量子力学を活用した画期的なアプローチにより、従来の電気化学セルでは実現不可能だったスピードで充電することが可能になるかも知れない。
台湾・国立成功大学の研究者らは、高速充電量子電池の基本原理を実用的なシステムに変える新しいプロトコルを考案した。これにより、電池の重ね合わせ状態を活用し、迅速かつ効率的にエネルギーを貯蔵する事が可能になるとのことだ。
量子重ね合わせとエネルギー転送の新たな可能性
量子力学の核心には、あらゆる物質が空間と時間を通じて波のような側面を持っているという概念がある。この波のような振る舞いは、日常の光景からは奇妙に感じられるが、電子、分子と言った極微の世界から、人間、さらには惑星全体といったマクロサイズまで、物体の特性の確率スペクトルを構成する「重ね合わせ」として知られている。
研究者らは、重ね合わせ状態にある物体が、エンジン内部の加熱された環境での粒子のランダムな動きと何か共通点があるかどうかを考察してきた。このような量子特性を利用することで、エネルギーの伝達や保持の新しい方法が見出される可能性があるからだ。
これは概念としては素晴らしいアイデアだが、量子熱エンジンの背後にある理論を実用的な装置に変えるには、多くのエネルギーを無駄にしない適切なプロセスを特定する必要がある。
量子電池の可能性検証
研究チームは、重ね合わせ状態の粒子を用いて量子電池を充電する2つの方法を実験的に検証し、その不確定な状態が実際にエネルギー転送を促進するかどうかを調べた。
リモコンや自動車に電力を供給するものを含む電気化学電池は、金属間の化学反応からエネルギーを蓄積する。しかし、量子電池は量子ビット(qubit)から作られ、光や原子の粒子を動かすような量子過程からエネルギーを取り出す。
国立成功大学の研究者らは、実際の電池を使用する代わりに、実験では重ね合わせ状態の捕捉イオン(量子ビット)を使用した。この量子ビットは、通過する波の種類を制限する反射空間を通過することでエネルギーを蓄積できる。
研究チームは、イオンの波動を2つのビームに分割する装置を通して送り、分割された波動が複数の入射点を通過して1つの空洞に入るときと、複数の空洞に入るときの電池のエネルギー蓄積能力を比較した。
その結果、重ね合わせ状態は効率的な電池充電を可能にするだけでなく、「多くのドアが一つの部屋に通じる」モデルが干渉効果を生じさせることを発見した。これにより、量子電池が充電プロセスのどの時点でも蓄えたエネルギーを仕事に変換できる「完全充電現象」が理論的に実現可能となるのだ。
また、このプロトコルはスケーラブルであり、複数の量子ビットを空洞に送っても干渉効果が持続することが示された。
IBM Quantum PlatformやIonQの量子ハードウェアでこのプロトコルを実行することで、研究者たちは概念実証を行い、このようなシステムが迅速な電池充電と電力回収のための非常に効率的な手段となり得ることを示した。
量子ビットは基本的な物理学をシミュレートできるが、このプロトコルを実用的な電池のようなデバイスに進化させるには新しい方法が必要であり、量子レベルの高速充電が日常のデバイスに実現するまでには時間がかかるだろう。
しかし、この実験は、量子力学が長寿命で急速充電可能なエネルギー貯蔵ソリューションに利用できる可能性を確認している。世界が化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギー源から生成される電力の効率的な貯蔵方法を模索する中で、迅速に大量のエネルギーを吸収できる堅牢な電池の開発は重要性を増すだろう。
論文
- Physical Review Research: Quick charging of a quantum battery with superposed trajectories
参考文献
研究の要旨
我々は、量子軌道の重ね合わせに基づく量子電池の充電プロトコルを提案する。具体的には、1つの量子ビット(電池)が複数の空洞あるいは1つの空洞と様々な位置で相互作用し、空洞が充電器として働くことを考える。さらに、量子重ね合わせ状態で準備された量子制御を導入することで、複数の空洞(マルチチャージャープロトコル)または1つの空洞(シングルチャージャープロトコル)から同時に充電できるようにする。電池の性能を評価するため、エルゴトロピーと呼ばれる最大抽出可能仕事量を評価した。主な発見は急速充電効果にあり、エルゴトロピーの増大が量子制御に最初に存在する量子コヒーレンスに由来することを証明した。さらに、単一充電器プロトコルで誘発される「ディッケ型干渉効果」は、さらに「完全充電現象」を引き起こし、充電プロセス全体にわたって、蓄積されたエネルギーを抽出可能な仕事に完全に変換することを可能にする。さらに、これらの充電プロトコルの回路モデルを提案し、IBMQおよびIonQ量子プロセッサーで原理実証実験を行った。その結果、エルゴトロピーの明確な向上が実証され、我々の理論的予測が検証された。
コメント