スロベニアの国別トップレベルドメイン「.si」の新規登録が急増している。登録機関Register.siの月次統計によると、2026年9月の新規登録は46,066件に達し、8月の3,515件から約13.1倍に増えた。Donald Trump米大統領が9月29日、連邦政府内でAIを「超知能(SI)」と呼ぶよう命じたことで、「SI」という2文字を使ったドメインへの関心が高まっている。
ただし、ドメインを取得することと、実際にそこでAIサービスを始めることは別だ。公式統計と転売市場の動きを照らし合わせると、今回の登録ラッシュには、将来の需要を見込んで先に名前を押さえる動きも含まれていることが分かる。
9月の新規登録は前月の約13倍
Register.siが公開する登録数の推移には、日別と月別のグラフがある。10月3日に確認した月次データでは、8月の新規登録が3,515件、9月が46,066件だった。
2026年9月の46,066件は8月の約13.1倍で、増加率にすると約1,211%になる。
| 集計期間 | .siの新規登録件数 | 比較する際の意味 |
|---|---|---|
| 2026年8月 | 3,515件 | 前月の暦月集計 |
| 2026年9月 | 46,066件 | 8月と同じ月次系列 |
| 2026年9月29日 | 4,115件 | 大統領令の署名日 |
| 2026年9月30日 | 11,331件 | 署名翌日 |
| 2026年10月1日 | 12,728件 | 翌月も高水準が継続 |
出典はRegister.siの「Monthly registrations」と「Daily registrations」。倍率は46,066÷3,515、増加率は(46,066−3,515)÷3,515を百分率に換算し、それぞれ小数1桁と整数に丸めた。月次と日次の数字を合算したものではなく、それぞれの登録規模を示している。
大統領令が署名された9月29日は4,115件だったが、翌30日には11,331件へ増えた。10月1日も12,728件と1万件を超えており、署名翌日だけの一時的な動きではない。
もっとも、9月の月間登録数には大統領令の署名前に取得されたドメインも含まれる。9月全体の急増を、すべて9月29日の大統領令が引き起こしたと考えることはできない。
Register.siの公式トップページに表示される「直近24時間」の数字も、日別グラフの数字とは異なる。閲覧した時刻によって集計対象となる24時間が変わるためだ。ここでは時点によって変動するカウンターを混ぜず、同じ公式グラフに掲載された月次・日次データを使った。
また、登録されたドメインの数は、新しく公開されたWebサイトやAI企業の数を意味するものではない。
米政府が変えたのは呼び方、民間への「.si移行命令」ではない
9月29日の大統領令が変更したのは、米連邦政府の行政機関が使う呼称だ。法律で認められる範囲内で、公式文書や広報、Webサイトなどで「SI」を使うよう求めている。民間企業に対して「.ai」をやめて「.si」へ移るよう命じたものではない。
すでに発行済みの規則や契約などを、さかのぼって書き換える必要もない。当面「SI」が指す対象についても、既存の米国法にあるAIの定義を引き継ぐ。名称を変えたからといって、現在のAIが研究上の意味で人間を超える知能に到達したと米政府が認定したわけではない。
「.si」は、もともとスロベニアに割り当てられた国別トップレベルドメインだ。アンギラの「.ai」と同じように、国や地域を表す文字列が、技術分野の略称としても読める。
Netcraftの9月24日の調査によると、「.si」はスロベニア国外の個人や組織でも取得できる。米政府が「SI」という表記を使い始めれば、その名前で事業を始めたい企業や、将来価値が上がると期待する投資目的の購入者が同じドメインを求める可能性がある。ただし、大統領令が将来の需要を保証するわけではない。
転売市場には、値上がりを見込んだ取得も
Netcraftは9月24日の独自調査で、国連演説より前から「.si」の登録が増えていたと報告した。特に目立ったのが、取得したドメインをそのまま売りに出せる市場を持つ登録事業者Dynadotである。
Netcraftは9月19日15時29分から22日15時ごろまで、いずれもUTCで、Dynadot経由で登録された「.si」ドメインを調査した。そのうち約52%が、9月23日時点ですでにDynadotの転売市場へ出品されていたという。
ただし、これは「.si」全体の半数が投機目的で取得されたという統計ではない。特定の登録事業者を通じ、特定期間にNetcraftが検出したドメインについて、転売市場への出品状況を調べた結果だ。出品されたドメインが実際に売れた割合を示す数字でもない。
10月1日の続報では、大統領令の署名後、OpusDNS経由の登録が急増したという。Netcraftは、同事業者が再販業者向けにサービスを提供していることから、転売を見込んだ取得が含まれている可能性を指摘している。ただし、個々の購入者が何を目的に取得したかまでは特定していない。
買い付けは「.si」だけに限らなかった。Netcraftは、既存ブランド名と「superintelligence」を組み合わせた「.com」ドメイン87件が、それぞれ2万ドルで売りに出されていることも確認した。ただし、同社の調査時点では、実際に購入されて所有者が変わった証拠は見つかっていない。
高額な販売価格は売り手の期待を示すだけで、市場がその価格を受け入れた証拠にはならない。
なお、Netcraftによる時間単位の登録分析は、同社独自のインターネット調査で検出したデータに基づく。Register.siによる公式の全件集計とは方法が異なる。また同社は10月1日時点で、今回の名称変更に便乗したフィッシングなど、悪意あるコンテンツの増加も確認していない。
Hostingerでは急増、Wixでは目立った変化なし
登録されたドメインが実際にどのサービスで使われ始めているのかについては、TechCrunchのホスティング各社への独自取材が手掛かりになる。
Hostingerは同媒体に対し、自社顧客による「.si」の登録が9月30日に約4,300件、10月1日に約5,400件に達し、「.com」に次いで人気の高いドメイン末尾になったと説明した。購入者の過半数は米国とインドからだったという。
一方、Hostingerがドメイン名から明確にAI関連と分類できた「.si」は約3%にとどまり、多くは用途を分類できなかった。
これは、購入者へ利用目的を聞き取った結果ではない。社名や一般的な単語を使ったドメインでAIサービスを提供することも考えられるため、残りの97%を「AIとは無関係」とみなすことはできない。また、Hostingerの顧客だけを見て「.si」全体の用途を推定することも難しい。
Wixの説明は対照的だった。同社はTechCrunchに対し、9月29日以降、自社サービスでは「.si」登録の目立った増加は見られていないと答えた。
両社は顧客層もサービス内容も異なるため、この数字をそのまま市場シェアの比較に使うことはできない。それでも、「.si」の登録ブームがすべてのホスティング事業者へ同じように広がっているわけではないことは分かる。
企業によるブランド保護、実際のサービス用としての取得、転売目的の買い付けは、いずれも登録件数を押し上げる。ドメインが取得された段階では、その名前が最終的にどのように使われるのかまでは分からない。
登録急増は、スロベニアにどれだけの収入をもたらすのか
Register.siは、スロベニア学術研究ネットワークARNESの中に置かれた国家登録機関で、「.si」の登録台帳やトップレベルのDNS基盤を管理している。一般の利用者から申し込みを受け付けるのは、それとは別の登録事業者だ。
公式の事業者向け料金表では、新規登録または更新の料金は1年につき10ユーロで、付加価値税は別となっている。ARNESは、登録事業者が最終利用者へ請求する価格には関与しないとも明記している。この10ユーロを、一般利用者が誰でも支払える小売価格として紹介すると、料金体系を取り違えることになる。
収入についても同じ注意が必要だ。登録事業者から登録機関へ支払われる料金、販売窓口となる登録事業者の売上、ドメイン保有者が転売によって得る金額は、それぞれ別のものだ。
また、ARNESは公的機関だが、「.si」登録による料金収入をそのままスロベニア政府の税収や利益とみなすこともできない。登録件数に10ユーロを単純に掛けても、実際の純収入や政府財政への貢献額が分かるわけではない。
「.si」の登録規約では、条件を満たした申請を原則として先着順で受け付ける。ただし、取得できるのは登録期間中にそのドメインを利用する権利であり、申請者には第三者の権利を侵害しない義務もある。商標などを巡って争いが生じた場合には、規約に基づく紛争処理の仕組みも用意されている。
先に取得したからといって、他社の名称を使ったドメインを無条件に保有・転売できることが保証されるわけではない。
需要を先取りしてドメインを確保する動きは、実際のサービス利用より早く表れる。「.si」が継続的に使われる事業用ドメインとして定着するかを見るには、取得後にどれだけWebサイトやサービスが公開されるか、翌年以降も登録が更新されるか、転売されたドメインの所有者が実際に変わるかを追う必要がある。
取得されたドメインが実際のサービスに使われ、その後も更新され続けて初めて、今回の登録ラッシュが一時的な投機ではなく、持続的な需要につながったかを判断できる。



