パワー半導体分野で長年解けていなかった課題がある。GaN(窒化ガリウム)トランジスタは優れた電力変換性能を持つが、制御回路はシリコンチップとして別個に製造するしかなかった。2つのチップ間の信号遅延と実装コストが、GaNの潜在能力をシステム全体で引き出すことを妨げていた。

Intel Foundryが2025年12月のIEEE IEDM(国際電子デバイス会議)で発表したチップレットは、この構造的な壁を取り除いた。厚さわずか19μmという、人間の髪の毛(約100μm)の5分の1以下の微細なシリコン基板の上に、GaN電力トランジスタとシリコン・デジタル制御回路を同一の製造プロセスで焼き込む。業界初の「モノリシック・オンダイ・デジタル制御」の実現だ。折しもTSMCがGaN生産からの撤退を進める中、このタイミングでの発表は偶然ではない。ファウンドリ市場で空いたその席に、Intelが技術的な切り札を持って入ってきたのだ。

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GaNとシリコンを髪の毛1/5の薄さに収める技術の中身

GaNは高温・高電圧・高周波で動作できる一方、デジタル制御ロジックはシリコンCMOSプロセスで製造する必要があった。この2種類の製造プロセスをひとつの基板に共存させようとすれば、それぞれの最適条件が干渉し合う。GaNデバイスの製造温度・材料特性は、シリコン制御回路の微細加工と根本的に相性が悪い。これが、GaN電力デバイスとその制御ICが長年「別ダイで実装する」しかなかった理由だ。

Intel Foundryが採用した解法は、300mmウェハー上のGaN-on-シリコン基板に「層転写プロセス」を組み合わせた手法だ。GaN N-MOSHEMT——高電子移動度トランジスタを指す——とSi PMOS(P型金属酸化膜半導体)を同一の300mmウェハー上に並列配置し、同一の配線層で接続する。チップレットの薄型化には「SDBG(Stealth Dicing Before Grinding:研削前ステルスダイシング)」と呼ばれる手法を用いる。ウェハー内部にレーザーで微細な破断線を形成した後に機械研削を行うことで、完全に配線処理済みの300mmウェハーを損傷なく19μmまで薄くすることが可能になった。

ゲート長30nmという微細化水準が、このアーキテクチャの性能を決定づける。制御回路のフットプリントをGaN層と同等まで圧縮できたのはこの数値があってこそだ。遮断周波数300GHz超、インバーター動作33ピコ秒という性能数値は高周波パワーデバイスとして実用域に達していることを示し、耐圧78Vでリーク電流ゼロという特性が電源回路としての実用性を担保する。

従来のGaN設計では、GaNトランジスタと制御ICを別ダイで実装するとき、ボンドワイヤまたはフリップチップの接続抵抗と寄生インダクタンスが電力変換効率を削る。モノリシック統合でこの経路が消える。制御信号のループが同一ダイ上で完結することで、スイッチング応答の遅延が構造的に排除される。

TSMCが去り、Intelが来る——パワーGaN市場の地殻変動

パワーGaN市場は2024年の3.55億ドルから2030年には30億ドル規模(CAGR 42%、市場調査会社Yole Group予測)へ急拡大する局面にある。TSMCのGaN事業撤退はこの成長市場で生じた大きな空白だ。先端ロジック(2nm以降)への集中投資という資本配分の論理とはいえ、2027年までに生産を完了するスケジュールは、既存顧客に代替調達先の確保を迫っている。

この空白に動くのがInfineonだ。同社は300mmウェハーでのGaN量産サンプルを2025年Q4に開始する計画を公表している。300mmウェハーへの移行はコスト構造に直結する。200mmウェハー比でダイ面積当たりの生産コストは約40%削減できると業界では試算されており、Infineonが量産に移行すれば、GaNデバイスの価格帯はシリコンMOSFETに接近する。

GlobalFoundriesはTSMCからGaN関連の技術ライセンスを取得し、米国内生産体制の構築を進めている。米国防総省の調達要件(国内製造優先)が追い風になっているとみられ、防衛・レーダー向け需要の取り込みを狙う構図だ。

Intelの立ち位置はこれらとは異なる。Infineonはデバイスメーカーとして自社製品の製造に向けて300mmを整備するが、Intel FoundryはIDM(垂直統合型半導体メーカー)2.0戦略、かつての自社製品専業から外部顧客向けファウンドリサービスへの転換の一環として動いている。x86プロセッサ市場でTSMCに先端製造を依存する構図が続く中、パワーGaNという新しい土俵で技術的優位を持ち込む動機がここにある。Intel Foundry Technology Research上級副社長のSanjay Natarajan氏は「Intel Foundryはこれからも半導体業界のロードマップを定義し、形成し続ける」と述べており、GaN統合技術はその文脈での競争資産だ。

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AIデータセンターとEVが変える:19μmチップの応用と今後の競争

AIデータセンターの電源設計は、GaN応用として最も規模の大きい領域だ。大規模GPU/NPUクラスターでは1ラックあたりの消費電力が数十kWを超え、電力変換効率の数パーセントの差が年間電気代と冷却コストの数億円単位の差につながる。GaNは同じ電流容量でシリコンMOSFETより導通抵抗(Rds(on))が低く、スイッチング損失も小さい。IEDMでの発表がファウンドリ向けプロセス技術として提示されたことは、データセンター向けVRM(電圧レギュレータモジュール)設計者への直接的なシグナルだ。

電気自動車(EV)の充電インフラでは、スイッチング周波数を上げるほど変換器の受動部品(コンデンサ・インダクタ)を小型化できる。GaNのオンダイ制御統合は、高周波動作時のスイッチングノイズを抑制しながら効率を維持する設計を単一ダイで実現する。充電器の体積削減はそのまま搭載コストに響くため、EV向けでの採用が現実になれば価格競争力に直結する。5G/6G基地局の高周波出力増幅器では制御統合がプリドライバ設計を簡素化し、防衛・レーダー向けではGaN-on-SiのTRSOI構造が耐放射線性の改善にも寄与する。

競争の焦点は今後3年で誰が300mmプロセスを量産規模に引き上げるかだ。Infineonは量産サンプルのスケジュールを公表し、GlobalFoundriesは国内調達需要を背景に整備を進める。Intel FoundryはIEDM発表でプロセス技術を外部設計者に開示した以上、顧客獲得の段階に踏み込んでいる。技術的先行性は証明されており、問われるのは商業化の速度だ。Intelがどの顧客を最初に確保するかが市場の構図を決める——パワーGaN市場の2030年に向けた地図は、そこから描き直される。


Sources