かつて世界の半導体産業をリードしていた日本が、長年の停滞を経て、再び技術革新の最前線に立つべく大胆な一手を打っている。政府は過去3年間で270億ドル以上を半導体産業に投資し、国際協力を軸とした新たな産業政策を展開している。この動きは、中国の産業政策の成功や世界的なサプライチェーンの脆弱性への懸念を背景に、各国が自国産業の保護と育成に乗り出す中で起こっている出来事だ。
「失われた30年」からの脱却を目指す日本の戦略
日本経済産業省が「失われた30年」と呼ぶ長期停滞期間を経て、日本政府は経済再生と技術革新の主導権回復に向けた多角的な取り組みを開始した。その中心となるのが、バッテリーや太陽光パネルなどの先端技術分野、特に半導体産業の再興だ。
自由民主党の重鎮で元経済産業大臣の甘利明氏は、「将来、世界は半導体を供給できる国と、それを受け取るだけの国の2つのグループに分かれる。これが勝者と敗者だ」と半導体産業の重要性を強調する。甘利氏はまた、過去の教訓を踏まえ、「今回は最初から国際パートナーと協力している」と、日本の新たなアプローチを説明している。
この新戦略の中核を担うのが、北海道に建設中のRapidus社の最先端半導体工場だ。政府の巨額投資を受けたこのプロジェクトは、日本のスタートアップ企業Rapidusと米国テクノロジー大手IBMの異例の協力関係によって進められている。
Rapidus×IBM: 2ナノメートル技術で世界をリードする
Rapidus社の東哲郎会長は、2020年夏にIBMの長年の幹部John E. Kelly IIIから受けた一本の電話が、この画期的なプロジェクトの始まりだったと振り返る。IBMがニューヨーク州オールバニーの研究所で開発した2ナノメートル技術を日本で生産したいという提案だった。
この協力関係は、パンデミックによる半導体不足やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーコスト高騰など、世界的な供給網の脆弱性が露呈したタイミングで始まった。日本政府は2021年により積極的な産業政策を導入し、長年の停滞の主な原因を政府の過度な規制緩和や経済への不介入姿勢にあったと分析している。
欧州委員会のエコノミスト、Alessio Terzi氏は、「日本はゼロから始める必要がない。これが他国と一線を画す点だ」と指摘する。日本の産業政策の歴史的成功と、IBMとの戦略的提携により、Rapidus社の新工場は世界最先端の半導体生産拠点となる可能性を秘めている。
この取り組みは、単なる技術革新にとどまらず、日本の経済再生と国際競争力の回復を象徴する重要なプロジェクトとなっている。世界の半導体産業の勢力図が塗り替えられる中、日本の新たな挑戦が今後どのような成果を生み出すか、世界中から注目が集まっている。
Source
- The New York Times: Japan tries to reclaim its dominance as leader of global tech industry
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