AMDが、次世代GPUの開発戦略を大きく転換する。同社は、Tom’s Hardwareとのインタビューの中で、これまでのハイエンド市場での競争から一時的に撤退し、メインストリーム市場に注力する方針を明らかにした。この決定は、グラフィックス市場でのシェア拡大を最優先にするという同社の新たな戦略的アプローチを示唆する物と言えるだろう。
市場シェア拡大を最優先、ハイエンドからの一時撤退も
AMDのコンピューティング&グラフィックス事業部門のシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるJack Huynh氏は、Tom’s Hardwareとのインタビューで、次世代のRDNA 4アーキテクチャを採用したRadeon RX 8000シリーズGPUについて、ハイエンド市場を狙わない方針を明らかにした。
Huynh氏は次のように述べている:「私の最優先事項は、AMDのスケールを構築し、より早く40〜50%の市場シェアを獲得することです。総対象市場(TAM)の10%を追いかけるか、80%を追いかけるか?私は80%派です。なぜなら、AMDをポルシェやフェラーリを買える人だけの会社にしたくないからです。私たちは何百万人ものユーザーのためにゲーミングシステムを構築したいのです」。
この戦略転換の背景には、AMDの現在の市場シェアがわずか12%に留まっている現状がある。NVIDIAが88%の市場シェアを握る中、AMDは過去数世代にわたってハイエンド市場で競争してきたが、市場シェアの大幅な拡大には至らなかった。
Huynh氏は、過去のATIやAMD自身の「King of the Hill(頂点)戦略」が市場シェアの拡大につながらなかったことを指摘し、「正しいシステム価格帯で最高の製品を構築したい」と述べている。この新戦略では、性能対電力比や性能対価格比で優位性を持つ製品を投入し、市場シェアの拡大を図る狙いがある。
開発者サポートの強化とチップレット技術の活用
AMDの新戦略は、単に製品ラインナップの変更にとどまらない。Huynh氏は、市場シェアの拡大が開発者のサポートを獲得する上で重要だと強調している。
「現在のスケールがなければ、開発者を獲得できません。開発者に『市場シェア10%だけを狙っています』と言えば、『頑張ってね、でも私たちはNVIDIAと一緒にやらなければいけません』と言われるだけです。だから、『この戦略で40%の市場シェアを獲得できる』というプランを示す必要があるのです。そうすれば、『よし、あなたと一緒にやろう。AMDでの最適化を始めよう』と言ってくれるはずです」。
また、Huynh氏は将来的にハイエンド市場に再参入する可能性を否定していない。「いつかはやるかもしれません。しかし、現在の私の優先事項はAMDのスケールを構築することです。」と述べている。
さらに、AMDはチップレット技術を活用して、エンスージアスト向け製品も提供していく方針だ。「心配しないでください。PCサイドでエンスージアスト向けの素晴らしい戦略を持っています。ただ、まだ公表していないだけです。スケールに影響を与えることなく、チップレットを使ってエンスージアストのニーズにも応えていきます。」とHuynh氏は述べている。
この新戦略は、AMDがグラフィックス市場でより強力な競争力を獲得し、NVIDIAに対抗するための重要な一歩となる可能性がある。ただし、ハイエンド市場からの撤退が消費者にとってどのような影響を与えるか、特に競争相手の不在によるNVIDIAのフラッグシップモデルの価格設定に関しては、懸念されるところだろう。
AMDの次世代RDNA 4搭載のRadeon RX 8000シリーズは、今年後半か来年初頭にリリースされる予定だ。この新戦略がグラフィックス市場にどのような変化をもたらすか、今後の動向が注目される。
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