フランスの量子コンピューティングスタートアップAlice & Bobは、同社初となる猫量子ビット(cat qubit)チップ「Boson 4」をGoogle Cloud Marketplaceで提供開始したと発表した。この画期的な取り組みにより、これまで研究室レベルに限られていた耐障害性量子コンピューティング技術が、世界中の研究者や開発者に解放されることとなる。約3300万ドルの資金を調達している同社は、この技術を通じて量子コンピューティングの実用化を大きく前進させることを目指している。
革新的な耐エラー設計がもたらすブレークスルー
Boson 4チップの中核を成す猫量子ビットは、量子力学の基本的な思考実験として知られる「シュレーディンガーの猫」にちなんで名付けられた革新的な技術だ。従来の量子ビットは、0、1、またはその重ね合わせ状態を取ることができるものの、外部環境からの微細な擾乱によって容易に状態が崩壊してしまう「デコヒーレンス」という現象に悩まされてきた。
Alice & Bobが開発した猫量子ビットは、量子情報を複数の粒子に分散して格納する独自の設計により、この問題に対する解決策を提供する。特筆すべきは、ビット反転エラーに対する驚異的な耐性である。通常の超伝導量子ビットでは、最良の場合でも1秒間に数十回発生するビット反転エラーを、Boson 4では7分以上にわたって抑制することに成功した。これは既存技術と比較して4桁という劇的な性能向上を実現したことを意味する。
さらに、この技術はエラー訂正に必要な量子ビット数を大幅に削減できる可能性を秘めている。フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)との共同研究によれば、従来手法と比較して最大で200分の1まで量子ビット数を削減できる可能性があるという。これは、実用的な量子コンピュータの実現に向けた重要なブレークスルーとなる可能性がある。
クラウドプラットフォームを通じた技術革新の加速
Google Cloud Marketplaceでの提供開始は、量子コンピューティング分野における重要な転換点となる。これまで限られた研究機関でのみ可能だった猫量子ビットの実験が、クラウドプラットフォームを通じて世界中の研究者に開放されることで、技術検証と改良のサイクルが大幅に加速されることが期待される。
Googleのエンジニアリング担当VP、Hartmut Nevenは「量子情報を破壊する2種類のエラーの1つから保護することは、堅牢な量子コンピュータを実現する有望な道筋である」と、この技術の可能性を高く評価している。また、Alice & BobのCEO、Théau Peronninは「創業当初、多くの人々は猫量子ビットが実験室の概念以上のものになることはないと考えていた」と述べ、技術の実用化に至った道のりを振り返っている。
同社は今後、位相反転エラーへの対応と複数量子ビット間の相互作用の実現に注力する。具体的には、量子エラーを検出するための「Hydrogen」チップと、位相反転を除去するための16量子ビット「Helium」チップの開発を進めている。これらの次世代チップの成功が、実用的な量子コンピュータの実現への重要なステップとなることが期待される。
Source
コメント