米国のJohns Hopkins Applied Physics Laboratory(APL)の研究者らは、従来の繊維と同じように通気性があり、伸縮し、選択も出来るバッテリーおよび太陽光発電繊維を開発する新しいスケーラブルな方法を確立した事を発表した。
繊維に直接織り込むことができるこうした繊維電池の開発は、ウェアラブルとスマート繊維の新しい可能性を切り拓く画期的な物である。
革命的なウェアラブルの実現に繋がる可能性
「電子繊維の需要が変化する中で、再利用可能で耐久性があり、伸縮性のある小型の電源が必要です。私たちのビジョンは、太陽光を電力に変換する太陽エネルギー収集繊維と、生成された電力を繊維内に蓄えるバッテリー繊維を開発することです」とAPLの物理学、電子材料およびデバイスのアシスタントプログラムマネージャーであり、このプロジェクトの主任研究員であるKonstantinos Gerasopoulos氏は述べている。
繊維電源(バッテリーや太陽光発電性能を繊維に編み込んだもの)の想像される用途は多岐にわたる。例えば、これまでかさばるバッテリーが必要だった心拍モニターは、繊維電源で作られた服を着るだけでバッテリーを用いる必要が無くなり、患者の利便性は上がるだろう。また、寒い環境での暖房を提供する服の開発や、バッテリーと太陽光発電の繊維を編み込んで、戦場で兵士にハンズフリーの音声とビデオの録画を提供したりすることも可能になるかも知れない。
だが、繊維電池の開発には様々な問題がついて回った。まず製造の問題だが、繊維電池の製造には工業用繊維設備が使用されてきた。だがそうした設備は往々にして巨大であり、電池産業と互換性のない特殊な設備に限定されている。
次に、繊維電池は電極が一般的に撚り合わされているため、電極表面のほとんどが不活性になり、性能が低下するという問題もあった。
今回の進歩の鍵は、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)セパレーターの開発にある。これにより、従来のバッテリー電極のラミネーションが加熱ローリングプレスを使用して可能になると言う。
このアプローチには層のラミネーションとレーザー加工が含まれており、幅が650〜700µmの繊維電池を設計することができる。
ラミネートされたストリップはレーザーカットされて繊維が形成され、エネルギー密度が繊維の長さ1センチメートルあたり最大0.61ミリワット時のエネルギーを蓄えることができることが示された。
これらの繊維電池はロール・ツー・ロール方式で装備するようにも設計されており、この新しいアプローチにより、工業用繊維設備を用いる必要も無くなり、活性材料の最適な利用、非活性材料の少ない含有量、スケーラビリティ、広く使用されているバッテリー業界の設備との互換性が実現されたという。
「私たちは常にロール・ツー・ロールの互換性を念頭に設計していました。すべてのプロセスを継続的に実行できなければ、私たちが開発したものは関連性がありません。このプロセスは既存の製造ラインに組み込むことができます」と、研究の主任著者であるRachel Altmaier氏は述べている。
バッテリー機器は薄くスケーラブルな繊維にカスタムメイドされ、アノードとカソード電極のラミネートされたフラットストリップを積み重ね、ポリマーセパレーターを含むロールツーロールプロセスで加工された。これが薄い繊維にレーザーカットされた。
「5時間ちょっとで合計100メートルの繊維を加工することができました。私たちのプロセスでは、繊維をより小さく、エネルギー密度を高くすることができ、繊維の用途をさらに広げる可能性があります」と、APLのエンジニアであり、この論文の共著者であるJason Tiffany氏は述べている。
繊維電池とは異なり、太陽光発電繊維は従来の太陽電池技術が適応され、柔軟な回路基板に組み込まれた。太陽光発電セルはポリマーでカプセル化され、繊維に組み込むことが可能であった。広範な曲げや長時間の太陽光への曝露にもかかわらず、この方法は高性能と耐久性を提供することが証明された。
「現在の太陽電池技術の最大の課題はその硬直性です。屋根にあるような太陽電池を小さな太陽光繊維に縮小することは非常に困難です。私たちは標準的なマイクロエレクトロニクス製造プロセスを使用して、現在の硬直した太陽電池技術を柔軟で耐久性のある繊維に変える革新的なアプローチを開発しました。繊維を8000回曲げた後でも、その性能には変化が見られませんでした」と、太陽電池論文の主任著者であるMichael Jin氏は強調した。
この新しい研究は、繊維電池技術におけるパラダイムシフトを示しており、高性能なウェアラブルおよびテキスタイル電子機器の実現への道を開くものと言える。
「光エネルギー収集とバッテリー繊維を統合した新たな繊維は、今日のウェアラブルが達成できることを革命的に変える可能性があります。これらの繊維は、通常の繊維の快適さと使いやすさを提供しながら、分散型の布地ベースの電力、加熱、通信、センシングを可能にするでしょう」と、APLの研究および探査開発部門の研究プログラムエリアマネージャーであるJeff Maranchi氏は述べている。
論文
- Advanced Materials Technologies: High-Linear-Energy Layered Fiber Batteries Using Roll-to-Roll Lamination and Laser Cutting
- Advanced Functional Materials: Scalable Crystalline Silicon Photovoltaic Fibers for Electronic Textile Applications
参考文献
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