Intel暫定共同CEOのMichelle Johnston Holthaus氏が、QualcommのSnapdragon X Elite搭載PCの返品率の高さを指摘し、これに対してQualcommが真っ向から反論する事態となった。Arm版Windowsの普及を目指すQualcommと、x86アーキテクチャの牙城を守ろうとするIntelの対立が鮮明になっている。
返品率を巡る両社の主張
Intel暫定共同CEOのMichelle Johnston Holthaus氏は、Barclays主催の第22回年次テクノロジーカンファレンスにおいて、Qualcommのプロセッサを搭載したPCの返品問題について強い懸念を表明した。同CEOは、小売業者との直接的な対話を根拠として、「小売業者に話を聞けば、誰もが返品率の高さを最大の懸念事項として挙げている」と指摘。具体的には、ユーザーが新しいPCをセットアップする際に、一般的なアプリケーションとの互換性の問題に直面し、期待通りの動作が得られないことが返品の主な理由であると説明している。
これに対してQualcommは迅速な反論を展開した。CRNの取材に対して同社の広報担当者は、「当社のデバイスの返品率は業界標準の範囲内に収まっている」と明確に否定。さらに、消費者レビューでは一貫して4つ星以上の評価を維持しており、業界からも数々の賞賛を受けていると強調した。実際に、Amazonでの評価を確認すると、Snapdragon X Elite搭載システムは概ね4つ星以上の評価を獲得している。
しかし、この評価データの解釈には注意が必要だ。ソフトウェアの互換性の問題やクラッシュによって不満を抱いたユーザーは、そもそもオンラインでレビューを投稿する時間を割かない可能性が高い。そのため、現在の高評価は、実際のユーザー満足度を完全に反映していない可能性がある。
また、Qualcommは今回の論争を、より大きな市場展望の文脈に位置づけようとしている。同社の見解では、今後5年以内にノートPCの30%から50%がx86以外のプラットフォームに移行すると予測しており、現在の返品率の問題は、新しいアーキテクチャへの移行期における一時的な課題として捉えている。このような長期的な視点は、現在の返品率を巡る議論に新たな解釈の余地を提供している。
市場シェアと今後の展望
現在のPC市場において、QualcommのSnapdragon X Elite搭載機は極めて限定的な存在感にとどまっている。2024年第3四半期のデータによると、同プロセッサを搭載したPCの市場シェアはわずか0.8%に過ぎない。この数字は、ARM系プロセッサを搭載したクライアントPC全体の市場シェア約10%と比較しても、かなり小さな割合となっている。
この10%という数字の大部分を占めているのが、AppleのM系列プロセッサを搭載したMacシリーズだ。Appleは独自の統合されたエコシステムを活用し、ソフトウェアとハードウェアの緊密な連携によって、ARM系プロセッサへの移行を比較的スムーズに実現している。Johnston Holthausも「Appleは自社のOSと囲い込まれたエコシステム全体でARMを普及させるための重要な基盤作りを行った」と認めている。
しかし、この状況は今後大きく変化する可能性がある。Qualcommは楽観的な見通しを示しており、今後5年以内にノートPC市場の30%から50%がx86以外のプラットフォームに移行すると予測している。この予測は、当初同社CEOが示唆していた「Windows PC市場の半分がARMベースになる」という見通しからやや後退したものの、依然として大きな市場変革を示唆している。
さらに注目すべきは、2025年に予想される市場構造の変化だ。IntelのJohnston Holthausは「2025年には、これまで以上に多くの競合他社が市場に参入してくる」と予測している。この発言は、MediaTekやNVIDIAがARM版Windows PC向けのシステムオンチップ(SoC)市場に参入するという噂を裏付けるものとして受け止められている。これらの企業は、1980年代から2000年代初頭にIntelが直面していた競合他社よりもはるかに大きな存在であり、競争は一層激化すると予想される。
また、Windows 10のサポート終了が近づいていることも、市場動向に影響を与える可能性がある。Windows 11へのアップグレードに伴い、ユーザーは意図せずしてAI PCを採用することになるかもしれない。第3四半期にはAI PCの出荷台数が全PC出荷台数の20%を占め、第2四半期から49%増加している。この成長は主にIntelとAMDのx86プロセッサによって牽引されているものの、QualcommのSnapdragon X搭載機がMicrosoft Copilot機能をいち早くサポートしたことは、同社の戦略的優位性を示している。
両社の対応戦略
Intelは性能と電力効率の向上に注力。Johnston Holthausは「Lunar Lake製品で大きな飛躍を遂げ、現在ではほとんどのARM機器と同等の性能とバッテリー寿命を実現しています」と述べている。
一方のQualcommは、Microsoft CopilotのAI機能をいち早くサポートするなど、次世代機能での優位性を確保。バッテリー持続時間の長さでも高い評価を得ている。
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