パリを拠点とする量子コンピュータスタートアップのAlice & Bobは、Series B資金調達ラウンドにおいて1億ユーロ(約162億円)の資金調達を完了したと発表した。本ラウンドは、Future French Champions(FFC)、AXA Venture Partners(AVP)、Bpifranceが共同でリードした。同社は、独自開発した猫量子ビット(cat qubit)技術を用いて、2030年までに世界初の実用的な量子コンピュータの実現を目指している。
画期的な猫量子ビット技術で量子コンピュータの実用化に挑む
量子コンピュータの実現を目指す企業は数多く存在するが、Alice & Bobが開発する猫量子ビット(cat qubit)は、その独創的なアプローチで注目を集めている。この技術名は、量子力学の基本的な概念を説明する思考実験として知られる「シュレーディンガーの猫」にちなんで名付けられた。
従来の量子コンピュータが直面する最大の課題は、量子ビット(キュービット)の脆弱性にある。地球の磁場のわずかな変化や、床に落ちたピンの振動のような極めて微細な環境変化でさえ、量子ビットの状態を崩壊させてしまう。この現象は「デコヒーレンス」と呼ばれ、量子コンピュータの実用化における最大の障壁となってきた。
Alice & Bobが開発した猫量子ビットは、この問題に対して革新的なアプローチを採用している。同社のCEOであるThéau Peronnin氏によれば、猫量子ビットは量子情報を複数の粒子にまたがって保存することで、環境からの外乱に対する耐性を高めている。特筆すべきは、量子コンピュータを悩ませる二大エラーの一つである「ビットフリップエラー」を、ハードウェアレベルで抑制できる点だ。
この技術的革新がもたらす最大の利点は、実用的な量子コンピュータの実現に必要な量子ビット数を劇的に削減できることにある。従来のアプローチでは数百万個の量子ビット数が必要とされていたが、猫量子ビット数技術を用いることで数千個程度まで削減できる可能性が開かれた。これは、量子コンピュータのスケーリングにおける根本的な課題の解決につながるブレークスルーとして評価されている。
Alice & Bobの独自性は、2020年の創業以来、一貫して猫量子ビット開発に特化してきた点にある。同社の最近発表されたホワイトペーパーとロードマップによれば、エラー耐性を持つ実用的な量子コンピュータの実現に向けて、より効率的なアーキテクチャの構築を進めている。
業界専門家たちは、この技術的アプローチを高く評価している。AVPのマネージングパートナーであるFrançois Robinet氏は、「量子コンピューティングは純粋な研究開発段階を脱し、産業フェーズに移行しつつある」と述べており、猫量子ビット技術がその転換点となる可能性を示唆している。
さらに、コンステレーション・リサーチのアナリスト、Holger Mueller氏は、この技術革新が量子コンピューティングの実用化を加速する可能性があると指摘する。特に欧州の企業が量子コンピューティング開発の最前線に位置していることは、イノベーションの多様性と地域間競争という観点から、業界全体にとって好ましい展開だと評価している。
開発加速へ向けた資金活用と市場の期待
調達資金の約半分は、最先端の研究施設および生産施設の建設に充てられる。残りは、システムの性能向上、エラー訂正の改善、そして初のエラー訂正論理量子ビットの作成に投資される。また、過去1年で倍増した従業員数のさらなる拡大も計画している。
AVPのマネージングパートナーであるFrançois Robinet氏は、「私たちはAVPで長年量子コンピューティング分野を注視してきました。今や量子コンピューティングは純粋なR&D段階を脱し、Alice & Bobの技術によって『産業』フェーズに移行しつつあります」とコメントしている。
投資家たちの高い期待を反映し、Series Aに参加したElaia Partners、Breega、Supernova Invest、Bpifranceすべてが今回のラウンドにも参加。新規投資家としてFFC、AVP、European Innovation Council(EIC)が加わった。同社の企業価値は3億から4億ドル規模と推定されている。
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