衛星測位の競争が、高度約20,200kmの中軌道から高度500km前後の低軌道へ広がり始めた。米Xona Space Systemsは2025年6月23日に実証衛星Pulsar-0を打ち上げ、2026年7月9日には対応受信機を検証する「Pulsar Verified」を始めた。同社は今後数年で258機を配備し、2026年後半から初期衛星を軌道へ送る計画である。まだ世界を覆う測位網ではないが、1機の電波実験から衛星量産と受信機統合へ進む準備は整ってきた。
258機計画と、まず6機で始まるサービス
Xonaは2026年3月、Pulsarの配備とカリフォルニア州Burlingameの新工場に充てる1億7,000万ドルのシリーズC調達を発表した。ベルギーのAerospacelabも移行期の製造パートナーとして追加8機を受注し、Xonaが米国内の自社生産を立ち上げる間をつなぐ。両社の公式計画では、打ち上げは2026年後半に始まる。
さらにXona幹部がArs Technicaの取材に示した日程では、最初の量産衛星6機を2026年10月に打ち上げ、2027年に初期サービスを始める。6機だけで世界中の利用者が常時測位できるわけではない。Xonaの説明では、まず中緯度で断続的な時刻信号を提供し、約16機で少なくとも1機が定期的に見える状態を目指す。地域内で4機を同時に捉えられるようになってから、センチメートル級の測位が現実になる。
初期顧客にHoptroff、Fibrolan、Timebeatという精密時刻の事業者が並ぶのは、この配備順を反映している。位置が既知の固定設備なら、通信網やデータセンターへ時刻を渡す用途は1機の信号から始められる。自動車や測量機がPulsarだけで三次元位置と受信機の時計誤差を同時に解くには、見通せる衛星を増やさなければならない。商用化は時刻同期から入り、衛星数に合わせて測位へ広げる道筋である。
高度510kmが変える、信号電力と空の動き
米連邦通信委員会(FCC)がPulsar-0に認めた軌道高度は510±15kmである。GPSは約20,200kmを飛び、24機を基準とする6軌道面で、地球上のほぼどこからでも4機以上を見られるよう設計されている。低軌道では1機が覆える地表面積と可視時間が小さくなるため、XonaはGPSの基準構成の10倍を超す258機を計画する。
衛星が近い利点は、受信電力と空の動きに出る。Xonaの仕様では、PulsarのX1/X5信号は受信電力が最大-136dBWで、GPS L1 C/Aの最大100倍に達する。建物や樹木で減衰した後も受信機が信号を追いやすく、妨害電波に押し切られるまでの幅も増える。しかも低軌道衛星は短時間で空を横切る。ドップラー変化と測距の幾何が速く変わるため、反射波を直接波から分け、測位解を早く収束させやすい。
この発想には前例がある。Johns Hopkins大学Applied Physics Laboratoryが1958年に考案し、1964年に本格運用へ入ったTransitは、低軌道衛星のドップラー変化から潜水艦の位置を求めた最初の衛星航法システムだった。GPSは中軌道へ上がり、少数の衛星を同時に測距して連続的に位置と時刻を出した。現在のLEO-PNTはTransitの軌道とドップラーを取り戻し、ソフトウェア定義の信号、衛星間測距、既存GNSSとの併用を加えようとしている。
ただし、速く動く衛星を数百機運用するには、各機の軌道と時計をリアルタイムで高精度にそろえる必要がある。Xonaは機上推定と衛星間測距でこの計算を宇宙側へ移す設計を掲げる。低軌道は信号を強くする近道である一方、コンステレーション全体の製造、補充、同期を難しくする。
1.5cmは位置精度ではなく、単一衛星の測距結果
Pulsar-0の1年間の実績として、Xonaは4大陸で350回を超す送信パス、22TBの観測データ、12社を超す受信機メーカーによる追跡を挙げる。軌道上ソフトウェアも4回大きく更新した。同社によると、その更新で単一衛星までの測距誤差は4.2cmから1.5cmへ縮んだ。
ここで1.5cmを利用者の位置精度と読み替えてはいけない。Xonaの研究者がInstitute of Navigationで発表した単一衛星測位の初期試験は、屋外と屋内でメートル級の位置精度を報告している。2cmの水平精度と4cmの垂直精度、10ns未満の時刻精度は、全衛星がそろった後の開空間で期待する仕様だ。現在の1機で確認した測距品質と、将来の多衛星測位を分けて評価する必要がある。
妨害耐性にも同じ注意が要る。Xonaは複数国の実地試験で、最大100倍強い信号や誤り訂正により、妨害装置がGPSを使えなくする面積を最大95%縮めたと報告した。これは妨害を無効化するという意味ではない。妨害源が近い、送信電力が大きい、受信アンテナが不利といった条件ではPulsarも影響を受ける。価値は、既存の妨害装置で遮断できる距離を短くし、GPSと同時に失われにくい経路を増やすことにある。
衛星より先に、受信機を動かす
2026年7月9日に始まったPulsar Verifiedには、TrimbleとSeptentrioが加わった。半導体・機器側ではSTMicroelectronicsとSafran、試験・受信機側ではStarNavとKeysightが最初の参加企業に名を連ねる。XonaはGPSのL1/L5に隣接するX1/X5信号を採用し、多くの既存受信機はファームウェアやソフトウェアの更新で対応できるとしている。実際、Pulsar-0の信号は12社を超すメーカーの受信機で追跡された。
それでも認証プログラムが必要なのは、互換性が一律ではないからだ。アンテナと無線フロントエンドが周波数を通せても、受信機は大きなドップラー変化を追い、独自の航法メッセージを解読しなければならない。Xonaが参加した互換性研究は、試験した商用受信機でGPSやGalileoへの有害な干渉を確認しなかったと報告するが、あらゆる機器や運用条件を保証する結果ではない。Pulsar Verifiedは、衛星側の仕様を実際の製品へ落とす工程になる。
信号認証も受信機の更新を前提とする。Xonaの研究では、X1信号を構成する1,023チップのうち21チップを暗号学的に反転する透かしを使い、2025年7月7日の軌道上送信を記録した150秒のデータで擬似距離を認証した。設計上の強度は少なくとも32ビットで、全衛星運用時には二周波受信機で4秒の認証を目標にする。ただし、暗号は信号を遅延させる攻撃を防げない。強い電波、信号認証、GPSとの併用を重ねて初めて、攻撃側の選択肢を狭められる。
GPSの代替より、多層化を競う
Xonaのほか、欧州宇宙機関(ESA)も低軌道測位を試している。ESAは2026年3月28日にCelesteの最初の2機を打ち上げ、4月8日に欧州初のLEO航法信号を受信した。高度500〜600kmで動く11機の実証群を構築し、2027年から大型8機と小型原子時計を載せる1機を追加する。LとSに加えてCおよびUHFの各周波数を使い、衛星内の時計同期とGalileoとの多層運用を試す計画だ。
需要を押すのは測位精度より、止まらない時刻と位置である。EASAとEUROCONTROLは2026年3月、紛争地域周辺でGNSS干渉が日常化し、影響が遠方へ及ぶことを前提に航空向け行動計画をまとめた。だが米運輸省がGPSバックアップ技術の実証後に出した結論は、単一方式で測位と航法を普遍的に代替できないというものだった。地上無線や光ファイバー時刻に慣性センサーを組み合わせ、複数の衛星信号も使う方が障害原因を分散できる。
Pulsarの成否は、無料で世界を覆うGPSへ、有料の強いLEO信号を現実的に重ねられるかで決まる。2026年後半の打ち上げ後、4機同時可視の地域がどの速度で広がるか、第三者の実地試験で精度と妨害耐性が再現されるか、Pulsar Verified対応機が量産製品へ入るか。この3点がそろえば、低軌道測位は歴史の再演を越え、測位インフラの新しい層になる。



