米Microsoftは、中国AIスタートアップDeepSeekの推論モデル「R1」をAzureクラウドサービスで提供開始した。同モデルは先週発表されたばかりで、OpenAIの主力モデル「o1」と同等性能ながらコストは約1/30と発表されて業界に衝撃を与えていた。OpenAIがDeepSeekを「利用規約違反」と非難した直後の決定に、AI業界の競争構造の変化が浮き彫りとなっている。
コスト競争力で注目浴びるR1
DeepSeek R1は「推論モデル」と呼ばれるタイプのAIで、質問への回答生成前に論理的思考プロセスをシミュレートする機能を備える。中国企業が開発したオープンソースモデルで、OpenAIの推論モデル「o1」と同等の性能を維持しながら、出力100万トークン当たりのAPIコストを2.19ドルに設定。対するo1の60ドルと比べ約97%のコスト削減を実現している。
Azure AI Foundryでは既に1800以上のAIモデルを提供しており、開発者が自由に選択できる環境を整備。Microsoft広報は「あらゆる優れたAIイノベーションをAzureで加速する」とコメントしている。クラウド利用料で収益を得る同社にとって、モデル選択の是非よりもインフラ利用促進が優先課題との見方が強い。
OpenAIのCEOであるSam Altman紙は、競合の出現を前向きに捉える姿勢を示している。Altmanは「DeepSeekのR1は印象的なモデルで、特に価格に対して提供できる性能は注目に値する」とツイートし、「我々はさらに優れたモデルを提供する」と述べている。
Microsoftも本日からCopilotユーザー向けにo1の無償提供も開始しており、プラットフォーム戦略を強化している。
「蒸留」技術を巡る論争
MicrosoftによるR1のホスティング決定は、OpenAIがDeepSeekに対して提起した重大な懸念と時期が重なる。OpenAIは、DeepSeekが自社のChatGPTの出力を使用して独自のAIモデルを訓練する「蒸留(distillation)」を行い、利用規約に違反したと主張している。この疑惑は、DeepSeekの以前のモデルが自身を「ChatGPT」と称する事例が発見されたことで強まった。
さらに注目すべきは、Microsoftの社内セキュリティチームが、2024年秋にDeepSeekがOpenAIのAPIを通じて大量のデータを抽出した可能性について調査を開始したという報道だ。このような状況下でのホスティング決定は、業界に波紋を広げている。
また、この事態は、AI業界におけるデータ所有権の問題も浮き彫りにしている。OpenAI自身も、The New York Timesから著作権侵害で提訴されており、AIトレーニングにおけるデータ利用の正当性について、業界全体で一貫した立場を示せていない状況だ。
Source
- Microsoft Azure: DeepSeek R1 is now available on Azure AI Foundry and GitHub
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