AMDが開発中の次世代グラフィックスカード「Radeon RX 8800」および「RX 8600」の存在が、同社のオープンソースソフトウェアプラットフォーム「ROCm」のGitHubリポジトリのアップデートによって明らかとなった。新世代のRDNA 4アーキテクチャを採用する両GPUは、2025年初頭の発売に向けて準備が進められている。
RDNA 4アーキテクチャの詳細が徐々に明らかに
AMDのオープンソースソフトウェアプラットフォームROCmのコードベース内で発見された「gfx12_rx8800」および「gfx12_rx8600」の記述は、現行のRDNA 3ベースの「gfx11_rx7900」シリーズの後継を示唆している。この新世代のアーキテクチャは、内部的に「Navi 4X」シリーズとして開発が進められており、Navi 44およびNavi 48という二種類のGPUダイを採用することが判明している。より高性能なNavi 48はRX 8800シリーズに採用され、その最上位モデルとなるRX 8800 XTでは、抜本的な性能向上が実現される見込みだ。
特に注目すべきは、長年のアキレス腱であったレイトレーシング性能の大幅な改善である。現行フラッグシップのRadeon RX 7900 XTXは、半額近い価格帯のGeForce RTX 4070と同等のレイトレーシング性能しか発揮できていないという課題を抱えていた。しかし、RX 8800 XTでは現行モデルから約45%の性能向上を達成し、RTX 4080およびRTX 4080 Superと互角の性能を実現する見通しだ。また、従来型のラスタライズ処理においても、これらのNVIDIA製品と同等の性能を発揮するとされている。
電力効率の面でも大きな進歩が見られる。電源メーカーSeasonicの電力計算ページに掲載された情報によると、RX 8800 XTのTDP(熱設計電力)は220Wに設定され、これは前世代のRX 7800 XTと比較して43Wもの削減を達成している。この電力効率の向上は、高い演算性能と低消費電力の両立を実現する重要な技術革新といえる。
さらに、AMDのコンピューティング&グラフィックスビジネスグループのシニアバイスプレジデントであるJack Huynh氏は、次世代のFSR(FidelityFX Super Resolution)についても言及している。FSR4と呼ばれる新技術では、AI基盤のアップスケーリングとフレーム生成技術が導入される予定で、これはNvidiaのDLSSに対抗する重要な機能強化として位置づけられている。これらの新機能は、特にモバイルデバイスでのエネルギー効率の向上に貢献すると期待されている。
なお、これらの新製品は2024年12月中旬から量産が開始される見込みで、2025年1月6日のCESでの正式発表に向けて着々と準備が進められている。AMDはこの新世代のGPUで、特にミッドレンジ市場での競争力強化を図るとともに、レイトレーシングやAI処理性能の向上を通じて、長年の課題であったNVIDIAとの技術格差の縮小を目指している。
市場戦略の転換を示唆する製品ラインナップ
AMDの次世代GPU戦略において、最も注目すべき転換点は最上位シリーズとなるRX 8900の不在だ。AMDのCEOであるLisa Suは2024年第3四半期の決算説明会で「RDNA 4は大幅なゲーミング性能の向上に加え、レイトレーシング性能を著しく改善し、新たなAI機能を追加します」と述べ、2025年初頭の発売を確認している。しかし、同時にAMDは次世代製品でハイエンド市場への参入を見送る方針を明確にしている。
この戦略的転換の背景には、現在のディスクリートGPU市場におけるNVIDIAの圧倒的な優位性がある。NVIDIAは現在、市場シェアの88%を占めており、特にハイエンド領域での支配的なポジションを確立している。AMDはこの現実を踏まえ、より競争力を発揮できるミッドレンジおよびメインストリーム市場に経営資源を集中する判断を下したとみられる。
この判断は2025年初頭の市場環境を見据えたものでもある。NVIDIAがRTX 5080およびRTX 5090で最上位市場を押さえる一方、ミドルレンジ市場ではIntelの新世代Arc BattlemageアーキテクチャとRTX 5060が競合として登場する。AMDはこの三つ巴の競争において、価格性能比での優位性確保を目指している。
特筆すべきは、AMDがハイエンド市場から撤退する代わりに、ミドルレンジ市場により洗練された製品を投入しようとしている点だ。RX 8800 XTは、従来のフラッグシップモデルと比較して大幅に電力効率を改善しながら、競合製品と互角以上の性能を実現する見込みである。この「選択と集中」による戦略は、限られた開発リソースを効率的に活用し、より広い市場での競争力強化を図る現実的なアプローチといえる。
Xenospectrum’s Take
今回のリークから見えてくるのは、AMDの現実的な市場アプローチだ。Nvidiaが88%もの市場シェアを握る現状で、最上位市場での消耗戦を避け、価格性能比で勝負できるミッドレンジ市場に賭けるのは賢明な判断と言える。特に、レイトレーシング性能で45%もの向上を実現しつつ、消費電力を大幅に抑えた点は評価に値する。ただし、Intel ArcのBattlemageアーキテクチャも控えており、2025年のGPU市場は三つ巴の戦いとなりそうだ。結局のところ、最後は価格設定が勝負の分かれ目となるだろう。皮肉なことに、AMDの「負けを認めた」とも取れるこの戦略が、最も勝利に近い道なのかもしれない。
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