Amazonが配送ドライバー向けの新型スマートグラスを開発中であることがReutersの取材で明らかになった。社内では「Amelia」と呼ばれるこのプロジェクトは、配送の「ラストマイル」、特に建物内での配送効率化を目指している。同社のこの取り組みは、激化するeコマース競争の中で配送コストの削減を図る重要な一手となる可能性がある。
開発プロジェクトの詳細
Amazonが開発中のスマートグラスは、既存のEcho Framesをベースに、レンズの一部に小型ディスプレイを組み込む設計となっている。このディスプレイを通じて、ドライバーはターンバイターン方式のナビゲーション情報を受け取ることが可能になる。エレベーターの出入り口や障害物、敷地内の経路など、従来のGPSナビゲーションでは対応が難しかった「最後の100ヤード」における詳細な誘導を実現する。
さらに、配達完了時の写真撮影機能やAlexa音声コマンド対応も計画されている。これにより、ドライバーは手持ちのGPSデバイスから解放され、より多くのパッケージを運搬することが可能になる。また、音声コマンドによる操作は、配送作業の安全性向上にも寄与すると期待されている。
開発の主な目的は、配送コストの大幅な削減だ。Amazonの第3四半期の配送コストは235億ドルと前年比8%増を記録しており、効率化は喫緊の課題となっている。特に「ラストマイル」は、配送全体のコストの約50%を占めるとされ、その最適化は収益性向上の鍵となる。このARグラスの導入により、1回あたりの配送時間を数秒短縮できれば、日量数百万個に及ぶ配送業務全体で大きなコスト削減効果が期待できる。
技術的課題と実用化への道のり
プロジェクトの実現には、複数の重要な技術的ハードルが存在する。最大の課題は、8時間のシフトを通して稼働可能なバッテリーの開発だ。軽量性を保ちながら長時間駆動を実現する必要があり、現時点では解決策が見出せていない。また、建物内の詳細なマッピングデータの収集には数年を要する可能性が指摘されており、特に集合住宅や商業施設内の複雑な経路情報の整備が課題となっている。
実用面での課題も山積している。1シフトで100件以上の配送をこなすドライバーにとって、長時間の装着による疲労は無視できない問題だ。また、矯正眼鏡使用者への対応や、悪天候時の視認性確保なども検討が必要とされる。ただし、Amazonの配送業務の多くは外部委託であり、契約要件として使用を義務付けることも可能とされている。
さらに、消費者向けEcho Framesの販売実績が芳しくないという懸念材料もある。関係者によると、最新世代の販売台数は1万台を下回っているとされ(Amazon広報は否定)、ARデバイスの市場受容性に疑問符が付く。一方で、業務用途に特化した本プロジェクトは、より明確なROIが見込めるとの見方もある。
Xenospectrum’s Take
このプロジェクトは、単なる配送効率化の試みを超えて、Amazonの長期的な戦略を示唆している。Walmartとのeコマース競争が激化する中、配送コストの最適化は収益性維持の生命線となっている。しかし、皮肉なことに消費者向けEcho Framesの売上が振るわない中での新規開発は、相当なリスクを伴う賭けともいえる。
また、昨年10月に発表された配送バン用パッケージスキャナー「VAPR」と併せて考えると、Amazonは着実に独自の配送テクノロジーエコシステムを構築しつつある。この動きは、UPSやFedExへの依存度低減という同社の長年の目標にも合致する。ただし、2026年第2四半期に予定される消費者向けEcho Framesへの技術転用が示唆されているものの、現時点での技術的課題を考えると、この時期は楽観的に過ぎるかもしれない。
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