中国の主要メモリメーカーChangXin Memory Technologies(CXMT)が、最新鋭のDDR5メモリの量産を開始したことが明らかになった。同社の技術力向上は、Samsung ElectronicsとSK hynixが支配してきたグローバルDRAM市場に新たな競争をもたらす可能性がある。
CXMTの技術的進歩と生産体制
CXMTは最新の第3世代(G3)製造プロセスを用いてDDR5メモリの製造を行っている。このプロセスは17.5nmの配線幅を実現しており、これは現代のメモリ製造において相当に微細な工程といえる。一部の専門家によれば、同社はさらに進んだG4製造技術への移行も検討しているとされる。
製造プロセスの成熟度を示す重要な指標である歩留まりについて、CXMTは80-90%という高水準を達成している。この数値は韓国の主要メーカーであるSamsung ElectoronicsやSK hynixと同等の水準であり、中国企業の製造技術が急速に向上していることを示している。特筆すべきは、韓国企業がDDR4からDDR5への移行に6年を要したのに対し、CXMTはわずか4年でこの技術的飛躍を実現したことである。
この技術的成果は既に実用化段階に入っている。中国国内のメモリモジュールメーカーであるKingBankとGlowayは、CXMTが製造するDDR5チップを採用した32GBメモリモジュールの販売を開始した。これらの製品は「中国製DDR5チップ」として市場で注目を集めており、特に国内市場において好評を博している。DDR5は従来のDDR4と比較してデータ容量が4倍、処理速度が2倍という優れた性能を持ち、デスクトップPCや大規模サーバー、さらにはAI時代の高帯域幅メモリ(HBM)と並ぶ高付加価値製品として位置づけられている。
しかしながら、製造技術面では依然として課題が残されている。特に、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置へのアクセスが米国の輸出規制により制限されているため、CXMTは旧世代の製造装置に依存せざるを得ない状況にある。これは、より微細な回路パターンの形成や消費電力の低減において、技術的な制約として作用している。業界関係者によれば、CXMTの製品は性能面で依然としてSamsungやSK hynixの製品には及ばないとされており、特に大規模な量産体制の確立には至っていないとの見方が示されている。
この技術格差は、特に電力効率や記憶容量の面で顕著であり、CXMTが今後どのようにしてこの技術的ハンディキャップを克服していくかが、注目される点となっている。
市場への影響と課題
世界のDRAM市場は長年、特異な市場構造を維持してきた。2024年第3四半期の市場シェアを見ると、Samsungが41.1%、SK hynixが34.4%、そして米Micronが22.2%を占めており、これら3社で実に75%以上の寡占状態が続いている。この構造の中でCXMTは、生産量ベースでは世界の12%という無視できない存在感を示しているものの、売上高ベースでのシェアは依然として限定的な水準にとどまっている。
この状況に大きな変化をもたらす可能性があるのが、中国国内市場におけるダイナミクスの変化である。特にAIサーバーやPCメーカーの間で、国産メモリへの移行を加速させる動きが出始めている。これは単なる技術的な選択以上の意味を持っており、米中の技術覇権競争が深まる中で、サプライチェーンの安定性や地政学的リスクへの対応という側面も強く持ち合わせている。
注目すべきは、CXMTの価格戦略が市場に及ぼす潜在的な影響である。同社は2023年11月中旬、DDR4メモリを市場価格から50%引きという aggressive な価格で販売し、市場に大きな波紋を投げかけた。この価格は中古DDR4チップよりも安価であり、既存の大手メーカーがDDR4の生産調整を余儀なくされるほどの影響力を持った。このような前例は、DDR5市場においても同様の価格戦略が採用される可能性を示唆している。
ただし、CXMTの市場戦略には複数の制約要因が存在する。最も重要なのは、同社の生産能力の多くが中国国内、特に政府系機関の需要に優先的に割り当てられる可能性が高いことである。また、米国とオランダによる制裁は、同社の生産能力拡大と市場シェア獲得に対して大きな制限として作用している。
さらに市場構造的な観点からは、CXMTの参入が既存の大手メーカーに及ぼす間接的な影響も無視できない。仮に同社が中国市場でシェアを拡大した場合、既存メーカーは余剰となった生産量を他市場に振り向けざるを得なくなる。これは結果として、グローバル市場における競争激化と価格下落圧力として作用する可能性がある。このシナリオは、エンドユーザーにとっては歓迎すべき展開となる一方で、長年にわたって「暗黙の了解」によって維持されてきたDRAM業界の価格統制メカニズムを崩壊させるリスクをはらんでいる。
このような複雑な市場力学の中で、China Economic and Financial Research InstituteのJeon Byung-seo氏は、中国企業の主張の信頼性について慎重な検証の必要性を指摘している。これは単なる懐疑論ではなく、市場の健全性を維持する上で重要な指摘といえるだろう。
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