NASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)が、人類史上最も太陽に近づいた探査を成功させた。12月24日のクリスマスイブに太陽表面から約610万キロメートルまで接近し、その後、日本時間27日14時59分(世界協定時:26日23時59分)までに正常な動作を示す信号の送信に成功した。
史上最高速度と最接近記録を更新
パーカー探査機は今回のフライバイで、従来の太陽探査機の7倍以上近い距離まで太陽に接近し、複数の記録を塗り替えた。日本時間:12月24日午後8時53分(世界協定時:11時53分)、探査機は太陽表面からわずか約610万キロメートルの地点を約69万km/時という驚異的な速度で通過した。これは水星の軌道よりもはるかに内側であり、人類が製作した物体として最も太陽に近づいた記録となる。
探査機が経験した環境は極めて過酷なものだった。太陽からの強烈な熱と放射線に耐えるため、パーカー探査機は11.43センチメートルの特殊な炭素複合材製の耐熱シールドを装備している。このシールドは最大約1,371℃という極限環境下での観測を可能にする設計だが、実際の飛行では予想を下回る約982℃の温度環境であったことが報告されている。
ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のミッション運用マネージャーであるNick Pinkine氏は「人類が作った物体がこれほど恒星に近づいたことは過去にない。パーカーは本当に未知の領域からデータを送り返すことになります」と、この快挙の歴史的意義を強調している。探査機は12月20日から地球との通信が途絶えた自動観測モードに入っており、最接近から2日後の26日深夜(世界協定時)になってようやく正常動作を示す信号の送信に成功。この信号は、探査機が過酷な環境を乗り越えて生還したことを示す重要な証となった。
特筆すべきは、今回の接近飛行中にパーカー探査機が太陽表面に直接つながる高温のプラズマの噴出現象を観測できた可能性が高いことだ。太陽表面の活動が活発化している現在の時期に、太陽風や太陽嵐といった現象の異なる種類の観測データが得られることへの期待が高まっている。
科学的な意義と期待される成果
NASAの科学部門責任者であるNicola Fox氏が「完全な『やった!成功だ!』の瞬間」と表現したこのミッションには、太陽物理学における複数の重要な謎を解明する可能性が秘められている。最も注目すべき研究課題は、太陽コロナの加熱メカニズムの解明である。太陽の表面から離れるほどコロナの温度が上昇し、数百万度に達する現象は、従来の物理学では十分な説明がつかず、太陽物理学における最大の謎の一つとされてきた。
また、パーカー探査機は太陽風の発生源を直接観測する初めての機会を得た。太陽風は太陽から継続的に放出される荷電粒子の流れであり、地球の磁場や通信システムに重大な影響を及ぼす。これまでの観測で、探査機は太陽風の構造の起源を特定し、太陽大気の外側境界の詳細なマッピングに成功している。太陽風は地球の磁場と相互作用し、オーロラのような美しい現象を生み出す一方で、大規模な粒子放出は地球の磁場を乱し、電力網や通信システムに深刻な障害を引き起こす可能性がある。
さらに、高エネルギー粒子が光速近くまで加速される謎の解明も期待されている。ノーサンブリア大学のJulia Stawarz博士は「Parker太陽探査機の測定結果は、宇宙時代の始まり以来、私たちが抱いてきた太陽とその拡張大気の振る舞いに関する最も基本的な疑問のいくつかに答えを出してくれるだろう」と、このミッションの画期的な意義を強調している。
今回の最接近飛行で得られたデータは、2024年1月1日に詳細なテレメトリーデータとして地球に送信され、その後1月下旬には科学観測データや画像が送られてくる予定だ。これらのデータは、太陽物理学の理解を大きく前進させる可能性を秘めている。特に太陽表面の活動が活発化している現在の時期に、太陽風や太陽嵐といった多様な現象の観測データが得られることは、研究者たちの期待を一層高めている。
NASAのLiving With A Starプログラムの重要性
パーカー太陽探査機のミッションは、NASAが推進するLiving With A Starプログラムの象徴的なプロジェクトとして位置づけられている。このプログラムは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が宇宙の最遠方を探査する一方で、地球にとってより身近で直接的な影響を持つ太陽系内の現象解明に焦点を当てている。メリーランド州グリーンベルトのゴダード宇宙飛行センターが管理するこのプログラムは、太陽-地球間の相互作用が地球上の生命や社会にどのような影響を与えるかを包括的に理解することを目指している。
プログラム科学者のArik Posner氏は、Parker探査機のミッションについて「これは、私たちの宇宙に関する長年の疑問に答えるため、誰も成し遂げたことのないことに挑戦するNASAの大胆なミッションの代表例である」と評価している。この発言は、単なる技術的な挑戦以上の、人類の知的好奇心と科学的探求の本質を表現している。
Parker探査機は故Eugene N. Parker博士の名を冠している。Parker博士は太陽風の存在を理論的に予言した先駆的な科学者であり、探査機の命名は太陽物理学における基礎研究の重要性を象徴している。7年間で24回の太陽周回軌道を完了する計画の下、現在21回目の周回を終えたパーカー探査機のミッションは、まさに完遂に向けた最終段階を迎えている。
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