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中国国内で「DeepSeek」の採用が急拡大:自動車・スマホから病院まで全産業に浸透

2025年3月17日

中国で2024年1月に登場した国産AI「DeepSeek」が、わずか数ヶ月で自動車、スマートフォン、家電、医療、政府機関など国内の主要産業に急速に普及している。西側製品と同等性能でありながら低コストを実現したDeepSeekは、中国企業が愛国心の表れとしても競って採用を進めている最新技術だ。

DeepSeekとは:西側AIと互角の性能を持つ中国の新星

DeepSeekが提供する推論特化型AI「R1」と大規模言語モデル(大量のテキストデータから学習した自然言語処理モデル)「V3」は、欧米の競合製品と同等のパフォーマンスを、はるかに低いコストで実現していると同社は主張している。

「中国政府、企業、投資家は、中国のAI戦略はモデルを巨大化して性能を向上させることよりも、むしろAIアプリケーション—つまりAIの上に構築されたサービス開発にあるという共通認識を持っている」と北京の研究機関Gavekal Dragonomicsのテクノロジーアナリスト、Tilly Zhang氏はRest of Worldに語った。

Zhang氏によれば、「中国は現在、米国企業と『誰が既存のAIモデルをより効果的に活用できるか』という点で競争している」という。この戦略的違いが、DeepSeekの急速な普及の背景にある。

産業別:DeepSeek導入の最前線

自動車産業:20以上のメーカーが次世代車に搭載へ

現地メディアの報道によると、20を超える中国の自動車ブランドがDeepSeekモデルの採用を発表している。主な用途は、音声制御の精度向上、高精度マッピング、音楽・ウェブ検索・メッセージングなどのサービスへのアクセス改善だ。

中国の自動車販売台数第2位の吉利汽車は、DeepSeek搭載により曖昧な指示も理解できる車を実現したと主張している。同社が公開したプロモーション動画では、ドライバーが単に「少し疲れた」と言うだけで、AIが窓を閉め、シートを125度に調整し、照明を暗くして35分後にアラームをセットするなど、休憩に最適な環境を自動構築する様子が紹介されている。

AI業界ニュースレター「AI Proem」創設者のGrace Shao氏は、「中国のEV市場リーダー企業は、リチウム電池やロボティクスなどEV製造チェーン全体ですでに競争優位性を確立している。ここにDeepSeekが加わったことで、サプライチェーン全体の要素が揃い、グローバル市場での優位性がさらに強化される」と分析している。

スマートフォン:中国トップ5メーカーが一斉に機能強化

中国の上位5社のスマートフォンメーカーすべてが、最新のシステムアップデートでDeepSeekを採用した。

華為技術(Huawei)は、米Appleの「Siri」に相当する音声アシスタント「Xiaoyi(シャオイー)」をR1モデルで強化。新バージョンでは、ユーザーが「自動深層思考モード」または「迅速回答モード」を選択できる機能が実装された。Oppo、Honor、Vivo、Xiaomiなどの他の大手メーカーも、テキスト生成、ビデオ作成、Web検索などの機能にDeepSeekを組み込んでいる。

Huawei "Xiaoyi" and "DeepSeek" is here!(works on mobile format of web browser, Huawei browser)

Oppoの最高製品責任者Liu Zuohu氏は上海メディア「Guancha」のインタビューで、「AIの普及には2年以上かかると予想していたが、DeepSeekのおかげで今や誰もがAIに関心を持っている。これは我々の製品展開にとって非常に追い風だ」と語った。

家電:AIと会話できるスマート家電の新時代

中国最大の家電メーカー美的集団(Midea)は、DeepSeek搭載のエアコンシリーズを市場投入。同社の製品紹介によれば、これらは「ユーザーの考えを正確に捉える理解ある友人」として機能するという。

実際の使用例として、ユーザーが「寒く感じる」と発言するだけで温度や湿度を自動調整する機能や、DeepSeek搭載の音声システムを使った日常会話機能が実装されている。同社はまた、同様の技術を活用した掃除機冷蔵庫なども展開している。

「DeepSeekは中国の家電メーカーが音声インターフェースを改善し、ユーザーの意図をより正確に理解できるよう支援しているが、現時点でのAIデバイスの多くはまだ完全に効率的とは言えない」とZhang氏は指摘する。「DeepSeekという知名度の高いブランドを採用することで、企業が将来的にAI機能を改善する間も、消費者の関心を維持できる戦略的メリットがある」と分析している。

医療:全国約100病院が導入を発表、一方で懸念も

北京のメディア「Economic Observer News」によると、中国全土でほぼ100の病院がDeepSeekの採用を発表している。主な用途は、診断・治療プロセスの支援、医療画像分析、カルテなどの医療記録の品質管理、新薬研究など多岐にわたる。

しかし、この急速な医療分野への普及には警戒の声も上がっている。中国南部の湖南省保健当局は、2024年2月、病院のDeepSeek導入計画発表を受けて「AIによる処方箋生成」に対する警告を発した。2022年に国家衛生健康委員会が患者診断における「AI代替」を禁止し、すべての処方箋は臨床専門家の承認が必要と規定している点を改めて強調したものだ。

政府機関:自治体の行政効率を大幅改善

DeepSeekは中国の政府機関の各レベルでも採用が進んでいる。

経済紙「Caixin」の報道によると、テクノロジー先進都市として知られる深セン市は、政府の内部システムにDeepSeekを導入した先駆的自治体の一つだ。深セン市の龍崗区は、2万人の政府職員が利用するシステムにDeepSeekを導入した結果、「効率性の劇的な向上」を達成したと報告している。

具体的成果として、DeepSeekが作成した公文書の精度は95%に達し、行政承認プロセスの処理時間は90%短縮されたという数字が示されている。また、武漢市では、夜間に迷子になった5頭の馬の所有者を特定するためにDeepSeekが活用され、チャットボットが提案した近隣の馬牧場を警察が訪問することで迅速に解決した事例も報じられている

北京のシンクタンク「Anbound」のアナリスト、Chen Li氏は「中国の政府機関がDeepSeekを採用する動きは、単なる業務効率化だけでなく、国家のAI戦略への支持を示す政治的シグナルでもある」と分析する。「中国政府はAIを将来の国家発展の戦略的要素と位置づけており、この分野でのグローバルリーダーシップ確立を目指している。政府機関や部署がAIを採用するよう推進することは、この大きな目標達成のための自然なステップだ」とChen氏は説明している。

DeepSeek急拡大の背景と展望:国家戦略とテクノロジー競争

DeepSeekの驚異的な普及速度の背景には、純粋な技術的性能に加え、米中テクノロジー覇権競争という地政学的要素も大きく影響している。北京は人工知能の発展を経済成長の重要な推進力であり、グローバルな技術競争における戦略的柱と位置づけている。

AI業界専門家のGrace Shao氏によれば、「中国はすでにEV製造チェーン、リチウム電池生産、ロボティクスなどの分野で競争力を持っている。国産AIモデルのDeepSeekがこれに加わることで、中国企業はグローバル市場での競争優位性をさらに高めることができる」という。

一方で、一部の当局者からはDeepSeekへの過度の依存に対する警告も出ている。特に医療分野では、2022年の国家衛生健康委員会による規制を踏まえ、AIによる診断や処方の制限が明確化されるなど、安全性への配慮も示されている。

しかし、全体としては中国企業の「DeepSeekフィーバー」に衰えの兆しはなく、今後も自動運転車、スマートシティ、製造業など、中国が国際競争力を高めたい戦略的産業での活用がさらに加速する見通しだ。

DeepSeekの爆発的普及は、中国のAI戦略が「基盤モデル開発」から「実用的アプリケーション展開」へと重点をシフトさせていることを如実に示しており、この傾向は今後も強まると予想される。


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