ベンチャーキャピタルファームのAndreessen Horowitz(a16z)が発表した最新の消費者向けAIアプリランキングで、業界の勢力図が大きく変化していることが明らかになった。前回2024年8月の調査から17の新企業が上位50に参入し、ChatGPTが急成長を再開する一方、中国発のDeepSeekが突如として第2位に台頭。AIビデオ生成やデベロッパーツールなど、新たな成長分野も浮上している。
地殻変動が進むAIアプリ市場:17社が新たに上位に食い込む
a16zの「Top 100 Gen AI Consumer Apps」は半年ごとに更新される消費者向けAIアプリのランキングで、今回が4回目の発表となる。このランキングは、Similarwebによる月間ユニークビジット数に基づくWeb製品上位50と、Sensor Towerによる月間アクティブユーザー数に基づくモバイルアプリ上位50で構成されている。
今回の調査では方法論に重要な変更が加えられた。CanvaやNotionなど、後からAI機能を追加した製品は対象から除外され、AIネイティブ(AIを中核とした)製品のみに焦点を当てている。これにより、従来含まれていたPixlr、Fotor、PicsArtなどの従来型の写真編集製品もランキングから外れた。


また今回から、「あと一歩で上位100に入る」10社を予測する「Brink List」が導入された。ここに名を連ねるRunwayやLovableが、6ヶ月後のランキングでどう動くかも注目ポイントだ。
ChatGPTの成長が再加速、半年で利用者数が倍増
調査によると、ChatGPTの成長率が再び急上昇していることが明らかになった。週間アクティブユーザー数は2023年11月の1億人から2024年8月には2億人に達し、2025年2月中旬には4億人へと半年で倍増している。これは、2023年3月から2024年4月まで利用者数がほぼ横ばいだった状況からの大きな変化だ。

a16zによれば、この急成長の背景には、OpenAIによる新機能の継続的な導入がある。特に大きな成長は以下の製品マイルストーンと一致している:
- 2024年4-5月:GPT-4oの導入(マルチモーダル機能を追加し、ユーザーがリアルタイムで会話したり、画像を見せたりして即座に対応可能に)
- 2024年7-8月:Advanced Voice Modeのローンチ(より自然な音声会話を実現)
- 2024年9-10月:o1モデルシリーズのデビュー(推論と問題解決能力を大幅に向上)
モバイルデータも一貫した成長を示しており、Sensor Towerの推計によれば、ChatGPTの4億週間アクティブユーザーのうち、約1億7500万人がモバイルアプリを使用しているという。ただし、最近になって成長が再び停滞し始めている可能性も指摘されている。

中国発DeepSeekの急速な台頭、わずか10日で世界第2位に
今回の調査で最も驚くべき発見の一つが、DeepSeekの急速な台頭だ。2025年1月20日に公開チャットボットをローンチしたばかりにもかかわらず、わずか10日で全AI製品の世界第2位にランクインした。

中国のヘッジファンドHigh-Flyerによって開発されたDeepSeekは、ChatGPTが禁止されている中国での利用が最も多く(全体の21%)、次いでアメリカ(9%)、インド(8%)が続く。一方で、韓国、オーストラリア、台湾など一部の国や、いくつかの米国州の政府機器では禁止または制限されている。
DeepSeekの成長速度を見ると、ローンチから100万ユーザーに到達するのに14日かかり(ChatGPTの5日よりも遅い)、しかし1000万ユーザー達成は20日でChatGPTの40日を大幅に上回った。モバイルでも1月25日にローンチしてわずか5日で14位に入り、2月には2位まで急上昇。ChatGPTのモバイルユーザーベースの15%を獲得している。
Sensor Towerのデータによれば、DeepSeekユーザーのモバイルでのエンゲージメントは、ユーザーあたりのセッション数や週平均使用時間で、PerplexityやClaudeのユーザーをわずかに上回るものの、ChatGPTには依然として大きく及ばない。

DeepSeekの技術・研究コミュニティにおける成長は、推論ベンチマークでの優れたパフォーマンスと、競合他社と比較して大幅に低いトレーニングコスト(わずか560万ドル)という衝撃的な主張によって牽引された。この主張はより広範なメディアの注目を集め、AIにおける「スプートニク・モーメント」に関する議論を生み出した。Googleトレンドによれば、DeepSeekに対する世界的な検索関心は1月27日にChatGPTに匹敵し、米国ではそれを上回ったという。
AIビデオ生成が実用段階へ、3社が新たにランクイン
長らく「絵に描いた餅」だったAIビデオ生成技術が、ついに実用の領域に到達した。上位50位圏内に、中国のHailuo(12位)、Kling AI(17位)、OpenAIのSora(23位)という3つの新興プレイヤーが一気に登場。これまでの画像生成AIの進化と比べても、その進歩のスピードは加速している。
中国のビデオモデルであるHailuo(MiniMaxモデルシリーズの製作者)とKlingは、それぞれ2024年6月と9月にローンチした。2025年1月の時点で、両社は月間訪問数でSoraを上回っている。Soraは2024年2月に最初にプレビューされたものの、一般向けのリリースは2024年12月までなかった。
注目すべきは、各プレイヤーが独自の得意分野を持ち始めていることだ。Soraは長尺ビデオの自然な動きに優れ、Hailuoはプロンプトへの忠実度が高く、Klingはカメラワークやリップシンクなど細部制御が得意という棲み分けが進んでいる。
AIを活用したビデオ編集も引き続き主要な消費者向けAIのユースケースとなっており、インテリジェントなクリッピング、キャプション作成、その他の時間のかかるプロセスを「ワンクリック」ソリューションに簡素化している。Veed(36位)とClipchamp(45位)がウェブランキングに入り、モバイルではB612(12位)、VivaCut(15位)、Filmora(19位)などのハイブリッドビデオ・写真編集アプリが最も多く代表されている。収益面では、Splice、Captions、Videoleapが最も成功しているアプリとなっている。
「AIビデオ生成は2025年のブレイクスルー技術になる可能性がある」とテクノロジーアナリストは予測する。ただし、高性能なモデルほど処理コストも高く、Googleの未発表モデル「Veo 2」は1秒あたり0.50ドルという料金設定だ。「当面はコスト面から企業用途が中心となり、一般消費者向けには機能を絞った廉価版が並行して発展するだろう」という見方が強い。
開発者向けツールとテキスト→ウェブアプリプラットフォームが急成長
過去6ヶ月で急速に台頭してきたのが、「コードの書き方を知らなくても何かが作れる」というコンセプトの開発ツールだ。そのアプローチは大きく二つに分かれる。
一つは、プログラマー向けの「エージェンティックIDE」と呼ばれる新世代の開発環境。Cursorに代表されるこれらのツールは、コードの自動補完だけでなく、バグの検出や複雑なアルゴリズムの生成まで担う。「AIペアプログラミング」とも言えるこの手法は、経験豊富な開発者の生産性を劇的に向上させている。
もう一つは、非技術者向けの「テキスト→Webアプリ」プラットフォーム。「こんなアプリが欲しい」と自然言語で指示するだけで、動作するWebアプリを生成する。Bolt(48位)やLovableが代表格だ。
これらの製品が今登場している理由としては、モデルが実行可能なコードを生成できるようになったこと、Webフレームワークが成熟したこと、ResendやClerk、Supabaseなどの企業のライブラリやSDKを活用できることなどが挙げられる。
この2つのプロダクトタイプのユーザーベースには一部重複がある。技術に精通したユーザーは、プロトタイピングやダウンロードして洗練できるコードの生成のためにテキスト→Webアプリプラットフォームを使用することがある。

「この二つのカテゴリは、将来的には融合する可能性がある」とa16zのアナリストは指摘する。実際、Bolt利用者の23%がCursorも使用しているというデータは、「アイデアをBoltで素早くプロトタイプ化し、Cursorで細部を調整する」という新しい開発ワークフローの出現を示唆している。
人気と収益の相関関係:MAUの多さが必ずしも収益に直結せず
Sensor Towerのデータが示す興味深い事実がある。月間アクティブユーザー数(MAU)で上位に入るアプリと、最も収益を上げているアプリの一致率はわずか40%だ。この乖離は、AIアプリビジネスの複雑な成功方程式を物語っている。
例えば、ビデオ編集カテゴリーでは、MAUトップ3(VivaCut、Filmora、Beat.ly)と収益トップ3(Splice、Captions、Videoleap)が完全に異なる。「マス市場向けの使いやすさを追求するアプリと、専門家向けの高度な機能を提供するアプリでは、ビジネスモデルそのものが異なる」という市場の二極化が進んでいる。
また、植物識別(PictureThis)、栄養管理(Cal AI)、言語学習(Speak)といった特化型アプリは、利用者数では上位に入らないものの、収益面では存在感を示している。「AIは万能よりも特化の時代に入りつつある」という市場の成熟を示す兆候だ。

皮肉なことに、ChatGPTの名前や外観を模倣した「コピーキャット」アプリも、MAUと収益の両方で12%という無視できないシェアを維持している。「正規品よりも安価で同等のサービスを提供するという虚偽の約束が、一定のユーザー層に訴求している」という厳しい現実も明らかになった。
消費者AIの未来:分散と統合の同時進行
a16zの調査が明らかにしたのは、消費者向けAIアプリ市場における「分散と統合の同時進行」という複雑な動態だ。ChatGPTのようなスーパーアプリが機能を拡張し続ける一方で、特定の用途に特化した専門アプリも着実に市場シェアを獲得している。
「現在のAIアプリ市場は、1990年代後半のインターネット黎明期や、2010年代前半のモバイルアプリ革命期と類似した発展パターンを示している」と歴史的視点から分析できる。つまり、現在の群雄割拠状態から、今後数年で勝者と敗者が明確に分かれていくというシナリオだ。
特に注目すべきは、地域間の競争激化だ。DeepSeekの台頭が示すように、中国発のAIプロダクトが急速に国際市場でシェアを拡大している。「AIモデルの性能は、もはや巨額の資金力だけでは決まらない」という新しいゲームのルールが形成されつつある。
消費者にとっての朗報は、この競争激化がイノベーションを加速させていることだ。わずか6ヶ月前には夢物語だったAIビデオ生成が実用化し、非プログラマーでもアプリ開発ができる時代が到来した。「AIの民主化」は着実に進行しており、その恩恵はあらゆる分野に広がりつつある。
Source
- Andreessen Horowitz: The Top 100 Gen AI Consumer Apps 4th Edition