サーバー向けプロセッサ開発スタートアップAmpere Computingが、自社の売却を検討していることが明らかになった。複数の情報筋によると、同社は数ヶ月前から財務アドバイザーを起用し、潜在的な買収先の模索を開始したという。
この動きは、急成長を遂げてきたAmpereが新たな局面を迎えつつあることを示唆する物だ。2017年の設立以来、Arm設計のサーバーチップ開発で注目を集め、クラウド市場の主要プレイヤーを顧客として獲得してきた同社だが、業界の変化に対応するため、戦略の見直しを迫られている可能性がある。
Ampereの売却検討の背景と潜在的な買収候補
Bloombergの報道によると、Ampereは「業界大手」からの買収オファーを期待しているという。具体的な候補は明らかにされていないが、半導体業界の他の企業か、あるいは独自のプロセッサ設計を行う大手テクノロジー企業が想定される。
売却検討の背景には、急速に変化するサーバーチップ市場での競争激化があると考えられる。Ampereの主要顧客であるOracle、Microsoft、Googleなどのクラウドプロバイダーの多くが、自社設計のArmベースチップ開発に乗り出しており、Ampereにとっては協力関係にありながら競合でもあるという複雑な状況が生まれている。
一方で、Ampereの技術力と市場での地位は依然として高く評価されている。2021年にはSoftBankグループが同社への出資を検討し、その際の企業価値は81億ドル(約1兆2000億円)と報じられた。また、2022年にはIPO(新規株式公開)に向けた準備も進められていた。
Ampereの技術力と市場での位置づけ
Ampereは、Armの命令セットアーキテクチャを基盤としたサーバープロセッサを開発している。当初はArmのNeoverse設計をベースにしていたが、2022年に発表されたAmpereOneシリーズでは、独自設計のCPUコアを採用しつつ、Arm命令セットを使用する新たなアプローチを取っている。
同社の最新プロセッサは、192個のカスタムコアを搭載し、一部の状況下ではAMDの同等チップを上回る性能を発揮するという。さらに、128のPCIeレーンを備え、最大32個のグラフィックスカードやフラッシュストレージシステムを接続可能な柔軟性も特徴だ。加えて、内蔵の暗号化機能によりサーバーのメモリをハッキング攻撃から保護する機能も備えている。
Ampereの顧客基盤は着実に拡大している。2020年にはOracleが同社のチップを採用したインスタンスを導入し、2022年にはMicrosoftとGoogleも続いた。2023年8月には、Googleが最新のAmpereOneプロセッサシリーズを採用した最初のクラウドプロバイダーとなり、Ampereの技術力が大手クラウド事業者から高く評価されていることを示した。
Ampereの将来は
Ampereは、AIワークロード向けに最適化された回路を搭載する次世代チップ「Aurora」の開発を進めている。2023年7月にプレビューされたこのチップは、512個のCPUコアとHBMメモリを搭載し、AIハードウェア需要の拡大を見込んだ戦略的な製品となる可能性がある。さらに、チップ内の様々な回路間でデータを移動させるための新しいインターコネクトも実装される予定だ。
しかし、業界の競争激化や顧客でもある大手クラウドプロバイダーの自社チップ開発の動きは、Ampereにとって大きな課題となっている。特に、TencentやByteDance(TikTok親会社)といった企業向けにチップを設計する一方で、これらの顧客自身も独自のArmベースチップを開発しているという状況は、Ampereのビジネスモデルに大きな影響を与える可能性がある。
売却の検討は、こうした市場環境の変化に対応するための選択肢の一つと見られる。ただし、Bloombergの情報筋によれば、Ampereは独立を維持する可能性も残されているという。また、近い将来ではないものの、株式公開の選択肢も完全に排除されているわけではない。2022年に非公開でIPO(新規株式公開)の準備を進めていたことを考えると、状況次第では再び株式市場への道を模索する可能性もあるだろう。
Xenospectrum’s Take
Ampereの売却検討は、サーバーチップ市場の急速な変化と、Arm設計の台頭を象徴する出来事だと言えるだろう。同社の技術力は高く評価されているものの、主要顧客である大手クラウドプロバイダーが自社チップ開発に乗り出す中で、ビジネスモデルの再構築を迫られている。
次世代チップ「Aurora」の開発は、AIブームを背景とした需要拡大を見込んだ戦略的な動きと見られる。しかし、AIチップ市場では既にNVIDIAが強固な地位を築いており、Ampereがどこまで食い込めるかは未知数だ。
売却という選択肢は、Ampereの技術を大手企業のリソースと組み合わせることで、より大きな市場シェアを獲得する可能性を秘めている物であり、最も安全で確率の高そうな道だ。
いずれにせよ、Ampereの動向は、サーバーチップ市場全体に大きな影響を与える可能性がある。Arm設計の普及と、クラウド事業者の自社チップ開発という流れの中で、専業チップメーカーがどのように生き残りを図るのか。Ampereの選択は、業界全体の今後を占う重要な指標となるだろう。
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