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Google独占崩壊の危機? 司法省がChrome売却要求、反トラスト訴訟の行方

Y Kobayashi

2025年4月22日

Googleの検索・広告事業における独占的地位を巡る米司法省(DOJ)との独占禁止法訴訟は、今、重大な局面を迎えている。Googleが独禁法に違反したとの判決を受け、その「罰則」を決める是正措置審理が開始されたのだ。司法省はChromeブラウザの売却という抜本的な策を要求しており、「Google解体」とも言える事態に発展する可能性が出てきた。

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独禁法違反認定:Google「有罪」判決の衝撃

この裁判劇の発端は、Googleが検索サービスおよび検索広告市場において、独占禁止法(シャーマン法)に違反し、「意図的に独占力を獲得・維持した」と米連邦地方裁判所のAmit Mehta判事が認定したことにある。2024年のこの判決は、Googleにとって大きな打撃となった。同社は他にも、アプリストア(Google Play)や広告技術(アドテク)を巡る訴訟でも敗北を喫しており、巨大IT企業に対する規制当局の風向きが厳しくなっていることを示している。

今回の是正措置審理は、単なる罰金や事業慣行の変更に留まらない可能性がある。司法省は、Googleの市場支配力を根本的に削ぐための、より構造的な改革を求めているのだ。これは1990年代のMicrosoft訴訟、さらにはそれ以前のAT&TやStandard Oil Companyの解体にも匹敵する、極めて重要な局面と見なされている。事実上、米国のほぼ全ての州が司法省の訴訟に参加していることも、問題の深刻さを物語っている。

政治的な背景も無視できない。現政権下で司法省はGoogleに対して厳しい姿勢で臨んでおり、保守派の間でもGoogleの市場支配力や、それが右派的言説の「検閲」に繋がっている(と彼らが解釈する)ことへの批判は根強い。つまり、政治的な立場を超えて「Googleの独占は何とかすべきだ」という認識が広がっているのである。

司法省のメス:「Google解体」へChrome売却要求

是正措置審理において、司法省はGoogleに対し、極めて厳しい要求を突きつけている。その核心は、Chromeブラウザ事業の売却である。

司法省の主張はこうだ。Chromeは単なるブラウザではなく、Google検索への「重要なゲートウェイ(入口)」である。世界中で圧倒的なシェアを持つChromeを通じて、Googleは膨大な検索クエリ(ユーザーが検索窓に入力する言葉)と検索広告収入を得ている。この強力な入口をGoogleが持ち続ける限り、他の検索エンジン(Microsoft Bing, DuckDuckGoなど)が公正に競争することは困難だ、という論理である。

司法省の弁護士David Dahlquist氏は、「Chromeの売却が完了すれば、競合他社は相当数の検索クエリにアクセスできるようになり、Googleと競争する助けとなるだろう」と述べている。売却先候補として、市場の勢力図を一変させうる複数の企業が存在することも示唆されている。司法省は、Yahoo、DuckDuckGo、Microsoftなどの幹部を証人として呼び、Googleの行為によっていかに自社ビジネスが阻害されたか、そしてChrome売却がいかに状況を改善しうるかを証言させる予定だ。

さらに司法省は、GoogleがAppleやMozillaといった企業に年間数十億ドルもの巨額を支払い、自社検索エンジンをデフォルト(初期設定)にする契約を結んでいる慣行も問題視している。これらの検索デフォルト契約の禁止も要求に含まれる。これにより、競合他社が主要なプラットフォームから締め出され、細々とした市場でしか戦えない状況が作られていると司法省は指摘する。

加えて、競合他社の検索エンジン開発を助けるため、Googleが持つ検索データの共有を求める声もある。これは、Googleが長年蓄積してきたユーザー行動データという「宝の山」の一部を、競争相手にも開放せよという要求に他ならない。

司法省はGoogleのAI(人工知能)であるGeminiが、将来的に検索独占をさらに強化するために利用される可能性も懸念しているようだ。AIが情報検索の方法を変革する可能性があるからこそ、是正措置にはAIに関する規定も盛り込むべきだと主張している。「生成AIは、Googleが(独占の)悪循環を回し続けるための次の進化だ」とDahlquist氏は述べている。

そして、The New York Times紙が報じているように、仮にChrome売却などの措置を実行してもGoogleの支配力が揺るがない場合、司法省はAndroid OS事業の売却という、さらに踏み込んだ要求を検討する可能性すら示唆している。これはGoogleにとってまさに「心臓部」を失うに等しいシナリオであり、「Google解体」という言葉が決して大げさではないことを示している。

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牙城死守へ:Googleの反論と防衛線

当然ながら、Googleは司法省の要求、特にChrome売却に対して猛烈に反発している。Google側の主任弁護士John Schmidtlein氏は、「Googleは公正かつ正当に市場での地位を獲得した」と主張。司法省の提案は過剰介入であり、劣った製品を持つ競合他社を不当に利するだけだと反論している。

Googleの主な反論ポイントは以下の通りだ。

  1. 製品の優位性: ユーザーがGoogle検索やChromeを選ぶのは、単にそれらが最も優れた製品だからである。AppleやMozillaも、品質の高さを理由にGoogleをデフォルトに選んでいると主張するだろう。実際、両社の代表者がGoogle側に立って証言する予定だ。特にMozillaは収益の大部分をGoogleからの契約金に依存しており、Googleはその事実を「Mozillaの存続、ひいてはユーザーの選択肢を守るため」と正当化するだろう。ただし司法省は、これらの企業がGoogleから巨額の支払いを受けていることから、証言の信頼性には疑問符が付くと指摘する可能性が高い。
  2. Chrome売却への強い反対: Googleは、Chromeを売却すれば、その開発やセキュリティが損なわれ、オープンソースプロジェクトであるChromium(Chromeの基盤技術)が崩壊し、結果的にWeb全体のイノベーションやユーザーの選択肢が後退すると警告する。Googleは自社の製品やサービスへのアクセスを容易にするという目標があるからこそ、Chromeを無料かつオープンに保つインセンティブがあるが、新たな所有者にその保証はない、と主張するだろう。GoogleはChromeを「オープンウェブの善良な管理人」として位置づけようとするはずだ。
  3. プライバシーとセキュリティへの懸念: 司法省が求めるデータ共有は、ユーザーのプライバシーを危険に晒し、セキュリティ上のリスクを高めるとGoogleは主張する。国家安全保障上の懸念も、近年Googleが強調している点だ。
  4. AI開発への影響: 司法省の要求(特に自己取引の制限)が、急速に進歩するAI分野でのGoogleの競争力を削ぐ可能性があると懸念している。Googleは、この訴訟が10年前の検索市場に焦点を当てすぎていると批判し、むしろ現在はOpenAIのような新興勢力に追い上げられている側面すらアピールするかもしれない。

GoogleにとってChromeは、単なるブラウザ以上の存在だ。それはGoogleの各種サービス(検索、Gmail、マップ、YouTubeなど)への入口であり、ユーザーデータを収集し、広告事業を支えるエコシステムの中心的なハブである。これを失うことは、Google帝国の重要な一部を失うに等しい。だからこそ、Googleはあらゆる手段を尽くしてChrome売却を阻止しようとするだろう。

歴史は繰り返すか? 巨大IT独占の行方と市場への影響

この裁判は、単にGoogle一社の問題に留まらない。過去の巨大企業の独占禁止法訴訟がそうであったように、テクノロジー業界全体の競争環境、イノベーションのあり方、そして私たちユーザーがインターネットをどのように利用するかに、長期的な影響を与える可能性がある。

かつてのAT&T分割(1980年代)がなければ、その後のシリコンバレーの隆盛、ひいてはGoogle自身の誕生も違った形になっていたかもしれない。歴史的に見て、独占の打破は、停滞ではなく新たな競争とイノベーションを促進してきた側面がある。GoogleやMeta(Facebook)のような巨大企業は、かつての「破壊的イノベーター」から、市場を支配し新規参入を阻む「門番」へと変貌したのではないか、という批判は根強い。

裁判のスケジュールとしては、是正措置審理が数週間続き、早ければ2025年の夏頃(8月まで)にMehta判事による最終的な是正措置の決定が下される見込みだ。しかし、それで終わりではない。Googleは判決を不服として控訴する方針を明確にしている。控訴審で争っている間、是正措置の実行が一時停止される可能性もある(Google Play訴訟の現状と同様)。

Chrome売却のような根本的な事業構造の変更は、もし控訴審でGoogleが勝訴した場合に元に戻すのが極めて困難であるため、最終的な決着までには長い年月がかかる可能性が高い。

とはいえ、この裁判の行方は、Googleにとって「ダモクレスの剣」のようなものだ。特に、毎年恒例の開発者会議Google I/Oを目前に控え、自社の主要事業の将来に不透明感が漂う状況は好ましくないだろう。もしGoogleがChromeを失ったり、主要なプラットフォームでのデフォルト検索エンジンの地位を失ったりすれば、インターネットの勢力図は確実に変化する。広告収入への影響はもちろん、検索エンジンやブラウザ市場の競争が活性化し、新たなサービスが登場するかもしれない。一方で、Googleが警告するように、ウェブ標準の分断やセキュリティレベルの低下といった負の側面が現れる可能性も否定できない。

確かなことは、今後数週間、そして数ヶ月の動向が、Googleという企業の、そしてインターネットの未来にとって、過去20年間で最も重要な意味を持つということだ。私たちは歴史の転換点を目撃しているのかもしれない。


Sources

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