Googleは米国司法省(DOJ)との独占禁止法訴訟において、検索エンジン市場での違法な独占を是正するための救済策を提案した。Apple等とのデフォルト検索エンジン契約の修正を中心とする一方で、ChromeやAndroidの売却には反対の姿勢を示している。
救済策の核心はデフォルト検索契約の柔軟化
Googleが提案した救済策の中心は、ブラウザ企業との契約形態の抜本的な見直しである。特にAppleやMozillaといった主要ブラウザ企業との関係において、従来の排他的な契約から柔軟な選択を可能とする新たな枠組みへの移行を目指している。
具体的な変更点として、ブラウザ企業は異なるプラットフォームで別々のデフォルト検索エンジンを採用することが可能となる。例えばAppleの場合、iPhoneではGoogleを、iPadでは別の検索エンジンをデフォルトとして設定できるようになる。また、これらの企業は12ヶ月ごとにデフォルト検索エンジンを見直す機会が与えられる。裁判所も12ヶ月という期間については「反トラスト法の観点から合理的」との見解を示している。
Android端末メーカーに対する規制緩和も重要な要素となっている。新たな提案では、メーカーは複数の検索エンジンを事前にインストールすることが可能となり、ChromeやGoogle検索を搭載せずとも他のGoogle製アプリを独立して提供できるようになる。これにより、MicrosoftなどのライバルプラットフォームがAndroid端末への搭載を競争入札できる機会が広がることになる。
ただし、この提案には収益分配モデルの根本的な変更は含まれていない。特にAppleとの関係において象徴的なのが、2022年に明らかになった200億ドルという巨額の契約金額である。この事実はAppleのサービス部門上級副社長であるEddie Cue氏の証言によって明らかとなった。新提案下でも、このような収益分配の仕組み自体は維持される見通しである。
Googleはこれらの変更について、「パートナー企業に一定のコストを強いる」としながらも、裁判所の判断に沿った必要な譲歩であると位置付けている。しかし競合のDuckDuckGoの広報担当者Kamyl Bazbaz氏は、この提案が実質的に現状を維持するものであり、市場競争の真の回復には不十分だと批判している。
司法省との対立点
司法省とGoogleの対立は、救済措置の範囲と深さをめぐって先鋭化している。司法省は検索市場における競争回復のため、より抜本的な構造改革を求めている。具体的には、ChromeブラウザとAndroidオペレーティングシステムの売却、デフォルト検索エンジンとしての地位を確保するための支払いの全面的な停止、さらにはライバル企業への検索技術のライセンス供与や検索結果の共有を要求している。
これに対してGoogleは、規制担当のLee-Anne Mulholland副社長を通じて強い反発を示している。同社は司法省の提案について、裁判所が違法と認定した検索エンジンの配信契約という範囲を大きく逸脱していると指摘。特に、ユーザーの検索クエリを国内外のライバル企業と共有する要求については、プライバシーとセキュリティ上の重大な懸念があると主張している。
Googleはさらに、法的な観点からも司法省の要求の妥当性に疑問を投げかけている。同社は裁判所に提出した文書で、救済措置は「違反行為と同じ種類または分類のものでなければならない」とする判例を引用。司法省の提案は、この原則に反する過度に介入主義的なアプローチだと批判している。
特にChromeブラウザの売却要求については、ブラウザのセキュリティを損なう可能性があるとして強く反対している。Googleは、ChromeとAndroidの分離は技術革新を阻害し、結果的にアメリカの世界的な技術リーダーシップを損なう恐れがあると主張。特に人工知能が急速に進化する現在の状況下では、そのリスクが一層深刻だと訴えている。
このような対立の背景には、市場競争の本質に関する両者の認識の違いがある。司法省が構造的な分離による競争環境の創出を重視するのに対し、Googleは技術革新と投資による自然な市場発展を擁護している。同社は、ユーザーが強制されているのではなく、優れた検索品質を評価して自発的にGoogleを選択していると主張。生成AIの台頭による検索市場の急速な変化も、過度な規制介入への慎重さを求める根拠として挙げている。
この両者の対立は、2025年4月に予定される救済措置を巡る審理で焦点となる。この審理では、OpenAIやAI検索スタートアップのPerplexity、そしてMicrosoftからの証人喚問も予定されており、検索市場の将来像を左右する重要な議論の場となることが予想される。最終的な判断は2025年8月までに下される見通しだが、その決定は検索エンジン市場だけでなく、デジタル産業全体の競争のあり方に大きな影響を与えることになるだろう。
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