Amazonが、小型モジュール炉(SMR)開発のスタートアップX-Energyに5億ドルの大型投資を行うことを発表した。この動きは、AIブームによって急増するデータセンターの電力需要に対応するため、同様に小型モジュール炉への投資を発表したばかりのGoogleに続く物であり、これからのエネルギー供給のトレンドがまさに原子力発電に傾きつつあることを象徴するものとして注目を集めている。
クラウド大手が原子力発電に本腰、AIブームで急増するデータセンター電力需要への対策
Amazonのクラウドコンピューティング部門であるAmazon Web Services(AWS)のCEO、Matt Garman氏は次のように述べている。「原子力は安全でカーボンフリーなエネルギー源であり、我々の事業運営に電力を供給し、顧客の増大する需要に応えると同時に、2040年までに事業運営全体でネットゼロカーボンを達成するというClimate Pledgeへのコミットメントに向けた進展を支援することができます」。
この投資は、Amazonが再生可能エネルギーへの取り組みを加速させる中で行われたものだ。同社は当初2030年までに達成を目指していた、グローバル事業で消費する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うという目標を、7年前倒しで達成したと発表している。しかし、事業と顧客のエネルギーニーズが継続的に増大する中、Amazonはさらなるカーボンフリーエネルギー源の確保に乗り出した形だ。
X-Energyへの投資は、同社のSMR技術の開発を加速させ、2039年までに米国内で5ギガワット以上のSMRを稼働させるという野心的な目標の達成を支援するものとなる。この動きは、従来の大型原子炉建設に伴う時間とコストの問題を回避しつつ、急速に拡大するデータセンターの電力需要に対応するAmazonの戦略を如実に示している。
X-Energyの革新的な小型モジュール炉技術
X-Energyが開発中のXe-100原子炉は、従来の原子炉とは一線を画す革新的な設計を特徴としている。各ユニットは80メガワットの電力を生成し、4基で320メガワットの発電所を構成する。この設計は、需要に応じて柔軟にスケールアップが可能な点が大きな利点だ。
Xe-100の核心技術は、TRISOと呼ばれる革新的な燃料システムにある。TRISOは、ウラン燃料と黒鉛減速材を含む小さな自己完結型の燃料ペレットで、セラミックシェルに覆われている。この構造により、ウラン量が限定され、セラミックを損傷する温度に達することがないため、核燃料の封じ込めが常に保たれる仕組みだ。
この設計は高温での運転を可能とし、ヘリウムガスを用いて炉心から熱を抽出する。ヘリウムは水を沸騰させ、タービンを回して発電する。X-Energyのこの技術は、固有の安全性を持つとされ、電源喪失や制御不能な状況下でもメルトダウンや格納容器の損傷を引き起こすほどの熱を生成しない設計となっている。
しかし、X-Energyの技術はまだ実証段階にあり、米原子力規制委員会(NRC)の承認も得ていない。Amazonの投資は、この革新的な技術の実用化と規制承認プロセスの加速を目指すものだ。
Amazonの具体的な原子力発電計画
Amazonの原子力発電への取り組みは、X-Energyへの投資にとどまらない。同社は既存の原子力発電所を有する電力会社とも提携し、SMRの導入を計画している。
ワシントン州では、公営電力会社のコンソーシアムであるEnergy Northwestと提携し、コロンビア発電所に4基のSMRを建設する計画を進めている。この計画の第一段階では320メガワットの発電能力を持つ予定だが、最終的には960メガワットまで拡張可能とされており、これは約77万世帯の電力需要を賄える規模だ。
バージニア州では、Dominion Energyと提携し、同社のノースアンナ原子力発電所の近くに少なくとも300メガワットのSMRプロジェクトを開発する計画を探っている。Dominionは今後15年間で同地域の電力需要が85%増加すると予測しており、このプロジェクトはその需要増に対応するものとなる。
さらに、Amazonはペンシルベニア州のTalen Energyの原子力施設の隣にデータセンター施設を共同設置する契約も締結している。これにより、既存の原子炉から直接カーボンフリーエネルギーを調達し、データセンターに供給する計画だ。
これらのプロジェクトは、Amazonが将来的なエネルギー需要に備えつつ、持続可能性目標の達成と地域社会の支援を同時に実現しようとする総合的な戦略の一環と言える。同社は、これらの取り組みが2030年代初頭には電力供給を開始できると期待している。
Amazonの動きは、テック業界全体で高まる原子力発電への関心を反映した物と言えるだろう。その背景には、AIブームによって急増するデータセンターの電力需要がある。
Microsoft社も今年初め、データセンター向けSMR開発を監督する原子力技術担当ディレクターを雇用した。さらに、Sam Altman氏が支援する核融合エネルギー企業Helionとの間で、2028年頃から電力供給を受ける契約を締結している。
一方、Google社も最近、Kairos Power社のSMR技術から電力を購入する契約を発表した。ただし、Kairosの商用原子炉が稼働するのは早くても2035年頃と予想されている。
Oracle社もSMRへの関心を示しており、1ギガワット以上のAI計算能力を持つデータセンターに電力を供給する3基のSMR建設許可を取得したと発表している。
これらの動きは、テック大手各社が再生可能エネルギーだけでは急増する電力需要に対応できないと判断し始めていることを物語る物であり、各社が早期に対応を始めていることを示唆する物だ。再生可能エネルギーは最も安価な電力源ではあるものの、その間欠的な性質はデータセンターの24時間365日の需要には必ずしもマッチしない。また、送電網の整備が追いついていないことも、再生可能エネルギーの大規模導入を難しくしている要因だ。
こうした状況下で、SMRは既存の原子力発電所のインフラを活用でき、かつ柔軟なスケーリングが可能な選択肢として注目を集めている。しかし、その実用化には技術的・規制的な課題が山積しており、テック企業各社の取り組みが成功するかどうかは未だ不透明な状況だ。
小型モジュール炉の課題と展望
小型モジュール炉(SMR)は、テック業界から注目を集める一方で、その実用化には依然として多くの課題が残されている。
最大の課題は、規制面のハードルだ。原子力発電に対する社会的なスティグマ、メルトダウンや放射性物質の漏洩、核廃棄物の問題など、SMRを推進する企業は多くの規制上の障壁を乗り越える必要がある。X-EnergyのXe-100原子炉も、まだ米原子力規制委員会(NRC)の承認を得ていない状況だ。
経済性の問題も大きな課題となっている。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は2023年5月の報告書で、SMRは「あまりに高価で、建設に時間がかかりすぎ、リスクが高すぎる」と結論づけている。実際、NuScale社のユタ州でのSMRプロジェクトは、コスト増大により複数の自治体が撤退し、計画が頓挫した。
さらに、開発と建設にかかる時間も課題だ。GoogleのKairos Power社との契約でも、商用原子炉の稼働は早くても2035年頃と予想されている。これは、急速に拡大するデータセンターの電力需要に対して、タイムリーな解決策とはなり得ない可能性がある。
しかし、こうした課題にもかかわらず、Amazonをはじめとするテック企業がSMRに投資を行う背景には、他に有効な選択肢がないという現実がある。大型の従来型原子炉は、建設に膨大な時間とコストがかかり、経済的に正当化することが困難だ。一方、再生可能エネルギーは、その間欠性と送電網の制約から、データセンターの安定的な電力供給には適していない。
このような状況下で、SMRは「悪い選択肢の中で最も悪くない選択肢」として位置付けられている。Amazon年間粗利益が2,500億ドルを超える中、同社にとってはリスクを取る価値のある投資と判断されたようだ。
SMRの実用化には依然として高いハードルが存在するが、テック業界の巨人たちの参入により、技術開発と規制対応が加速する可能性もある。今後、SMRが実際にデータセンターの電力供給に貢献するか、そしてそれが経済的に成立するかが、業界全体から注目されることになるだろう。
Source
コメント