英国の競争・市場庁(Competition and Markets Authority、CMA)は2024年9月5日、MicrosoftによるAIスタートアップInflection AIからの主要人材獲得を承認した。CMAは、この取引が英国のAI市場における競争を実質的に減少させる可能性は低いと結論づけた。
イギリス競争当局、MicrosoftのAI人材獲得を容認
CMAは、MicrosoftがInflection AIの共同創業者であるMustafa Suleyman氏とKarén Simonyan氏を含む主要従業員を2024年3月に獲得し、新たなAI部門のリーダーに据えたことを「関連する合併状況」と認定した。しかし、詳細な調査の結果、この人材獲得が市場競争に与える影響は限定的であると判断した。
CMAのJoel Bamford執行役員はLinkedInで、「Inflection AIは、Microsoftが直接開発した消費者向けチャットボット(Copilot)や、OpenAIとのパートナーシップで開発したChatGPTに対する強力な競争相手ではありません」と述べ、この判断の根拠を説明した。
調査の過程で、CMAはInflection AIの市場シェアが非常に小さく、チャットボットやAI会話ツールにおける英国のドメインアクセス数がごくわずかであることを確認した。さらに、Inflection AIの感情知能(EQ)に関する機能や製品革新が、競合他社に対して実質的な競争上の制約とはならないと競合他社が認識していることも明らかになった。
AI業界における大手企業の「買収的採用」に規制当局は懸念
今回のMicrosoftによるInflection AI人材の獲得は、単なる従業員の雇用にとどまらない。CMAの調査によると、Microsoftは「Inflectionのチームのほぼ全員」を雇用し、同時にInflectionの知的財産のライセンスも取得した。これにより、MicrosoftはInflectionのAIモデルとチャットボット開発能力へのアクセスを獲得している。
この取引形態は、大手テクノロジー企業が革新的なAIスタートアップの人材と技術を「買収的採用」する最近の傾向を反映している。例えば、Amazonも同様の手法でサンフランシスコを拠点とするAdeptから主要従業員を獲得し、同社のAIシステムとデータセットのライセンスを取得している。
こうした動きに対し、規制当局の注目が集まっている。CMAは現在、MicrosoftのOpenAIへの数十億ドル規模の投資や、AmazonとAI企業Anthropicの提携についても調査を進めている。一方、米国では連邦取引委員会(FTC)が、大手テクノロジー企業とAIスタートアップ間の複数の取引を精査している。
MicrosoftとInflectionの取引は、英国CMAの承認を得たものの、米国FTCと欧州連合(EU)による審査はまだ継続中である。Microsoftの広報担当者は、「CMAが事実関係を調査・検討した結果、Inflectionの従業員の雇用が競争上の懸念を引き起こさないと結論付けたことを喜ばしく思います」とコメントしている。
今回の決定は、AIスタートアップの技術や人材を獲得しようとする大手テクノロジー企業の戦略に対する規制当局の姿勢を示す重要な先例となる可能性がある。今後、各国の規制当局がこうした取引をどのように評価し、AI産業の競争環境をどのように維持していくかが注目される。
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