Garterの最新レポートによると、生成AIは「過度な期待のピーク」を過ぎ、「幻滅の谷」に突入したという。多くの企業が巨額の投資を行ったにもかかわらず、期待された価値をまだ生み出せていない現状が浮き彫りになっている。
生成AIは「問題を探すハンマー」
Garterのハイプ・サイクルは、新しいテクノロジーの成熟度と採用状況を図式化したものだ。ハイプ・サイクルは「黎明期」から始まり、「過度な期待」のピークまで上昇した後、「幻滅期」に落ち込み、そこで人々は、新技術をハイプ(誇大宣伝)のピークに導いた期待の多くが正当化されるものではなかったことに気づく。 この幻滅の谷から、新技術は「啓発期」へと至り、そこで人々はその技術がどのように有用な形で応用できるかを現実的に再評価し、その後「生産性の安定期」に到達し、そこで新技術は市場に取り入れられ、投資は確実に回収される段階へと至る。
Gartnerの副社長アナリスト、Bern Elliot氏は、生成AIの現状を「問題を探すハンマー」だと、Fierce Networkに語っている。「人々は実際にはできないことの多くを解決できると信じています。残念ながら、OpenAIは素晴らしかったのですが、実際には役に立ちませんでした。本当に何もできないのです」。
だが、こうした状況はAI関連のニュースを追っていた人々にとっては驚きではないかも知れない。Goldman Sachsのレポートでも、生成AIへの巨額の投資が“果たして報われるのか”と疑問が呈されていたことは既にお伝えしたとおりだ。
では、なぜこのようなギャップが生まれたのだろうか。Elliot氏の見解によれば、その背景には生成AIへの注目の急速な変遷がある。2023年初頭、ChatGPTの登場により生成AIへの期待が一気に高まった。その後、春には大規模言語モデル(LLM)に注目が集まり、夏には大規模なソフトウェアサポートの必要性が明確になった。秋にはプロンプト、検索拡張生成(RAG)、ベクトルが話題となり、冬には不適切な使用が明らかになってガバナンスへの注目が集まった。そして最近では、AIエージェントという言葉がバズワードとなっている。
このような急速な変化の中で、生成AIの実際の能力と期待の間にギャップが生じたのではないかと、Garterは指摘している。
生成AIの実用化に向けては、さまざまな課題が浮上している。高度なプロセス自動化などの複雑なタスクへの適用、信頼性の問題、コンテキスト化とAIの接地、コストと遅延の問題、投資対効果(ROI)の正当化、ガバナンスと倫理的懸念、そしてAIインフラストラクチャを稼働させるための電力需要の増加などが挙げられる。
Elliot氏は、生成AIが「幻滅期」を抜け出すためには、「期待が実現可能なものについて現実的になる必要がある」と指摘している。つまり、生成AIの実際の能力と限界を冷静に見極め、具体的な価値を生み出すための戦略を練り直す必要がある。
AIの成熟度をGarterのハイプ・サイクル上で評価することの難しさも、Elliot氏は指摘している。「AIは本当に大きなトピックです」と彼は述べ、「その一部は常にハイプの状態にあり、一部はすでにハイプを過ぎて『生産性の安定期』に入っています」と説明している。 ただ、生成AIがそこに到達する前に、多くのアイデアや企業が失敗するだろうと指摘している。
Garterは生成AIやより広範なAIが失敗して世の中から消えてしまうと言っているわけではない。むしろ同社は、生成AIを「変革的」なイノベーションと位置付けており、業界のダイナミクスに大きな変化をもたらし、今後2〜5年で主流になると予測している。しかし、Elliot氏は「『幻滅の谷』に落ちた技術の中には、そこから出てこないものもある」と警告している。生成AIがこの運命を避けるためには、現実的な期待値の設定と、具体的な価値創出の実証が不可欠だと言えるだろう。
OmdiaのAIプラットフォーム、アナリティクス、データプラットフォーム担当チーフアナリストであるBrad Shimmin氏は、生成AIへの課題や失望がイノベーションを促進していることは明るい兆しであるとも指摘している。特に、大規模なデータセットから関連情報を取得する手法である検索拡張生成(RAG) は、データの有用性を向上させる大きな期待が寄せられている。
Sources
- Gartner: Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2024
- Fierce Network: GenAI sinks into the ‘trough of disillusionment’
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