沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積教授が、半導体製造における画期的なEUV(極端紫外線)リソグラフィー技術を提案した。この革新的な技術は、半導体産業に多大な利益をもたらす可能性を秘めている。従来のEUVリソグラフィ装置と比較して、小型のEUV光源で動作し、消費電力を10分の1以下に抑えつつ、信頼性と寿命を劇的に向上させることが可能だという。
“コロンブスの卵”
新竹教授が提案する技術の核心は、わずか2枚の鏡で構成される革新的な投影機の設計にある。従来のEUVリソグラフィ装置が6枚の鏡を使用していたのに対し、この新設計では鏡の数を大幅に削減することで、システムの簡素化と効率化を実現している。
新竹教授は、この技術について「この発明は、このあまり知られてこなかった諸課題をほぼ完全に解決できる画期的な技術です」と説明する。従来のEUVリソグラフィー技術では、複雑な光学系と高い消費電力が課題となっていた。これらの問題は、装置の設置コスト、メンテナンス費用、そして電力消費量を大幅に増加させる要因となっていた。
新竹教授の設計による2枚鏡システムは、これらの課題に対して革新的な解決策を提示している。従来のシステムでは、EUV光源からウェハーまでのエネルギー透過率がわずか1%程度だったのに対し、新システムでは10%以上にまで向上させることに成功した。これは、鏡の数を減らすことでEUV光の損失を最小限に抑えた結果である。
さらに、この効率化により、EUV光源の出力を従来の10分の1程度に抑えることが可能となった。これは単に消費電力の削減だけでなく、装置全体の簡素化、コスト削減、そして信頼性の向上にもつながる重要な進歩である。具体的には、従来のシステムが約1MWの電力を消費していたのに対し、新システムでは80kW程度まで削減できる可能性があるという。
新竹教授はこの技術のブレークスルーを、「一見不可能に思えるかもしれませんが、『コロンブスの卵』のようなアイデアで問題を解決しました。例えるなら、2つの懐中電灯を左右の手に持ち、正面の鏡に向かって斜めから同じ角度で光を当てます。このままでは、一方の懐中電灯から出た光は必ず反対側の懐中電灯に当たってしまい、リソグラフィーには使えません。そこで、懐中電灯の角度を変えずに左右の手の位置を外側にずらせば、光は反対側の懐中電灯と衝突することなく通過できるのです」と説明する。2つの懐中電灯は対称に配置され、同じ角度でマスクを照らすため、平均してマスクは正面から照射され、EUVリソグラフィー特有の問題であるマスク3D効果を最小限に抑えることに成功したのだ。
新システムのもう一つの特筆すべき点は、曲面マスクの導入可能性である。これにより、さらなる性能向上が期待できるという。曲面マスクの採用は、従来の平面マスクでは困難だった光学的な制約を克服し、より高精度な露光を可能にする可能性がある。
OISTのイノベーション部門を率いるGil Granot-Mayer副学長は、この技術の意義について「OISTは人類に影響を与える最先端の科学の創造に取り組んでいます。この革新は、不可能を探求し、独創的な解決策を提供するというOISTの精神を具現化しています」とコメントしている。
新竹教授の技術は既に特許出願されており、今後は実証実験を通じて実用化が期待されている。新竹教授によれば、世界のEUVリソグラフィ市場は2024年の89億ドルから2030年には174億ドルに成長すると予測されており、年平均成長率は約12%に達する見込みだという。この予測は、半導体産業における本技術の潜在的な経済的価値の大きさを示している。
この新技術は、半導体産業に大きな経済的利益をもたらす可能性があるだけでなく、エネルギー消費や脱炭素化といった地球規模の課題解決にも貢献する可能性を秘めている。半導体製造プロセスの効率化は、製造コストの削減だけでなく、環境負荷の低減にも直結する重要な課題である。新竹教授の技術は、この両面からのアプローチを可能にする点で、特に注目に値する。
論文
参考文献
- 沖縄科学技術大学院大学:エネルギー効率を飛躍的に高める革新的なEUVリソグラフィー先端半導体製造技術を発表
研究の要旨
本論文では、簡素化された照明システムを持つ、シンプルで低コストかつ高効率な2ミラープロジェクターについて述べる。 現行の6ミラーEUVプロジェクターシステムと比較して、EUV光源電力を1/10に削減できる。 必要なEUVパワーは、毎時100枚のプロセススピードで20ワットである。 提案するインラインプロジェクターは、0.2NA(20mmフィールド)および0.3NA(10mmフィールド)を達成し、DUVプロジェクターと同様の円筒チューブ構成で組み立てられるため、機械的安定性に優れ、組み立て/メンテナンスが容易である。 EUV光は、回折コーンの両側に配置された2つの細い円筒ミラーを通してマスクの前に導入され、平均的な法線照明を提供し、マスクの3D効果を低減します。 簡素化された照明システムは、対称的な四重極の軸外照明を提供し、中心部のオブスキュレーションを回避して空間分解能を向上させ、ケーラー照明も実現する。 理論上の分解能限界は24nm(20mmフィールド)、画像縮小係数x5、物体像距離(OID)2000mm。 曲面マスクでは、ツール高さを(OID)1500mmまで下げることができ、解像度16nm(10mmフィールド)が得られる。 最新のチップレット技術だけでなく、モバイルアプリケーション向けの小型ダイサイズのチップ製造にも適している。
コメント