テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

NVIDIA、ヒューマノイドロボット向け新チップ「Jetson Thor」を2025年投入へ – AI革命の次のステージを見据える

Y Kobayashi

2024年12月31日

NVIDIAが2025年前半、ヒューマノイドロボット向けの新型コンピュータシステム「Jetson Thor」を発表する計画であることが明らかになった。時価総額3兆ドルを超える半導体大手が、AIチップ市場での競争激化を見据え、次なる成長領域としてロボティクス市場に本格参入する。

スポンサーリンク

「物理的AI」の転換点を狙うNVIDIA

NVIDIAのロボティクス部門バイスプレジデントであるDeepu Talla氏は、ロボティクス市場が歴史的な転換点を迎えていると指摘する。「物理的AIとロボティクスにおけるChatGPTモーメントが、まさに目前に迫っている」というTalla氏の発言には、深い含意が込められている。それは、ChatGPTが言語モデルの可能性を一般大衆に示し、産業界に大きな転換をもたらしたように、ロボティクス領域でも同様の革新的な転換点が近づいているという見方だ。

この見通しの背景には、ロボティクス市場の急速な成長予測がある。市場規模は現在の780億ドルから2029年までに1,650億ドルへと、実に2倍以上の成長が見込まれている。特筆すべきは、この成長がAI技術の進化と密接に結びついていることだ。従来のロボティクスが産業用途を中心に発展してきたのに対し、次世代のロボティクスはAIによる自律的な判断や、より複雑な環境への適応能力を特徴としている。

NVIDIAがこの市場でプラットフォームリーダーを目指す背景には、同社特有の技術的優位性がある。AIチップ開発で培った並列計算技術は、ロボットの動作制御やリアルタイムな環境認識に不可欠だ。さらに、同社が持つシミュレーション技術と生成AI技術の組み合わせは、ロボット開発における重要な課題の一つである学習効率の向上に大きく貢献する可能性を秘めている。

Talla氏が「ティッピングポイント」という表現を用いたのは、これらの技術要素が揃い、実用化に向けた環境が整いつつあることを示唆している。実際、業界ではGoogle DeepMindやFigure AI、Apptronikなど、主要テクノロジー企業や新興企業がヒューマノイドロボットの開発に着手しており、まさに市場が立ち上がりつつある段階にある。NVIDIAは、このタイミングでJetson Thorを投入することで、次世代ロボティクスのプラットフォーム構築において主導的な立場の確立を目指しているのだ。

包括的なロボティクススタック構築への取り組み

NVIDIAは、ロボット開発に必要となる包括的な技術基盤の構築を着々と進めている。同社のアプローチの特徴は、ハードウェアからソフトウェア、そして開発環境まで、ロボット開発に必要な全要素を一貫して提供する点にある。

その中核となるのが、DGXシステムによる基盤モデルのトレーニング環境だ。このシステムでは、大規模な計算能力を活用して、ロボットの基本的な動作や環境認識のための機械学習モデルを効率的に訓練することができる。特に注目すべきは、このシステムが生成AIモデルの学習にも対応している点で、これによりロボットはより柔軟な環境適応能力を獲得できる可能性がある。

次に重要な要素が、Omniverseシミュレーションプラットフォームである。この環境では、物理法則に基づいた精密な仮想空間内でロボットの動作をテストし、改良することが可能だ。Deepu Tallaによれば、過去1年間でシミュレーションと実世界とのギャップは大きく縮小しており、2年前には実現不可能だった方法での学習が可能になってきているという。

そして、これらのソフトウェア基盤を実際のロボットで動作させるのが、現行のJetsonハードウェアプラットフォームであり、来年投入予定のJetson Thorである。現在のJetsonシリーズは、すでにAIアプリケーション向けの単板コンピュータとして実績があり、最新モデルのJetson Orin Nano Superは250ドル未満という価格で提供されている。新たに開発中のJetson Thorは、特にヒューマノイドロボット向けに最適化され、より複雑な制御や認識処理を実現するための計算能力を備えることが期待されている。

このような総合的なアプローチの背景には、ロボティクス市場特有の課題がある。ロボットの開発には、機械学習モデルの構築、実環境での検証、ハードウェアの制御など、多岐にわたる技術要素の統合が必要となる。NVIDIAは、これらの要素を一貫したプラットフォームとして提供することで、開発者の負担を軽減し、イノベーションの加速を目指している。実際、Figure AIやApptronikなどの新興企業が既にNVIDIAの技術を採用し始めており、このアプローチの有効性が実証されつつある。

スポンサーリンク

Xenospectrum’s Take

NVIDIAのこうした動きは、AMD等との競争激化により、現在売上高の88%を占めるAIチップ事業への依存度を下げる必要性に迫られていることから、次なる市場を開拓しようという動機から起こっていることは確かだ。しかし、より本質的には、計算能力とソフトウェアスタックを組み合わせた「プラットフォーム戦略」の展開と見るべきだろう。

Figure AIやApptronikへの投資に見られるように、NVIDIAは直接的なロボット製造は行わず、プラットフォームプロバイダーとしての立場を確立しようとしている。この戦略は、GPUでの成功体験を踏襲したものだ。ただし、ロボティクス市場特有の課題—例えば実世界での動作の複雑さ—が、どこまで現在のAIアプローチで解決できるかは、依然として未知数である。


Source

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする