistral、Perplexity、You.comが利用者として掲載されていることも指摘されている。NYTが今回訴えたのは、APIを利用するAI企業ではなく、検索インデックスとAPIを提供するBrave自身だ。

今回の訴訟で注目すべきなのは、従来の検索エンジンを巡る公正使用の議論が、AI向けの情報提供にもそのまま当てはまるのかという点である。Braveが正当性を主張してきたスニペットや要約の表示と、訴状が指摘する記事のほぼ全文の提供とでは、利用者が原著作物にアクセスする必要性も異なり得る。NYTはその違いを根拠に、検索サービスとしての正当性だけではAPIによる大量の本文提供を正当化できないと主張していると読める。ただし、この見立ては訴状に記載された出力内容が事実であることを前提としており、Brave側の説明や今後の証拠によって評価が変わる可能性がある。

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Braveの答弁が焦点に、日本のPerplexity訴訟との共通点も

今後の見立てを左右する条件は、大きく2つある。第一に、Braveの答弁や提出証拠によって、LLM Contextが返す内容は実際には記事の一部に制限されていると示される場合だ。APIの仕様として返却できる語数に明確な上限が設けられており、訴状に記載された大量の本文取得が再現できないのであれば、出力量を中心とする見立ては弱まる。第二に、裁判所が大量の本文出力を含めて公正使用に当たると判断する場合である。News Corpとの訴訟も含め、確認できた範囲では、こうした争点についての司法判断はまだ示されていない。

日本でも、AIによる報道記事の利用を巡って訴訟が進んでいる。朝日新聞社と日本経済新聞社は、Perplexityによる記事の無断使用について、差止めと合計44億円(各22億円)の損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、2026年5月14日に第1回口頭弁論が開かれた。読売新聞3社もPerplexityに対して約21億円の損害賠償を求めており、同年5月26日に初弁論が行われている。Perplexity側は、いずれの訴訟でも請求の棄却を求めている。

NYTの今回の訴状には、Brave Search APIの顧客としてPerplexityの名前が挙がっている。ただし、国内の訴訟と今回の米国での訴訟では、問題とされている行為の主体が異なる。日本の訴訟では、AIによる回答の生成や記事の利用に伴う複製が問われているのに対し、NYTは検索インデックスを構築し、APIを通じて情報を供給するBraveの責任を追及している。つまり、AIによる情報利用の仕組みのうち、異なる段階を対象とした訴訟といえる。なお、今回の訴状からは、Brave Search APIが日本向けのAI回答生成に使用されているかどうかは確認できない。

次の重要な判断材料となるのは、Braveが提出する答弁書と、LLM Contextの実際の仕様だ。1回のAPI呼び出しで記事本文を何語まで返せるのか、訴状に記載された出力例が再現可能なのかが明らかになれば、双方の主張をより具体的に評価できるようになる。その結果、争点が取得・提供される本文の量を巡る線引きに集約されるのか、それともAI向けに報道記事を供給する事業者の責任全般に広がるのかが見えてくるだろう。