テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

中国テック大手3社が米国規制前にNVIDIA H20 AI GPUを120億ドル分大量購入

Y Kobayashi

2025年4月24日

中国のテクノロジー大手であるByteDance、Alibaba、Tencentが、米国の新たな輸出規制が発効する直前に、NVIDIA製のAIチップ「H20」を大量に発注していたことが明らかになった。その規模は総額120億ドルを超えると報じられており、AI開発競争が激化する中での半導体確保に向けた中国企業の動きが生々しく浮かび上がる。

スポンサーリンク

規制強化を見越した「駆け込み需要」の実態

Nikkei Asiaの報道によると、TikTokを運営するByteDance、電子商取引大手のAlibaba、そしてメッセージングアプリWeChatなどを手掛けるTencentの3社は、米国の輸出規制が強化されることを見越して、NVIDIAのAIチップ「H20」の確保を急いでいた。

H20チップとは、NVIDIAの高性能AIチップ「H100」をベースに、従来の米国の輸出規制に適合するように性能を調整した中国市場向けのモデルである。AIモデルの学習済みデータを用いて新たな予測や分類を行う「AI推論」などのタスクで広く利用されている。

報道によれば、3社は合計で約100万個のH20チップを発注し、これは約1年分の供給量に相当するという。その注文総額は120億ドル(約1兆8700億円)を超えるとされる。関係者の話では、中国企業側は昨年時点で、このH20チップもいずれ規制対象になる可能性が高いと予測しており、周到に準備を進めていたようだ。

しかし、実際に発注されたチップ全量が納品されたかは不明確である。一部報道では、企業側は5月末までの全量納品を希望していたものの、4月に新たな規制(輸出ライセンス要件の導入)が発効したことで、計画していた1年分の備蓄には至らなかった可能性が指摘されている。3月下旬には、中国国内でH20チップの供給不足が囁かれており、これは大手企業による買い占めの影響だったのかもしれない。

AI開発競争と米国の圧力:なぜ大量購入が必要だったのか

中国企業がこれほど大規模なチップ確保に動いた背景には、国内でのAIサービス開発競争の激化がある。例えば、Tencentは主力サービスであるWeChatに「DeepSeek」と呼ばれるAI機能を統合するなど、各社がAIを活用した新機能・新サービスの開発にしのぎを削っている。こうしたAI開発には、膨大な計算処理能力、すなわち高性能なAIチップが不可欠なのだ。

一方で、米国政府は先端技術、特にAIやスーパーコンピュータに利用可能な半導体の対中輸出規制を段階的に強化してきた。H20チップは、まさにそうした規制の「抜け穴」を突く形で設計された製品だったが、米国政府はこれも問題視。今年4月、チップのメモリ性能やインターコネクト(チップ間のデータ伝送)帯域幅、スーパーコンピュータへの利用可能性などを理由に、事実上の輸出禁止措置に踏み切った。

まさに時間との戦いであったと言える。中国企業にとって、規制が発効する前に可能な限り多くのH20チップを確保することは、当面のAI開発競争を生き抜くための死活問題だったのである。

スポンサーリンク

規制の影響と今後の展望:代替策と米中対立の行方

今回のH20チップに対する規制強化は、NVIDIAにとっても大きな打撃となる。同社は、この措置により2024年第1四半期だけで約55億ドル(約8600億円)の売上機会を失うとの見通しを示している。これは、すでに製造・確保していたH20チップの在庫を中国市場で販売できなくなるためだ。

規制強化に直面した中国企業は、代替策の模索を余儀なくされている。最も有力な代替候補とされるのが、中国の通信機器・半導体大手Huaweiが開発する「Ascend」シリーズのAIプロセッサである。Huaweiは、NVIDIAの最新チップ「GB200」に匹敵する性能を持つとされる次世代Ascendチップの開発を進めているとも報じられており、これが実現すれば、中国は米国製チップへの依存度を大幅に下げられる可能性がある。

しかし、その道のりは平坦ではない。Huaweiは米国の制裁により、最先端の半導体製造プロセスへのアクセスを制限されている。過去の報道では、同社が2020年の制裁強化前に確保していた旧世代のチップ設計図(ダイ)を用いて「Ascend 910C」などを製造しているとされるが、性能面では最新チップに及ばないのが現状だ。

また、一部の中国企業は、海外に設立した子会社などを通じて規制対象のチップを迂回購入しようとする動きも見せている。これに対し、世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCは、米商務省と協力し、不審な注文元を特定する取り組みを進めていることを認めており、迂回路の封じ込めも進んでいる。

今回のH20チップを巡る一連の動きは、AIという次世代技術の覇権を巡る米国と中国の対立がいかに深刻化しているか、そして半導体が地政学的な競争の焦点となっている現実を改めて浮き彫りにした。中国企業は当面のチップ不足を乗り切るため、備蓄したH20や国産チップへの移行を進めると考えられるが、中長期的には米国の規制強化が中国のAI開発ペースにどのような影響を与えるのか、注視していく必要があるだろう。


Source

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする