米国テネシー州オークリッジにおいて、Kairos Power社による画期的な第4世代原子炉「Hermes」の建設が始まった。この革新的なプロジェクトは、米国原子力規制委員会(NRC)から建設許可を得た初の第4世代原子炉であり、50年以上ぶりに非軽水炉の建設が認められた事例となる。Hermesは、先進的な溶融塩冷却技術を採用し、2027年の運転開始を目指している。この取り組みは、クリーンエネルギーの未来に向けた重要な一歩として、エネルギー業界から大きな注目を集めている。
中国に続く2例目の次世代原子炉
Hermes原子炉は、Kairos Power社が開発した蛍光塩冷却高温炉(KP-FHR)技術を基盤としている。この原子炉の最大の特徴は、従来の水冷却方式ではなく、溶融フッ化物塩を冷却材として使用することにある。この革新的な冷却方式は、原子力発電の安全性と効率性を大幅に向上させる可能性を秘めている。
溶融フッ化物塩冷却材は、化学的安定性が非常に高く、高温での熱伝達能力に優れている。これにより、原子炉の運転温度を従来よりも高く設定することが可能となり、熱効率の向上につながる。さらに、この冷却材は核分裂生成物の保持能力が高いため、万が一の事故時にも放射性物質の拡散リスクを低減することができる。
Hermes原子炉では、極めて高温に耐える完全セラミック燃料を使用している。この燃料は、従来の金属製原子炉燃料の融点をはるかに上回る温度でも構造的健全性を維持できる。具体的には、TRISO(TRi-structural ISOtropic)と呼ばれる燃料粒子を使用しており、これらの粒子は多層のセラミックコーティングで覆われている。この設計により、燃料の安全性と信頼性が大幅に向上している。
さらに、Hermes原子炉は受動的安全機能を備えている点も特筆すべきである。この機能により、原子炉停止後の炉心からの熱除去に電力を必要としない設計となっている。つまり、電源喪失などの緊急事態においても、自然の物理法則に基づいて炉心の冷却が行われる。この革新的な安全設計により、従来の原子炉で必要とされていた複雑な緊急時冷却システムが不要となり、原子炉の全体的な安全性と信頼性が飛躍的に向上している。
Kairos Power社のCEOであるMike Laufer氏は、Hermesプロジェクトの意義について次のように述べている。「この原子炉の建設と運転から得られる教訓は、当社のテストプログラムにおけるさらなるイノベーションを可能にし、Kairos Powerの進歩を加速させ、お客様に真のコスト確実性を提供するうえで、非常に貴重なものとなるでしょう」。
Hermesプロジェクトは、米国エネルギー省の先進原子炉実証プログラム(ARDP)の支援を受けており、設計、建設、試運転に最大3億300万ドルの投資が予定されている。また、Kairos Power社は、Los Alamos国立研究所とパートナーシップを組み、原子炉用のTRISO燃料ペブルの製造にも取り組んでいる。この協力関係は、先進的な原子炉技術の実用化に向けた重要な要素となっている。さらに、Tennessee Valley Authority(TVA)とも協力協定を結び、Hermesプロジェクトのエンジニアリング、運転、認可取得に関するサポートを受けている。
Hermes原子炉は、35メガワット熱(MWth)の出力を持つ実証用の非発電原子炉として設計されている。その主な目的は、手頃な価格の原子力熱生産能力を実証することにある。この実証段階を経て、Kairos Power社は2030年代初頭には商業用原子炉の運転開始を目指している。商業化が実現すれば、KP-FHR技術は140メガワット電気(MWe)の出力と45%の高い熱効率を達成できると見込まれている。
中国は最近、世界初の第4世代原子炉である高温ガス炉(HTGR)を搭載した、中国東部の山東省にある四道湾高温ガス炉(HTGR)原子力発電所の拡張にも着手し、昨年12月に商業運転を開始している。この発電所は、先日には意図的に電源を落とすことでその安全性を確認する試験も行われ、この次世代原子炉のメルトダウンへの耐性が示されている。
Hermesプロジェクトの成功は、米国の原子力産業にとって重要な転換点となる可能性がある。クリーンで安全、そして効率的なエネルギー源として、第4世代原子炉技術が果たす役割に大きな期待が寄せられている。同時に、このプロジェクトは、気候変動対策としての原子力の重要性を再確認する機会ともなっている。
Sources
- U.S Department of Energy: Kairos Power Starts Construction of Hermes Reactor
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