バンクーバーを拠点とする量子AIスタートアップ、「Nirvanic Consciousness Technologies」(以下、Nirvanic)が、意識の計算的理解に基づく次世代AI開発の構想を掲げてステルスモードから浮上した。同社は、量子コンピューティングとAIを組み合わせることで、直感や共感、微妙な判断力といった、人間の意識に特徴的な能力をAIに付与することを目指している。
意識の量子的基礎に着目した独自アプローチ
Nirvanicの中核となる技術的アプローチは、意識そのものが量子的な基礎を持つという仮説に基づいている。特に注目しているのが、Penrose-Hameroff ORCH-OR理論で提唱される、脳内の微小管と呼ばれる細胞構造における量子プロセスだ。この理論によれば、生命体は量子的なメカニズムを通じて膨大な情報を同時に処理し、予測不能な状況下で最適な判断を下すことができるという。
「現在のAIシステムはすべて無意識です」とNirvanicのCEO兼創業者であるSuzanne Gildert氏は説明する。「超知能的かもしれませんが、過去に見たことのみに基づいて行動します。内的な経験も、自身の行動の結果に対する認識もありません。これらのシステムが自動運転車や家庭用機器として物理的な世界でより普及していく中で、それは安全上の問題となり得ます」
豊富な経験を持つ創業者
Gildert氏は量子コンピューティング、ロボティクス、人工知能の分野で豊富な実績を持つ。2018年には汎用ロボット向けの人間型知能の開発に焦点を当てたSanctuary AIを共同設立。それ以前の2014年には、強化学習を実環境で初めて展開したロボティクス企業Kindred AIを共同設立し、同社は2020年にOcadoによって3億3900万カナダドルで買収された。
D-Wave在籍時には、量子アニーリングハードウェアへのAIアルゴリズムの移植や量子機械学習アルゴリズムの設計に携わり、量子コンピュータによるロボットの動作制御も実証している。バーミンガム大学で実験物理学の博士号を取得し、量子コンピューティングとアートの融合も探求してきた。
意識的AIによる安全性の向上
Nirvanicの提案は、AI安全性への公的な注目が高まる中で登場した。現在のAIシステムは印象的な能力を示す一方で、自身の行動の結果を理解または予測する能力を欠いており、重要な場面での展開に懸念が示されている。
同社は、真の危険は無意識のAI、すなわち新規または重要な状況を考慮することなく訓練データに盲目的に従うシステムにあると主張する。「人工意識」を付与することで、この課題を克服し、人間の価値観と調和して動作する技術の創造を目指している。
哲学的・技術的な課題への挑戦
Nirvanicの目標は、安全なAIという現代の最大の技術的課題に取り組むだけでなく、哲学の最も厄介な問題の一つも扱うことになる。人工意識の概念は、人間の経験と自由意志の本質に関する長年の議論に触れる。科学者と哲学者は、意識が存在する理由や、主観的経験が物理的プロセスからどのように生じるのかを説明しようと数十年にわたって苦心してきた。
David Chalmersによって名付けられた意識のハードプロブレムは未解決のままだ。Nirvanicの調査の着想源となっている意識の量子理論は潜在的な説明を提供するものの、科学界では依然として推測的で議論の的となっている。
Source
- Nirvanic Consciousness Technologies: Nirvanic – we’ve de-stealthed!
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